オリラジ中田の「良い夫やめた」宣言 対人コミュニケーションの専門家の見解は?

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2018年11月12日 18:02  新刊JP

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『アドラー式働き方改革 仕事も家庭も充実させたいパパのための本』(小学館クリエイティブ刊)の著者、熊野英一氏
職場での対人関係は問題がないのに、家庭では夫婦喧嘩が絶えない。
逆に、夫婦や子どもとの関係はとても良好に育めているのに、職場の対人関係は上手くいっていない。「仕事と家庭の両立」という言葉がありますが、両方の対人関係を円満に築けている人は、意外に少ないのかもしれません。

そんな職場と家庭のコミュニケーションは、「共感ファースト」というひとつのキーワードで改善することができると説くのが「幸せになるための働き方改革」を提言している、株式会社子育て支援代表取締役の熊野英一さん。

熊野さんは 『アドラー式働き方改革 仕事も家庭も充実させたいパパのための本』(小学館クリエイティブ刊)を上梓し、アドラー心理学をベースにしたコミュニケーション術によって職場と家庭の対人関係を改善し、仕事と家事・育児の生産性を上げる方法を解説しています。

インタビュー前編では、熊野さんに職場と家庭を充実させ、幸せな生活を送るためのアドラー心理学のポイント「共感ファースト」についてのお話をうかがいました。後編となる今回は、アドラー心理学の対人コミュニケーションを身につける方法についてのお話をうかがいます。

・インタビュー前編を読む

(取材・文:大村佑介)

■対人コミュニケーション改善は「お稽古」だと思って意識する

――職場でやっている対人コミュニケーションが家庭ではできていない。その逆に、家庭でやっていることが職場でできていない。そういう状態ができてしまうのにはどのような理由があるのでしょうか?

熊野英一さん(以下、熊野):それは「思い込み」にあるのかなと思っています。本当は職場と家庭は分ける必要がないし、対人関係という意味では、家族も仕事の上での関係も、全部一緒なんですね。

お互いがわかろうとし合う。お互いがリスペクトし合う。お互いに負担感がなく、言いたいことが言えるという関係であれば、それが仕事の話であれ家庭の話であれ、コミュニケーションは上手く前に進んでいきます。

でも、なぜか私たちは、子どもと接する時にはこういう態度、パートナーが相手だとこういう態度、お客さんのときはこう、上司のときは下から、部下のときは上から目線で……みたいに、相手によって視線や態度を変えるということを、なんとなく学んできてしまっているんです。

でも、本当はそうではないんだということにぜひ、気づいてもらいたいんですね。
相手が誰でも、いつでも、自分の対人コミュニケーションは一緒。誰に対しても丁寧に、リスペクトする。「あの人って、いつも誰に対しても丁寧だよね」という人になったほうが、使い分けもしなくていいから簡単なはずです。

仕事で成功していらっしゃる方は、誰に対しても腰が低かったり丁寧だったりしますよね。
それは別に遜ってうまいことやろうと考えているわけではなく、誰に対しても丁寧に接することの意味がわかっているからやっている。そういう方にお会いすると、そのことがよくわかります。

――見せかけではなく「できる」というのが大事ですね。

熊野:そうです。やはり下心を持っていたらダメなんですよ。
「丁寧にすれば自分の話を聞くんじゃないか」「商品を買ってくれるのではないか」といった下心があると必ずバレてしまうから、下心なく、本当に人として、人に対して丁寧にするんだっていう、まさに人としての在り方が問われる、ということですよね。

――アドラー心理学の幸せの3条件に「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」がありますが、これらを身につけるために、日頃から家庭や職場でできることはありますか?

