覚醒剤の使用や密売などで逮捕起訴され、通算12年を塀の中で過ごした後、その経験を基にさまざまな活動を続ける中野瑠美さんが、女子刑務所の実態を語る「知られざる女子刑務所ライフ」シリーズ。
■シャブを打った時に、誰かを殺したくなどならない
「シャブ山シャブ子、見た?」
「アレ何やねん」
私の周囲でも「シャブ山シャブ子」が話題になりました。私はテレビドラマをほとんど見ないので知りませんでしたが、テレビドラマ『相棒 season17』(テレビ朝日系)の「薬物依存症の女性キャラクター」なのだそうです。
ポン中に「キャラクター」も何もないもんですが、11月7日放送回の終わりに突然公園に現れて、ベンチに座ってた刑事をハンマーで殴り殺して高笑いをしていたそうです。そして、警察の取り調べに対して、「シャブ山シャブ子、17歳です!」(見た目は中年)とやたらハイテンションで、目の前にいる羽虫を払うようなしぐさをしています。もちろん腕には注射痕。
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「これは、私やない」
問題の場面を見た私は、正直ハラが立ちました。
「覚醒剤中毒者」のイメージとしてありがちなのは、「シャブのやりすぎで頭がおかしなって、人間が怖なって、誰かれかまわず殺してしまう」とか、そういうのですよね。実は、こういうのはほとんどないんです。ゼロとは言い切れませんけどね。なぜならポン中は、キホン他人がどうでもよくなるからです。クスリにしか興味がないんです。私もシャブを打った時に誰かを殺したくなったことはないですね。
たとえば清原和博さんやASKAさん、酒井法子さんなんかは暴行事件を起こしているでしょうか? 有名人やから起こさないのではなく、ポン中とはそういうものなのです。これが危険ドラッグや合成麻薬やと、また話は別です。こういうのは、人を殺したくなるかもしれません。
■有名なポン中の人殺し
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でも、世の中には「有名なポン中の人殺し」もいてました。私は知らなかったのですが、1981年6月の東京・深川で起こった通り魔殺人事件の犯人・川俣軍司です。赤ちゃんを含む4人が死亡、2人が負傷した大事件でした。そのあと犯人は人質を取って立てこもり、カレーライスを差し入れさせて食べたとか。相当イッちゃってますね。
この川俣が「覚醒剤中毒者」と報道されました。パクられた時の写真も、パンツ一丁&白ソックスと、もう別世界なのですが、さらに自殺防止用に「さるぐつわ」もかまされていました。かなりのトラウマ画像ですが、犯行時はパンツもはいてなくて、パクった時に刑事さんが近くの洋品店で買ったものをはかせたらしいいうウワサがあるそうです。ホンマですかね(笑)。
この軍司さん、取り調べや裁判では一貫して「役人から電波を送られている」と主張していました。犯行も「電波の命令」なのだそうです。今でも変わったことを言う人が「電波」言われるのは、軍司さんが元なんですね。そして、軍司さんは暴行や傷害で前科7犯やけど、シャブの逮捕歴はないようです。つまり事件は「もともと電波の命令」で、「シャブはあんまり関係ない」いうのが精神科医さんたちの見方やそうです。
私も、シャブ子はポン中ではなく「何か別の病気」やと思います。それが何かはわかりませんけどね。
■虫は見えていても認めない
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ドラマでもうひとつ気になったのが、取り調べ中にシャブ子が目の前にいる羽虫を払うようなしぐさを続けていたところです。ポン中は、ああいうことはしませんよ。
よく「ポン中は見えない敵と戦っている」といわれますが、まあそれはホンマです。私もマッチ箱の中のマッチに話しかけられたりしていましたからね。虫が飛んでいるように見えるのも、ありがちな症状です。でも、ポン中は、見えないものについて言いたくないんですよ。「やっぱりポン中や」言われるのがイヤだから(笑)。ポン中にもプライドがあって、虫が見えていても、「虫がいる」とは言いませんし、ましてや払うようなしぐさもしないのです。
いったいどういう根拠でシャブ子を設定したんでしょうかね。もちろんシャブはやってはアカンのですが、シャブ子のような「間違ったキャラ設定」は勘弁してほしいと思いました。
中野瑠美(なかの・るみ)
1972年大阪・堺市生まれ。特技は料理。趣味はジェットスキーとゴルフ。『ダウンタウンなう』(フジテレビ系)や『新・情報7daysニュースキャスター』(TBS系)などへの出演でも注目を集める。経営するラウンジ「祭(まつり)」
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