難聴でも聴きやすい「ミライスピーカー(R)」の仕組みは? 高齢者社会を支える最新テクノロジー

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2018年12月14日 18:32  リアルサウンド

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 株式会社サウンドファンが開発・製造・販売をするバリアフリースピーカー「ミライスピーカー(R)」が、大和証券株式会社の国内108支店へ導入されたことが発表された。高齢者をはじめとする難聴に悩む人に向けた施策であるが、同製品に搭載されているテクノロジーは各所から注目され、金融機関やデパートなどの公共の施設を中心に導入が進められている。


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 「ミライスピーカー(R)」には特許技術「曲面サウンド」が搭載されている。独自の振動板(音波と電気信号を相互に変換する機構)を用いることで、距離による音の弱まりが少なく、音量に頼らずとも広く遠くまでハッキリしたクリアな音を届けることが可能となる。


 音のバリアフリーを実現するという点で、社会的な意義のあるテクノロジーとして捉えられる。だが「曲面サウンド」のアイデア自体は、意外にも前時代的なテクノロジーから着想を得たものだ。


「音楽療法を専門とする大学教授から『高齢者はオーディオスピ−カーより蓄音機の方が聴きとりやすい』という話を聞きました。そこで、蓄音機のラッパの曲がりの部分からヒントを得て、平板を湾曲させた振動板全体から音が飛び出す構造を採用した試作機を制作しました。試験的に83歳になる中度の老人性難聴の方に音を聴いてもらったところ、補聴器なしでもテレビの音が良く聞こえるという反応を受け、事業化を決めました」(株式会社サウンドファン担当者)


 健聴者が「ミライスピーカー(R)」を単体で聴いた場合、音の違いは感じ難い。だが、デパートのような雑音が多い状況となると、その音は明確に聴きとることができるという。実際にマルイ国分寺店では呼び出しのアナウンスで導入されている。


 「ミライスピーカー(R)」は、四角いボックスタイプの「Boxy(ボクシー)」、同製品の特徴である湾曲した振動板の形状をあしらった「Curvy(カーヴィー)」という2つのモデルを展開している。個人向けのレンタルサービスも行っており、テレビやオーディオ機器に接続することで、バリアフリーサウンドを家庭でも楽しむことができる。


 さらに株式会社サウンドファンは、世界初の特許技術としてグローバルな展開も視野に入れている。アメリカ・カナダ・メキシコ・韓国・オーストラリアでは特許取得済みで、タイでは警察病院の耳鼻咽喉科への試験的な導入まで行われている。


「世界保健機構(WHO)によると高齢者の増加に伴い、世界の聴覚障がい者数は2050年には現状の2倍近い9億人に達すると言われています。日本語は母音中心の比較的明瞭な言語ですが、欧米などの言語は子音が多く、口の開け閉めが小さく不明瞭に聴こえる場合があります。『ミライスピーカー(R)』の明瞭度の高い音声は、海外でも“聴こえ”をサポートできると考えています」(同)


 福祉以外の面でも可能性は広がる。エンターテイメントの分野において「ミライスピーカー(R)」はどのように寄与するのだろうか。


「東京国際映画祭のバリアフリー上映会で活用していただいたところ、難聴の方から『いつもよりセリフがはっきりと聞こえた』という声をいただきました。映画は字幕を挿入することもできますけど、エンターテイメントの場合、音のまま伝えないと楽しめないものが多いかと思います。映画館やコンサートホールへの導入が進んでいけば、より多くの人に本来の音の情報を楽しんでもらえるのではないでしょうか」(同)


 かくして「曲面サウンド」のテクノロジーは、あらゆる分野での活用を想定し、音響の要素を伴うデバイスへの組み込みを目指した小型化・軽量化、広い公共シーンでの活用を目指した大音量化、野外での使用を想定した防塵・防水化などが進められている。


 なかでも注目したいのは、野外イベントを想定した大型モデルの試作機「メガCurvy(通称)」だろう。すでに完成しているこちらのモデルは、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックへの導入も期待されているという。「ミライスピーカー(R)」の音を日常的に耳にすることができる未来は、すぐ側まで来ている。(セツ・ミチオ)


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