熊野:まず、コミュニケーションの改善は「お稽古」だと思ってほしいんです。

よく野球の素振りに喩えるんですが、イチロー選手はバットにボールを当てるのがものすごく上手いですよね。そのイチロー選手ですら、素振りという初心者がやる練習を今も毎日やっている。

コミュニケーションもやっぱり毎日の積み重ねの練習が重要です。いつも「お稽古」だと思って、自分の振舞いや態度を見直すことが一番大事だと思っています。最初は朝と晩だけでもいいから「共感ファースト」を思い出して意識する。その頻度を少しずつ増やして、どんなときも「共感ファースト」がチラつくようにする。それだけでかなり変わってきます。

もうひとつ大事なことが、肩肘を張らないことです。僕は、冗談の意味も込めて「ジャマイカの教え」と言っているんですが。「じゃ、まぁいっか」という(笑)時間や心に余裕がないときは、共感ファーストが実践できないこともあります。そのとき「自分は全然ダメだな」とへこたれても仕方ありません。だから、「疲れていたし、慌てていたし、心にゆとりがなかったな」と不完全な自分を受け止めて、OKを出す。そして、「次に共感ファーストができればいいよね」と思い直す。満点を目指すのはいいけど、満点を取れなくてもOKとする。これが大事ですね。



■「良い夫やめた」宣言の背後にある問題の本質

――満点を取らないということで言えば、最近、お笑いコンビ・オリエンタルラジオの中田敦彦さんが「良い夫をやめます」宣言をされ、話題になりました。

熊野:私もそのニュースを拝見して、彼に伝えたいポイントがあります。まず、「完璧を目指しすぎない」というところは良いことだと思っています。

中田さんのお話は「パートナーの求めに応じて完璧を目指そうとしていたら、相手がどんどんわがままになって、自分も苦しくなっていった」ということですよね。それはアドラーの幸せの3条件で振り返ってみると、「他者貢献」の部分が「“自己犠牲を伴う”他者貢献」になってしまっていたということだと思うんです。

彼の話も「自分はこんなにやってあげているのに!」という訴えに聞こえました。それに対してパートナーも「私もこんなにやっているじゃない」となっている。お互いに「自分はこんなに頑張っている」という「わかってほしい」のせめぎあいになっていることが問題の本質なんです。

お二人の間に何が欠けているかというと、やっぱり「共感」なんですよ。
だから、中田さんが気づいて欲しいのは、自分の大変さや犠牲感を一回横に置いて、パートナーの立場に立って「なんで、オレがこんなに頑張っているのに文句を言うの? 何がイヤなポイントなの?」ということを、彼女の目で見て、彼女の耳で聴いて、彼女の心で感じた先に、見えてくる世界があるよ、ということなんです。

中田さんは、典型的な頭のいい人、仕事ができる人の過ちのパターンに陥っているように感じます。彼はずっと彼の頭の中のロジックで、彼女をジャッジしているように思えます。だから「すごく理不尽だ」と思ってしまう。そこから脱皮しないと、夫婦関係も悪くなりますし、あのまま論破していこうと思ったら、結構大変なことになるかも。論破はできたけど、お互いの心は離れていった、ということにもなりかねません。

そこは、特に働くパパは要注意です。どこかで気づいてくれたら、と思いますね。

――近年では「イクメン」という言葉が流行しています。子育てにおいてパパがやってしまいがちな子育てに対しての誤解や間違いはありますか?

熊野:子育てでイクメンパパがやってしまいがちなポイントは「上から目線」です。
これは先ほどの中田さんの話にも通じるところがあるんですけれど、「オレはイクメンだ」「子どもに上手にかかわってあげている」「オレは仕事もデキる」「お金も稼いでいる」――そんな「〇〇してあげている」という上から目線が諸悪の根源になり得ることに気をつけて欲しいですね。

――そう考えると「イクメン」という言葉自体が、働くパパにステータスを与えて上から目線を助長させているかもしれませんね。

熊野:そうかもしれませんね。イクメンを、ある意味ファッションとして捉えて、「イクメンのオレってカッコいいだろう」というアピールすることは、奥さんからも不評でしょう。

子育てのガジェットにばかり興味がいきすぎて子どもの気持ちになっていないとか、パートナーの気持ちになっていない。そういう似非イクメンには要注意です。

――最後に、仕事も家庭も充実させたいパパにメッセージをお願いします。

熊野:「とにかくシンプルに考えよう」ということが一番のメッセージです。
コミュニケーションを難しく考えない。家庭も職場も同じことをやればいい。相手が男でも女でも同じことをやればいい。相手が大人でも子どもでも、相手の立場や属性が違っても、やっぱり同じことをやればいい。

共感ファースト。リスペクトする。そして、お互いに分かり合おうとするというシンプルな原則で対人関係を構築するというのが最大のメッセージです。ぜひ、今回の本を読んでそのことを知ってほしいと思います。


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