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トランプを追い込む疑惑のサウジ皇太子

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2018年11月13日 15:32  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<ジャーナリストの死で「改革派」皇太子のダークな一面が暴露され、トランプとクシュナーの中東政策が窮地に>


「素晴らしい一日だった」――昨年5月、大統領就任後初の外遊先に選んだサウジアラビアに到着し、まさに王侯貴族並みの厚遇を受けたドナルド・トランプ米大統領は、満足げにそう語ったものだ。


オバマ前政権時代、両国の関係はどちらかといえば冷え込んでいた。当然、トランプはその逆を行く。明日からのサウジアラビアは「アメリカに巨額の投資」を行い、中東和平における重要なパートナーとなる、それが私の「戦略的ビジョン」だ。そう豪語した。


これを聞いて大げさに喜んでみせたのはトランプの娘婿で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー。彼はサウジの実質的な指導者となったムハンマド・ビン・サルマン皇太子(33)と親密な関係を築いてきた。


アメリカにとって、国内外で何かと評判の悪いサウジと組むのは大きな賭けだった。それでもクシュナーは、サウジを取り込むことには特別な価値があると言い張った。


若き皇太子をアメリカの味方に付けておけば、いざトランプ政権がパレスチナ紛争の「解決策」を提示したとき、きっと影響力を行使してアラブ諸国を説得してくれるだろう。そうすればトランプは、パレスチナに平和をもたらした大統領として歴史に名を残すことができる......。


それから1年半がたつ今、その若き皇太子のせいでトランプ政権は政治的・外交的な砂嵐に巻き込まれている。サウジ出身でアメリカを拠点に活動していたジャーナリストのジャマル・カショギ殺害に、ムハンマド皇太子が関与した疑いが晴れないからだ。


この皇太子は改革派とされるが、その手法はかなり乱暴だ。17年にレバノンの現職首相サード・ハリリを監禁して辞任を強要した疑いがあり、隣国カタールを経済封鎖で孤立させ、イエメン内戦には軍事介入している。


サウジ側の公式発表によれば、皇太子はカショギ殺害を命じておらず、一部の工作員が勝手に、ただし「計画的に」カショギを殺害したにすぎない。


二転三転するサウジ側の主張には、アメリカ議会もいら立ちを募らせている。トルコの検察当局が持つ証拠などから皇太子の関与が疑われる以上、トランプ政権は何らかの対応をすべきだという声が高まっている。イエメンでの空爆作戦で子供を含む多くの一般市民に被害が出ていることへの反発もあり、サウジ軍に対する米軍の支援をやめるべきだとの要求もある。


さすがのトランプ政権も、こうした声を無視はできない。マイク・ポンペオ米国務長官は、カショギ殺害事件の容疑者と特定されたサウジ国籍者21人のビザを剥奪すると発表した。トランプ自身も、殺害の裏に「誰か」がいるとすれば皇太子だろうとの推測をあえて否定はせず、これは「史上最悪の部類に入る隠蔽工作」だとも語っている。


期待の星から危険因子に


それでもトランプはサウジとの親密な関係を維持したい。だから何とかして皇太子を推定無罪で済ませたいようだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙に語った「彼を信じたい」という言葉がその証拠だ。


トランプの計算をさらに複雑なものにしているのが、サウジと自らのビジネス上のつながりだろう。サウジでの投資や事業を否定しているトランプだが、大統領になる前の15年には、サウジの顧客から「4000万ドルか5000万ドル」ほど稼がせてもらったと発言している。


10月下旬にCNNの公開討論番組に出演したクシュナーも、事件に関するサウジ側の説明が二転三転していることを問われると、こうかわした。「見掛けでは分からないことがある。中東でもワシントンでもそうだ。今回の件も、偏見を持たずに見なければならない」


そうは言っても、かつてアメリカの期待の星だった皇太子が一転して障害物となりかけている事実は否定できない。イランを孤立させ、パレスチナ和平で「世紀の取引」を実現する、そのためにアラブの盟主たるサウジアラビアを取り込むというトランプの筋書きは破綻寸前だ。


もちろんアメリカは長年にわたり、サウジアラビアを中東における戦略的パートナーと見なしてきた。だからこそサウジの超保守的な宗教がもたらす好ましくない症状(9.11同時多発テロの実行犯の多くがサウジ国籍だったことなど)には目をつぶって同盟関係を維持する一方、武器や石油の取引では大いに稼がせてもらってきた。


