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12月11日に元AV女優で現在はタレントとして活動している蒼井そらが妊娠5カ月であることをオフィシャルブログで公表した。
しかし、新たな命を報告するブログは〈AV女優が子供を作るなんて子どもがかわいそう。結婚発表をした時、そんな言葉を目にしました〉という不穏な言葉で始まっていた。
〈AV女優が子供を作るなんて子どもがかわいそう。
結婚発表をした時、そんな言葉を目にしました。
いや、発表する前から、そんな言葉を目にすることは多々あったかな。
確かに、普通に、常識的に、一般的に考えるとそうなのかもなと
そう言われるのは、まぁ分からない事ではないと私は思うのですが
そこで、考えたんですよ。
子どもの不幸のこと。
AV女優の親だと不幸なのか。
それと
AV女優の親じゃなければ幸せなのか。〉
親の職業という子どもに選べないファクターによって、子どもの幸・不幸が決まるような社会がおかしいのであって、言うまでもないがどんな職業の人間も子どもをもつ自由がある。親の職業を理由に子どもがいじめられたり理不尽な扱いを受けることがあれば、悪いのは断じて親ではなく、いじめている側だ。そんな自明のことは、蒼井だって百も承知だろう。それでも蒼井がこんなことを書かずにいられないのは、それだけAV女優が子どもをもつことに対する攻撃や風当たりが強いからだ。
本サイトでも以前取り上げたことがあるが(https://lite-ra.com/2018/01/post-3727.html)蒼井そらが結婚報告ブログで明かしたAV女優の経歴への「後ろめたさ」…紗倉まなもコラムでセカンドキャリアへの不安)、蒼井そらがAV女優に対する偏見や差別について言葉にしたのはこれが初めてではない。
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彼女は今年の1月2日にオフィシャルブログのなかでDJ NONと結婚したことを報告している。その結婚報告のブログのなかで、蒼井はDJ NONのことをこのように紹介していた。
〈彼はイケメンでもないし、お金も持っていないけど
アダルトをやっていたという事実や、
その他全てのことに対する私の不安を一気になくしてくれる人でした。
アダルトをやっていたことに後悔はないですが
世間の目に対する、後ろめたさがないわけでもない。
家族になるということは、そういう過去やこれからの未来で、
全ての受け入れが必要だと思っています。
だから、私を貰ってくれるなんて本当すげー奴だなって思います〉
現在の日本は、結婚や出産という個人の人生に〈AV女優が子供を作るなんて子どもがかわいそう〉などという言葉をぶつける社会なのだということに絶望を感じるが、AV女優に対する差別的な眼差しを訴える人は現役のAV女優のなかにもいる。
AV女優のみならず作家としても活動している紗倉まな氏は「週刊プレイボーイ」(集英社)2018年2月12日号に掲載された落合陽一氏との対談のなかで、こんな体験を語っている。
「一番イラッとすることは、何を言っても『肉便器』って言われることですね」
「以前言われたのは、『おまえいろいろ物事を多く語って、まるで文化人気取りだな』みたいな。『肉便器は黙って脱いでろ』って言われたことがあって」
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紗倉はこれまでに、AV女優を主人公にした『最低。』(KADOKAWA)、家族関係を題材にした『凹凸』(KADOKAWA)と、2作の小説を出版。文学関係者からも非常に評価が高く、『最低。』のほうは昨年11月に映画化もされている。エッセイで、家族問題や社会問題について語ることも少なくなく、昨年からはAbemaTVのニュース番組『AbemaPrime』でアンカーも務めている。
先にあげた「まるで文化人気取りだな」「肉便器は黙って脱いでろ」なる暴言は、彼女のそういった活動を指してのものだと思われるが、あまりにひどすぎる最低な女性蔑視発言だ。
●紗倉まな、川奈まり子も語っていたAV女優への差別と偏見
しかし、紗倉はこんな暴力的な差別にも、屈することなく、毅然と対峙している。
