一品目は『ENSALADA DE TOMATE CON QUESO DE CABRA』(5.75ポンド=約830円)から。トマト、オリーブ、ゴーダチーズ、玉ねぎのピクルスなどまさに前菜と呼ぶにふさわしいこの一皿。特筆すべきは、通常の赤いトマトに加えて、写真左上に写っている“黒いトマト”だ。『spanish black kumato』と言うその名の通り、赤黒いこのトマトはスペインで品種開発され、オーストラリア、ベルギー、カナダ、フランス、ギリシャ、オランダ、スイス、トルコ、メキシコ、南レバノン、イギリスのワイト島のみで栽培が許可されている稀有なトマトだ。通常のトマトのような酸味がなく、フルーツのような甘みが特徴だ。
三品目はお待ちかね、本場スペイン産の生ハムの盛り合わせ『JAMON SERRANO GRAN RESERVA SELECTA』(5.95ポンド=約860円)だ。『セラノハム(SerranoHam)』と呼ばれるこの生ハムは前述の『ソブラッサダ(Sobrassad)』同様、イベリコ豚から作られたものではないが、栗の実を与えられた豚をおよそ2年間にわたって乾燥熟成させたもの。記者はイベリコ豚の生ハムは以前口にしたことがあるが、いわゆる“超地元密着型”のこのセラノハムは初めての食体験であった。イベリコ豚と比較するとやや油味に欠けるものの、文字通り塩の塩梅も絶妙で、食感は硬すぎず写真に写っている小さなブレッドに巻いて一口で口に放り込むのが地元流の食べ方だという。
ここまでは日本でも馴染みのある小皿が続いたが、一転イギリスでもあまり見かけることのない一品がここで登場した。四品目となる『POLLO EN PEPITORIA』(6.25ポンド=約935円)は鶏肉とアーモンドのシチューだ。意外であったのは、味付けにクミンやサフランといった香辛料が使われていること。これまでにもいくつかのスパニッシュパブを訪れたが、こういった中東やインドの香辛料で味付けされている料理には今のところお目にかかったことがない。不思議に思い、オーナーシェフのオマール氏に尋ねてみたところ、彼の父親がインド出身であり、『TAPAS REVOLUTION』にはこうした香辛料が多くの料理に使われているということだ。オマール氏のルーツを辿っていくとヨーロッパという大きなくくりを越えて、中東やアジアまで味覚の世界が広がっていく。
五品目は『CHORIZO A LA SIDRA』(5.95ポンド=約860円)である。一見するとミートボールのようであるが、品名にもある通り『チョリソ(CHORIZO)』と呼ばれるオーストリアのソーセージをミンチし肉団子状にしたもの。味付けはトマトソースかと思いきや、これまたオマール氏の遊び心なのか、イギリスではサイダー(CIDER)として親しまれているリンゴの発泡酒でじっくりと煮込まれているという。チョリソと聞くと、メキシコの辛いソーセージを思い浮かべてしまうが、もともとはスペイン・イベリア半島を発祥とする豚肉の腸詰のことを指す。スペインではチョリソは人々の生活に深く根付いた食材であり、そのまま炒めるのはもちろんのこと、この『CHORIZO A LA SIDRA』のように、腸詰の中身を取り出し肉団子状にしてスープの具材にしたり、生のまま薄く切ってパンに挟んで食べることも多いそうだ。
こちらの方がお馴染みだろうか。『PAELLA DE POLLO』(5.95ポンド=約860円)は、見た目も味付けも我々日本人が想像するパエリアそのものである。前述のイカ墨のパエリア『ARROZ NEGRO』よりも若干リーズナブルな価格設定であるのは、『PAELLA DE POLLO』が鶏肉と野菜を具材としているのに対し、『ARROZ NEGRO』はイカをふんだんに使用しているためであろう。イギリスにも『Billingsgate(ビリングズゲート) Fish Market』という魚市場が存在する。何度か足を運んでみたが、さほど広くはない市場のなかで販売される様々な魚介類と比較してもイカ一杯の価格が高い。ちなみにオマール氏によると世界最大の魚市場が、先月閉じた日本の築地市場だとするならば、スペインマドリードには世界で二番目に大きな魚市場があるという。
続く八品目はこちらもすでに日本でもお馴染みエビのアヒージョだ。『GAMBAS AL AJJILO』(7.95ポンド=約1150円)のレシピは、オマール氏直々に『TAPAS REVOLUTION』の厨房で披露してもらった。エキストラバージンオリーブオイルを写真の小鍋のなかに贅沢に注ぎ込み、ニンニクを加えその香りをしっかりとオイルに染み込ませる。オマール氏曰く「ニンニクがオリーブオイルの中で踊り始めたら」エビを大胆に放り込む。魚介類の新鮮さが売りの一つでもあるスペイン料理のため、エビに過度な熱を通さないことが重要だという。味付けはシンプルに岩塩のみ。「日本人は魚介類がとても好きですよね。生の魚(刺身)を食べることもあるほどですから。この『GAMBAS AL AJJILO』なら日本の皆さんにも簡単に作っていただけると思います」とはオマール氏の弁。