田中圭、『獣になれない私たち』『おっさんずラブ』の根底にある“無自覚な色気”の正体

0

2018年12月11日 00:03  サイゾーウーマン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

サイゾーウーマン

写真

 水曜夜10時から放送されている『獣になれない私たち』(日本テレビ系、以下『けもなれ』)が最終回を迎える。

 物語の主人公は、IT企業で営業アシスタントとして働く30歳の女性・深海晶(新垣結衣)。晶の勤める会社はブラック企業で、ワンマン社長に仕事を押し付けられ疲弊している。交際4年目になる恋人の花井京谷(田中圭)は、仕事を辞めて引きこもりになった元恋人の長門朱里(黒木華)を心配して同居しているため、結婚できない。仕事でも恋愛でも行き詰まっていた晶は、ある日、行きつけのクラフトビールバーで、ミステリアスな会計士・根元恒星(松田龍平)と知り合う。

脚本は『けもなれ』と同じ新垣主演で人気作となった『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の野木亜紀子。物語は大人の群像劇で、主要人物はみんな、仕事や恋愛の悩みを抱えている。最終話は、友達以上恋人未満である晶と恒星の関係がどうなるのか見どころだが、本作で一番おもしろかったのは、田中演じる京谷を中心とした三角関係の物語だ。

 京谷は晶のことを大事にしているものの、元恋人の朱里を見捨てることはできなかった。真面目で優しい男だが、それは優柔不断なだらしなさと表裏一体であり、その優しさゆえに晶のことを傷つけてしまう。しかも京谷は、恒星の元恋人の橘呉羽(菊地凛子)とも一夜を共にしてしまう。クールで危険な匂いがする恒星を演じる松田と対峙すると、京谷を演じる田中は野暮ったく「何でこいつがここまでモテるのだ?」と思ってしまうが、田中の無防備で誠実な笑顔を前にすると、ついついガードが甘くなってしまうのだろう。そして、いつの間にか心を許してしまい、離れられなくなってしまう。

 わかりやすいイケメンじゃないからこそタチが悪いのだろう。自分を飾らない自然な優しさゆえに周囲を翻弄してしまう京谷は、愛すべきクズ野郎である。そんな、どこにでもいそうだが絶対にいない男を、田中は屈託のない笑顔で難なく演じている。

田中は野木の脚本家デビュー作となったヤングシナリオ対象受賞作『さよならロビンソンクルーソー』(フジテレビ系、2010年)で主演を務めた。田中演じる主人公が心を病んだ恋人との関係に悩む姿を描いたドラマで、呉羽を演じる菊地もまた、恋人との関係に苦悩する女性として出演しており、本作のリメイク的なドラマが『けもなれ』だと言えるだろう。

 筆者が田中を初めて意識したのは、このドラマだった。彼の演じた、ゴミ清掃作業員の青年が、静かに鬱屈していくナイーブな姿は今でも鮮明に覚えている。

 田中は現在34歳。2000年から活動しているキャリアの長い俳優とはいえ、主演作は少なく、脇で印象に残る仕事をする存在だった。しかし今年、連続ドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)に出演したことで、大ブレークを果たす。33歳の会社員・春田創一(田中圭)が、上司の黒沢武蔵(吉田鋼太郎)と、ルームシェア中の後輩・牧凌太(林遣都)から告白され、男同士の三角関係に頭を悩ませる話だ。

 春田は、少し幼くて優柔不断なところがあるものの、基本的にはどこにでもいる30代の男だ。よく言えば無垢、悪くいえば鈍感な春田の行動に周囲の人々が振り回されることになり、個性豊かな面々の中心に無自覚で鈍感な春田がいるという人物相関図が、ドラマを面白くしていた。

 『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)で演じた不倫するサラリーマンなど、田中は一見、ぱっとしないが、なぜかモテる男性を演じることが多い。『おっさんずラブ』の春田も『けもなれ』の京谷も、本人は無自覚なまま、周囲の人々の気持ちを吸い寄せて呑み込んでいく“愛情のブラックホール”とでも言うような存在だ。

 この無自覚な色気のようなものが、演技の枠を超えてタレント人気となっているのが、今の“田中圭ブーム”なのだろう。12月15日にはAbemaTVで『田中圭24時間テレビ』という番組まで放送される。

 高橋一生やムロツヨシなど、脇で堅実な仕事をしていた俳優が注目される傾向が近年強まっている。田中のブレークはその最たるものだが、『おっさんずラブ』の映画化も決まった今、この盛り上がりは、しばらく収まることはなさそうである。
(成馬零一)

    ニュース設定