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ロヒンギャを迫害する仏教徒側の論理

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2018年11月20日 14:52  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<ミャンマーの少数民族迫害はなぜ止まらないのか――憎しみが連鎖する本当の理由と強硬派仏教僧の素顔>


ミャンマーの治安部隊はロヒンギャを虐殺してなんかいない。昨年の8月25日に起きたことは、奴らの自作自演だ。この紛争のマスタープランを描いているのは、ロヒンギャのほうだ」


ミャンマー西部ラカイン州の州都シットウェ。地元のジャーナリストでラカイン州ミャンマー記者協会の議長を務めるウーコンサンリーは今年6月、筆者の取材に語気を荒らげ、さらに耳を疑うような話を続けた。


「事件が起きる少し前から一部のロヒンギャは家や家財道具を売り払い、農作物を育てるのをやめた。同胞の武装勢力が襲撃するのを知っていて、隣国バングラデシュに逃げる準備をしていたんだろう。あの事件はロヒンギャが国際社会の関心を引き、自分たちに有利なロビー活動をするために起こしたんだ」


情報源について尋ねると、ウーコンサンリーは、フェイスブックの写真付きの投稿を見せてきた。イスラム教徒が罪のない仏教徒を攻撃し、ミャンマーを乗っ取ろうとしていることを伝えるもので、反イスラムを扇動するグループが投稿したものだった。「奴らはラカインを乗っ取ろうとしているんだ」と彼は怒気を含んだ声で言った。


国連がミャンマー政府の人道的な責任を追及するなか、にわかには信じ難い話だが、筆者が取材した多くのラカイン人が情報源もはっきりしないこうした「陰謀論」を妄信していた。


11年に軍事政権から民政移管し、急速な発展を遂げるミャンマー。敬虔な仏教徒が多いことでも知られるこの国が、17年8月25日に起きたイスラム系少数民族ロヒンギャに対する大規模な迫害で揺れている。その背景には深刻な民族対立と宗教紛争、そして「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」と呼ばれる強硬派の仏教僧の存在がある。


ラカイン州はミャンマー南西部を南北に走るアラカン山脈によって、最大都市ヤンゴンから地理的に分断されている。1785年にビルマ人に侵略されるまでアラカン王国という独立国家が栄えていたこともあり、ラカインの文化はミャンマーの多数派であるビルマ人のものとは大きく異なる。


ラカイン州はロヒンギャのホームランドだが、6割以上は仏教徒のラカイン人だ。ラカイン人もまたミャンマーの少数民族で、中央政府からの差別や搾取に長年苦しんできた。それ故、ラカイン州の貧困率は78%と全国平均37.5%(世界銀行2014)を大きく上回っており、国内で最も高い。シットウェは州都とは名ばかりの寂れた田舎町で、ヤンゴンの華やかな急成長ぶりからは完全に取り残されている印象を受ける。


「ロヒンギャの蛮行」を告発するパネル(マンダレー) LAUREN DECICCA/GETTY IMAGES


イスラム教徒への嫌悪感


そんなラカイン人が不満のはけ口にしているのが、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する差別だ。ロヒンギャの祖先は英国植民地時代にベンガル地方からミャンマーにやって来たと言われているが、70年代後半から不法移民として扱われるようになった。現在は無国籍の状態にあるため、教育や医療、福祉といった基本的な公共サービスにアクセスできず、多くの人が貧困と差別、そして断続的な武力弾圧に苦しんでいる。


ラカイン人は普段は礼儀正しく親切だが、ロヒンギャの話題になると急に嫌悪感をむき出しにする。談笑していたある男性にこの問題についての見解を尋ねると、「不法移民であるベンガル人の話はしたくない」と会話を中断された。英語教師だという女性は「イスラム教徒に暴行されるのが怖くて、娘も私も夜は外出できない」と憤った。


ミャンマー市民にロヒンギャに対する憎悪を植え付けるのに一役買っているのが、13年に発足した強硬派の仏教徒集団「国家と宗教保護のための委員会(通称マバタ)」だ。マバタの前身は「969運動」と呼ばれた反イスラム団体で、それを扇動してきたのが「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」の異名を持つ怪僧アシン・ウィラトゥ(50)である。


11年にミャンマーで民政移管が起きると、ウィラトゥは民主化で解禁されたばかりのSNSを駆使して、イスラム教徒に対するヘイトスピーチをまき散らした。その多くは、国内外で起きたイスラム教徒による(とされる)テロや殺人、性暴力の事件を伝えるもので、過剰に誇張されたものやフェイクニュースも少なくなかった。内容は残酷の一言につき、目を覆いたくなるような血まみれの被害者の写真に、次のような過激なコメントが寄せられていた。


