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「先生、彼女ができました」 皮膚科医が診察室で声をあげるほど嬉しかったワケとは?

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2018年11月16日 07:02  AERA dot.

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 皮膚科医の日々の診療はどんなものか。なかなかイメージがつかない人も多いことでしょう。京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師が、患者さんとの忘れられないエピソードを語ります。

*  *  *
 私たち皮膚科医は、手術もしますし、内科的な疾患も診ます。皮膚の組織をとって顕微鏡をのぞて診断するのは当たり前ですし、試験管の中のがん細胞を使って抗がん剤の効果を確認することもあります。テレビで取り上げられるスーパードクターのような華々しさはありませんが、患者さんと穏やかに過ごす時間は他の診療科に比べて多いと思います。

 そんな日々の診療の中で、私にも忘れられない患者さんが何人かいます。今回は、医者の守秘義務に反さないように、フィクションを交えながら、ある患者さんのお話を紹介したいと思います。

 初めてその患者さんを診察したとき、私は戸惑いました。目も合わせてくれないし、あまりしゃべってもくれない。二つ年下の山口さん(男性、仮名)に出会ったのは、医師になって数年がたった20代後半のときでした。

「かゆいです」

 私の質問には、口数が少なく、端的に答える姿がとても印象的でした。

 山口さんが私の外来を受診した理由はアトピー性皮膚炎。現在、日本にはアトピー性皮膚炎の患者さんが約40万人、全世界では約14億4千万人いると言われています。

 ところで、皆さんはアトピーの語源をご存じでしょうか? ギリシャ語でのアトポス(atopos)がもととなり、「奇妙な」「特定されていない」という意味を持ちます。今でこそ、アトピーの病態解明が進んできましたが、ザルツバーガー皮膚科医が初めてアトピー性皮膚炎と命名した1933年は、アトピー性皮膚炎とは文字どおり、えたいの知れない皮膚病と考えられていたのです。

 山口さんは顔に赤みが出やすいタイプのアトピーでした。私はまず、顔に対し前医で処方されていたステロイド軟膏をプロトピック軟膏に変更しました。

 2016年の日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」には「顔面や頸部などは、高い薬剤吸収率をもち、ステロイド外用薬による局所副作用の発生に特に注意が必要な部位であるため、長期間連用しないように注意する」とあります。ステロイド外用薬は正しく使えば安全な薬です。しかし、顔面にステロイド外用薬を長期に使うと、皮膚が薄くなり毛細血管の拡張が目立つようになります。また、「ステロイド酒(しゅ)さ」という皮膚に赤みを伴う副作用が起きることも知られています。

 次に外用の方法を説明しました。軟膏で治療するにも、適切な量を使わなければ効果が出ません。とてもわかりやすいのがFTU(フィンガー・チップ・ユニット)という概念です。FTUとは、大人の人さし指の一番先から第1関節にのる量(約0.5g)を指します。この量で、手のひら2枚(つまり両手のひら)の範囲に塗るのが適量とされています。

 話はそれますが、僕は診療の中で雑談を交える医者です。先日は同じ年の患者さんと白髪染めについて情報交換をしました。個人的な会話を増やすことで、なんでも話しやすい雰囲気をつくることを心がけています。この雑談のスタイルは、僕が医者になった頃からずっと続いています。山口さんに関しても、時間がたつにつれプライベートな会話ができるような関係になりました。

 そんなある日、私は山口さんの発言に、診察室で思わず声をあげてしまいました。

「先生、彼女ができました」

 恋人がいることは皮膚にもよい影響があるのかもしれません。山口さんのアトピーは明らかに、彼女ができてからよくなっていきました。

 2015年、イグ・ノーベル賞では日本人の木俣肇先生が医学賞を受賞しました。その研究内容が非常にユニークで「キスをするとアトピーがよくなる」というもの。木俣先生の研究では、恋人や配偶者と30分間キスをしてもらった後では、皮膚のアレルギー反応が大幅に低下するとのことでした。キスだけでなくぬくもりやそこから得られる安心感も、病気がよくなる方向に働くのだと個人的に思っています。

「先生、おはようございます」

 なにやら恥ずかしそうに診察室へ入ってくる山口さん。後ろには、クリッとした目が愛らしい、黒髪の女性がこちらをのぞいています。

「お世話になっております。山口の婚約者です」

 僕は椅子ごとひっくり返りそうになります。

「ええと、お話は聞いております」

 いやいや、その展開は聞いてない。ほとんど口から出かかった言葉をぐっとのみ込んで、私は即席で笑顔をつくります。将来の奥さんを横に少し自慢げに、そして恥ずかしそうに椅子に腰掛ける山口さんは、初めて僕がお会いした山口さんとはまるで別人の表情をしています。

 目も合わさず、会話もほとんど交わさなかった頃の山口さんは、きっと、アトピーであることにコンプレックスがあったのだと思います。冷やかしの意味を込めて聞いた「結婚の決め手は?」の質問から、山口さんのこれまでの苦労をうかがい知ることができました。

 アトピーを患っている自分に自信が持てなかった山口さんは、お付き合いが始まる前「オレ、アトピーなんだけど」と思い切って打ち明けたそうです。すると、

「アトピーであろうと、山口さんは山口さんに変わりないでしょ」

 そう言われ、この人とずっと一緒にいようと思ったとのことでした。

 残念ながら、この世の中にはまだ、アトピーが原因でいじめられる子が少なからずいます。幼少期に受けた心理的ストレスのせいで、大人になっても対人関係に恐怖を感じる方もいます。大好きな相手からの「アトピーなんて、私は全く気にしてない」というメッセージは、山口さんの心をどれだけ救ったことでしょう。

「山口さん、調子よくても保湿してくださいね」

 ちゃんと塗ってると言い張る山口さんに、いや、最近サボってるから私が塗ってあげてる、と対抗するフィアンセ。そんな二人がノロケる姿を見ながら、うれしさのあまり涙ぐむ私。診察室はさながら、結婚式の披露宴のような雰囲気になってしまいました。

「先生のおかげで本当によくなりました。ありがとうございました」

 お礼を言って診察室を去る、幸せそうな二人の後ろ姿を今でもしっかりと覚えています。

 皮膚の病気で心に傷を負わないように、不幸にも傷ついてしまった人たちの心を癒やせるように、皮膚を通して患者さんの心と向き合うのも私の皮膚科医としての大切な仕事だと思っています。

◯大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医。がん薬物治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、作家として医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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このニュースに関するつぶやき

  • 全然関係ないが、きんのたまに出来物があり、すわ性病?!と泌尿器科へ。強もてのおっさん先生にきんのたまを触診されながら「どこいったの?可愛かった?」聞かれた。あべし
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  • ええ話やわ〜。アトピーってストレスの影響が大きいから、絶対関係あるよね。こういう先生ばかりだといいのにね。
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