前掲対談のなかで紗倉は「AVをやってる人間が自我を出したりすると、興奮されにくくなるとか、こういう映画が出ると『どんな気持ちでAV見たらいいんだ』っていう声もありまして、確かにその心理もすごくよくわかります」と客観的な状況把握をしつつも、だからといって「肉便器は黙って脱いでろ」などという意見には一切与するつもりはないと語る。
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「それでもAVの表現と書き物の表現はやっぱり譲れないところが強い軸として心の中にあって。編集者の方とも、『ギャルっぽい口調に直すのやめてください』とか、バトルになるくらい話し合っています。自分が妥協したくないことと、世間が求める商品価値ってものすごく差があるなと感じながら」
紗倉が文章を書く仕事をしている理由のひとつに、「AV女優という職業に対する世間からの差別意識をなくしたい」という思いがある。
事実、映画『最低。』の記者会見に原作者として出席した紗倉は、記者からの「この作品の一つの意図として、AV業界で働く人々へのスティグマ(偏見・負の烙印)をなくしたいという意図はありましたか?」との質問に、「もともとそういう気持ちはずっと思い続けて、いまもそういう仕事をしているということもあるので。ずっと偏見はなくなればいいなと思っていたんですけれども。ある種AV女優も普通の一人の女の子なので。年間1000人以上の方がAVデビューしていると言われてるんですけれども、それだけいるということは、やはりそれだけの女の子の普通の日常もあるということで、そこを描けたらいいなという思いで本は書かせていただきました」と答えている。
AV女優への差別と偏見、そして、AV女優自身がスティグマを感じずにはいられない状況があることは、多くのAV女優(“元”か“現役”かは問わず)の生活に暗い影を落としている。
元AV女優・官能小説家・怪奇作家の肩書きをもつ川奈まり子氏は、本サイトが2016年に行ったインタビューのなかで、AV女優が普段の生活で受ける偏見や差別について、自らの体験談も交えつつ、このように訴えていた。
「AV女優たちの一番の悩みはヘイトクライムです。住んでいるアパートを追い出されるとか、仕事をクビになるとか、職場でイジメに遭うとか。会社でAV女優だった過去がバレてレイプされそうになったという相談すら受けたことがあります。
私もライターとして連載させてもらっている媒体から『川奈さんがAVに出ているなんて知りませんでした。今後の取引は中止させていただきます』と言われたり、編集部は大丈夫でもスポンサーからNGが入って仕事がなくなったりと職業差別を受けてきました」
●蒼井そらが「AV女優の子どもはかわいそう」攻撃に毅然と反論
結婚や妊娠という、個人の人生の転機のたびに、「AV女優への差別問題」について口を開かなくてはならない蒼井そらのことを思うと心苦しくなるが、それだけAV女優が背負わされるスティグマに問題意識を持っているということだろう。
「AV女優の子どもはかわいそう」という理不尽な言葉に、先述のブログで蒼井はこう反論する。
〈子どもが将来【絶対】にいじめにあう
そういう確率は高いと【思う】
絶対とか、考えれば分かる
みたいな話ってあなたの価値観だよねって。〉
〈「貧乏だと不幸。金持ちだと幸せ。」
この言葉を言ったらさ
人は「そんなことない」って言えると思うの。単純にね。
もちろんお金はあった方が良いけど
お金が無いから不幸せ、ということでは無いと考えるでしょ。〉
お金持ちの親もいれば、貧しい親もいる。職業も様々だ。子どもが幸せかどうかは、親がどういう経済状態で、どういう職業かだけに左右されるものではない。
そして、蒼井はこう宣言する。
〈元AV女優が子どもを産むことに人は意見するけど
どう考えても私、やっぱり子どもが欲しい。〉
〈生まれて来るんじゃなかったとか
産んでなんて頼んでねーしとか
親子の縁を切るとか
子どもに言われないように日々頑張るだけよ。〉
「AV女優の子どもはかわいそう」という言葉は、さも子どものことを思いやっているふうを装っているが、ただの差別だ。親の経済状態や職業によって、子どもが「かわいそう」「不幸」になるようなことはあってはいけない。それは親だけの問題でなく、社会全体の責任だ。
彼女たちの人生を息苦しくさせる職業差別の問題について、社会はしっかり耳を傾ける必要がある。
(編集部)
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