「ベンガル人(ロヒンギャのこと)は不法移民のくせに、他人の土地で狼藉を働いている!」「奴らは狂犬だ! 仏教徒の女性を犯して野放図に子供を産ませ、われわれの国を乗っ取ろうとしている」「ミャンマーをイスラム化から守れ!」


ウィラトゥはこうした過激な言動で、貧困層を中心に熱狂的な支持を集めるようになった。地元紙のイラワジによれば、ウィラトゥのフェイスブックは17年6月の時点で40万人ものフォロワーがいた(現在は削除)。


16年にアウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)が総選挙で圧勝すると、宗教対立の先鋭化を懸念した新政府はマバタの活動を規制しようとする。仏教僧の最高管理組織「サンガ・マハ・ナヤカ委員会(通称マハナ)」もこれに同調し、17年3月にはウィラトゥに1年間の説法中止を、5月にはマバタの名称を使った活動を禁ずる勧告を発令した。


ラカイン州はミャンマー国内で最も貧しい地域だ(州都シットウェ) Chihiro Imaizumi


だが、実際にラカイン州を訪れてみると、仏教徒とイスラム教徒の緊張は緩和しているどころかますます高まっているように感じられる。マバタを信奉する人は依然として多い。18年10月14日にヤンゴンで開かれた集会では、ウィラトゥがロヒンギャを擁護する国際社会を勢いよく批判した。


ミャンマー中部の都市マンダレーにウィラトゥが講師を務める大教学僧院「新マソーイェイン」がある。ウィラトゥの秘書によれば、最近はメディアの露出を控えており遊説で海外を回るか、この僧院にいることが多いという。取材のためにマンダレーを訪れると、これからウィラトゥは成績優秀な修行僧の表彰式に出席するとのことで、筆者もその式典会場に向かった。


「ビンラディン」のスマホ


会場に到着すると、既に大勢の参加者が集まっていた。ミャンマーの仏教を取材するために日本から来たと話すと、在家信者の一グループが「わざわざそんな遠いところから来てくれたなんて、感激だ!」と昼食に誘ってくれた。会場に隣接する大広間の食卓に着くと、白米、野菜炒め、濃厚な牛肉の煮込みなどが次々と運ばれてくる。


昼食に招いてくれた在家信者の面々は、皆とても礼儀正しく陽気だ。「どんどん食べてくださいね、お代わりはいかがですか?」と筆者の箸の進み具合を気にしながら、日本に住んでいる友人の笑い話を披露して場を盛り上げてくれる。


だが、隣の席の初老の男性に「ベンガル系イスラム教徒」についてどう思うかと尋ねると、害虫の話でもするかのように彼はこう吐き捨てた。


「ベンガル人はミャンマー人じゃない。それどころか、彼らはわれわれに危害を加える。この国で悪事ばかりを働く奴らを野放しにしてはおけない」


式典には約200人が出席しており、マバタのほかの僧に交じってウィラトゥの姿も見えた。幹部の中では比較的若く、役職も講師レベルのウィラトゥは右はじのほうに座り、式典中も長老たちの説教をおとなしく聞いている。だが1時間を過ぎた頃から、隣の席の僧とヒソヒソ話をしたり、スマホをいじりだしたりして(ケースの色はピンク)、揚げ句の果てに居眠りを始めた。


式典も終わりに近づき、成績優秀者たちに賞状を手渡す段でやっと出番が来たウィラトゥは型どおりの短い説法を始めた。中背だが、僧衣からのぞく腕は筋骨隆々でたくましく、二の腕の内側に小さな魚のタトゥーが見えた。まなざしは鋭く、声には他者を威圧する攻撃性があり、僧侶らしい雰囲気は皆無だ。


式典が終了すると、多くの在家信者や修行僧たちが一斉にウィラトゥの下に殺到した。筆者もその輪に近づき、日本から来た記者で、ロヒンギャ問題についてどう思うか聞きたいと声を掛けた。すると突然、目つきが険しくなりウィラトゥは静かにこう言った。


「気を付けたほうがいい。日本もイスラム化が進んでいる。どこかの小都市に既にベンガル人のコミュニティーがあるはずだ」。そして、彼は窓がスモークになっている黒いバンに素早く乗り込み、会場を後にした。


利権に群がる軍と中国


式典に出席していたマバタの幹部僧ウピニャタマミ(57)に、ウィラトゥをどう思うかと尋ねると誇らしげにこう答えた。「彼は仏教の守護者で、ミャンマー仏教界の真のリーダーだ」


