ヤバイTシャツ屋さん、音楽的特徴とその魅力とは? 高品質の“ヤバT流ロック”を考察

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2018年11月21日 08:02  リアルサウンド

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 日本の音楽シーンに欠かせない存在になりつつあるバンド、ヤバイTシャツ屋さん(通称・ヤバT)。そのバンド名のコミカルさやキャッチーさ、歌詞が持つユニークさと特異性、趣向を凝らしたMVやアーティスト写真など、とにかく毎回大きなインパクトを与えてくれる。こうした要素と、楽曲の持つポップさが相まって、現在のように多くのファンを獲得したことは間違いない。


参考:レキシ、電気グルーヴ、岡崎体育、ヤバT……兵庫慎司が“アーティスト写真”について考える


 しかし、意外にもその音楽的側面に関して触れられる機会が少ないように思う。そう気づかせてくれたのが、『週刊文春』で連載されている「近田春夫の考えるヒット」だった。2018年10月11日号では、ヤバTのシングル『とってもうれしいたけ』から「KOKYAKU満足度1位」がピックアップされており、近田は彼らの楽曲を聴いて、「まず一番ダイレクトに突き刺さってきたのが演奏であった」「奇をてらったようにも思えるバンド名や曲タイトルに惑わされがちではあるが、この演奏には金を払って観に行くだけの価値はあるね!」と絶賛している。


 そこで、今回は音楽的側面から改めてヤバTの魅力について紐解いていきたい。


 検証するにあたり、まずはSpotifyのヤバT人気曲上位5曲をチェックした。上から「あつまれ!パーティーピーポー」「ハッピーウェディング前ソング」「ヤバみ」「鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック」「KOKYAKU満足度1位」と並ぶが、なるほど納得の5曲だ。


 この5曲を聴き込んで感じたことだが、どの曲も一度耳にしただけで何となく口ずさめてしまうようなキャッチーさを備えている。甘すぎるくらいにポップなメロディは一歩間違えば“ロックらしさ”をぶち壊してしまう可能性すらあるのに、それがギリギリのバランスで保たれているのは、カッチリと作り込まれた鉄壁のバンドアンサンブルによるものも大きい。


 彼らのサウンドを無理やりジャンルで括るのなら、“メロディックパンク/メロディックハードコア”に含まれるのだろう(思えば、彼らには「メロコアバンドのアルバムの3曲目ぐらいによく収録されている感じの曲」という楽曲もあるくらいだから、あながち間違いではないかもしれない)。このメロコアスタイルも90年代のオリジネイターのそれとは異なり、2000年代以降のメロコア……J-POPを包括し、マキシマム ザ ホルモンや10-FEET以降のテクニカルなスタイルを通過した、“J-ROCK”確立後のスタイルと言える。だからなのか、どの曲からも想像以上に硬質で正確無比な演奏が聴こえてくる。このプレイがあるからこそ、その上で歌われる歌詞がどれだけコミカルだろうが、メロディがどれだけポップだろうが、ロックバンドのフォーマットから外れることはないのではないか。そして、ここまで鉄壁のアンサンブルを当たり前のように鳴らされたら、聴き手側もアガらずにはいられない。


 また、楽曲(メロディ)のキャッチーさはももいろクローバーZ以降のJ-POP/アイドルポップスにも通ずるものがある気がする。以前のインタビューで、こやまたくや(Vo/Gt)は「無人島に持っていきたいCD10枚」という企画で、マキシマム ザ ホルモンや10-FEET、dustboxなどのロックバンドのアルバムに加え、ももクロの『バトル アンド ロマンス』やPUFFYの『JET CD』をピックアップしている。こやまは大学時代、ももクロのコピーバンドを経験しており、「そこで吸収したポップな要素がヤバTの楽曲にも現れてると思います」と述べている。


 さらに、ボーカル面にも目を向けてみたい。こやまとしばたありぼぼ(Vo/Ba)の男女ツインボーカルは、実はこのバンド最大の武器だと個人的に思っている。こやまのボーカルは聴き手に不快を与えない、ある種聴き心地のよい歌声と言える。それに対して、ありぼぼの歌声は非常に個性的でどこか浮世離れ感すらある。筆者が彼女の歌声を聴いたとき、実は最初に思い浮かべたのが初音ミクだった。極力抑揚を抑え、まっすぐに歌うその甲高い声はボーカロイドのそれにも通ずるものがある気がし、それが先の浮世離れ感につながったのかもしれない。そのこやまとありぼぼの声が混ざり合うことで、ほかにはない(あるいは真似できない)唯一無二のハーモニーを生み出す。だからこそ、ヤバTは強いのだと断言できる。


 さて、ここまで演奏面、楽曲/メロディ面、ボーカル面を通じてヤバTの特異性を紐解いてきたが、いかがだろうか。どの要素も確実に“2000年代以降”の日本のロック/ポップスをルーツにしているという点においては、ヤバTがテン年代に誕生したのは必然だったと言えるはずだ。そりゃあこんなバンド、海外からは生まれようがない。きっと彼らは12月19日にリリース予定の3rdフルアルバム『Tank-top Festival in JAPAN』でも、相変わらず高品質の“ヤバT流ロック”を提供してくれることだろう……先行配信された「かわE」を聴きつつ、アルバムの到着を心待ちにしたいと思う。(西廣智一)


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