もちろんアメリカは他の湾岸諸国とも良好な関係にある。しかし中東問題研究所のトーマス・リップマンに言わせれば、そうした諸国は「経済的にも軍事的にもサウジアラビアにかなわない」し、アメリカの兵器購入や石油市場への影響という点でも比較にならない。ブルッキングズ研究所の中東専門家ブルース・ライデルも「(サウジに代わる)選択肢はない」と言う。


リップマンによれば、アメリカの中東戦略には地域の安定促進、イランとの対決、石油の安定供給、イスラエルの保護、投資機会の創出、テロ組織との戦いといった要素が含まれる。サウジは少なくとも名目上、こうした目標に貢献している。


だが皇太子のダークな一面が明らかになった今、アメリカ政府も「サウジを頼りにできない同盟国、不利益をもたらす存在と考える可能性がある」と、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院のカミーユ・ペキャスタンは指摘する。


ちなみに「それはサウジアラビアを格下げし、イランへの関与を選んだオバマ政権の立場だった」と彼は言い、こう続けた。「トランプ政権はイランと対決し、サウジを支持する姿勢に戻った。無謀な行動をしないようにサウジを導くこともできたはずなのに」


昨年11月、ムハンマド皇太子は反腐敗運動の一環と称して政府高官や王族数十人を一斉検挙した。この行動は改革者としての皇太子の名声に傷を付けた。そしてカショギ殺害事件でイメージはさらに悪化した。


「今は次々に間違いを犯しながらも国内外の支持を取り付けているが、いつまでも続くとは思えない」とリップマンは言う。皇太子は自分の国際的なイメージを汚しただけではない。彼を持ち上げた人々(例えばクシュナー)の顔にも泥を塗った。


トランプは大統領に就任してから、今もサウジアラビアに大使を送っていない。その代役がクシュナーで、皇太子と同じ30代の彼は親密な関係を築き、それを最大限に利用している。しかしクシュナーが音頭を取った中東和平構想は矛盾だらけのお粗末なもので、完全に行き詰まっている。


不動産屋親子を待つ失敗


クシュナーはかつて、イスラエル人によるパレスチナ自治区への違法な入植に資金を提供する団体の運営に関わっていた。そんな彼に、義父はパレスチナ和平の任を託した。


アメリカとイスラエル、そしてサウジは対イランで同じ目標を共有しているが、サウジにとってパレスチナ問題は譲れない。だから米大使館をテルアビブからエルサレムに移転するとトランプが決めた時点で、サウジがイスラエルと手を組む可能性は消えた。


トランプ政権はサウジに肩入れし過ぎたのかもしれない。その結果、疑惑の皇太子が支配を続け、アメリカの中東政策を台無しにしても、両国は互いに縁を切れずにいる。


「(カショギ殺害と)似たようなことは今後も起きるだろう」とライデルは言う。「あの皇太子が賢明かつ合理的な指導者になるとは思えない。彼のやり方はかなり見えてきた。今の皇太子は嫌われ者だ。一生、カショギ殺害の影が付きまとうことだろう」。そうであれば、彼が近い将来に訪米することは難しい。


一方でトランプとクシュナーは、世間がカショギ殺しを早く忘れてくれるよう願っている。「さっさとメディアが別な話題に移ること。それが彼らの望みだ」とペキャスタンは言い、こう続けた。「(アメリカにとっての)短期的リスクは皇太子との関係によるイメージ悪化。長期的リスクはサウジの不安定化と、政権の崩壊あるいは反米政権の登場だ。その可能性は低いが、あの皇太子が注目を浴びれば浴びるほどリスクは高まる」


カショギ殺害とムハンマド皇太子が支配するサウジ絡みの醜聞は、最初から失敗すると決まっていた大きな賭けの副産物にすぎないのだろう。トランプとクシュナーはイランを完全に孤立させ、アラブとイスラエルの長年の対立を解決するという夢を抱いてきた。しかしそれは、サウジの協力の有無にかかわらず実現不可能だった。


「どうみても非現実的だ」とリップマンは言う。知識も経験もない2人の不動産屋が、経験豊富な前任者たちにも解決できなかった問題を解決しようというのだ。「無知な人間が手を出せば失敗の確率が高まる」


<本誌2018年11月13日号掲載>


※11月13日号(11月6日売り)は「戦争リスクで読む国際情勢 世界7大火薬庫」特集。サラエボの銃弾、真珠湾のゼロ戦――世界戦争はいつも突然訪れる。「次の震源地」から読む、日本人が知るべき国際情勢の深層とは。




[2018.11.13号掲載]


トム・オコナー


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