式典終了後、多くの信者がウィラトゥ(中央)の下に集まった(マンダレー) Chihiro Imaizumi


なぜ、ウィラトゥやマバタはこれほどまでにミャンマーの人々を魅了するのだろうか。シットウェにマバタの僧院を構える仏教僧ウーナンダバータ(51)は、「マバタが地域のセーフティーネットの役目を負っているからだ」と話す。彼は969運動に初期から携わり、マバタ発足時には幹部を務めた。


マバタは貧困者、少数民族、被災者、女性に対する支援を積極的に行っている。食糧を施すだけでなく、学校建設に無償教育の提供、女性の積極的な雇用など、その内容は多岐にわたる。


ミャンマーで広く信仰されている上座部仏教は、修行の妨げになるという理由から、世俗的な活動を禁止している。ある仏教研究者によれば、戒律の厳守を重んじるミャンマーの仏教界において、僧侶たちが「俗世間の人々」のために奉仕活動をするのは珍しいという。


ウーナンダバータも「マハナのような団体は高尚なことにしか興味がなく、貧しい人々にブッダの教えを伝える気がない。だがわれわれは違う。だから多くの信者が集まる」と主張する。


ラカイン人には、ビルマ人に対する根強い不信感もある。ラカイン州は、天然ガスや石油などの天然資源が豊富な地域だ。ところが、地理的な遠さやロヒンギャ問題のせいで、民主化前から軍部と深く結び付く中国以外に外資の進出は進んでいない。


ラカイン州の与党であるアラカン国民党(ANP)の書記長フタンアウンチョーによれば、天然資源から生じる利益は中国と中央政府が独占しており、地元ラカイン人にはほとんど還元されていない。ミャンマー政府とスーチーに対するラカイン人の評価は辛辣だ。フタンアウンチョーもこう不満を吐露した。「われわれは独立以来、ずっと差別に苦しんできた。アウンサンスーチーが返り咲いたときにやっと状況がよくなると思ったが、全く期待外れだった。政府はラカインの開発から得た利益を地元住民に還元すべきだ」


その一方で、マバタは信者に貧困の原因と解決方法を明示してくれる。原因とはイスラム教徒であり、彼らを排斥することが貧困から抜け出す道なのだと。


そして、こうしたマバタの活動を支える潤沢な資金の源は、大勢の在家者によるお布施以外に軍部にもある。


ロイター通信によれば、ウィラトゥは軍部出身の元宗教相サンシンに重用されてマバタの勢力を拡大した。また、ミャンマー紙イラワジは、ウィラトゥと国軍司令官ミンアウンフラインとの間に太いパイプがあると報じている。ミンアウンフラインは、17年8月25日にラカイン州で起きたロヒンギャ掃討作戦の首謀者として、国連に告発されている人物だ。


さらに、掃討作戦が起きたロヒンギャの居住地の近くには、中国の投資金融グループ「中国中信集団(CITIC)」が港や経済特区を建設しようとしている。ミャンマー政府は17年9月、掃討作戦で空いたロヒンギャたちの居住地を「再開発」する目的で管理すると発表した。


ミャンマーの宗教対立の原因を「民衆を扇動する過激な仏教僧」と「少数民族を弾圧する無慈悲な多数派」のせいにすることは簡単だ。だが、マバタやウィラトゥもこの搾取構造の駒の1つにすぎないのではないか。


無垢な市民の妄信によって反イスラム運動は拡大し、ロヒンギャ危機は臨界点に達した。解決には、マバタやラカイン人といった表舞台の人間だけでなく、水面下で暗躍する「悪」を追及する必要がある。そしてマバタの僧侶や市民もまた、自らに問いただすべきではないだろうか。自分の頭で考えることを放棄し、悪の甘言を信じ続けた罪はどれほどの重さなのかと。


<本誌2018年11月20日号掲載>



※11月20日号(11月13日売り)は「ここまで来た AI医療」特集。長い待ち時間や誤診、莫大なコストといった、病院や診療に付きまとう問題を飛躍的に解消する「切り札」として人工知能に注目が集まっている。患者を救い、医療費は激減。医療の未来はもうここまで来ている。




今泉千尋(ジャーナリスト)


このニュースに関するつぶやき

  • 酷い記事ですね。ミャンマー仏教徒の主張は全てデマだって?どっちにしろ元凶の英国に全責任を負わせるべきなんだよ。
    • イイネ!10
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  • 怪しげなネット情報などに惑わされ、自分の頭で考えることを放棄して特定の「何か」に憎悪を向ける‥‥これは汎世界的に見られる傾向ですね。
    • イイネ!17
    • コメント 4件

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