仮想通貨マイニングは違法? 注目の裁判始まる 被告人は「何が違法か明確にして」

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2019年01月07日 10:52  弁護士ドットコム

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他人のパソコンのCPU(処理装置)を使って仮想通貨をマイニングする「Coinhive(コインハイブ)」。この行為をめぐる裁判が1月9日、横浜地裁で始まる。コインハイブの違法性が法廷の場で争われるのは全国で初めてという。


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2018年、自身のウェブサイトにコインハイブを設置していたサイトの運営者が相次いで摘発された。警察庁は同年6月、HPで「閲覧者に明示せずに設置した場合、犯罪になる可能性がある」との見解を示したが、エンジニアや専門家は「範囲を広げすぎ」「法の拡大解釈だ」と反発していた。


被告人は、ウェブデザイナーの男性(31)。男性は2018年3月末、サイトにコインハイブを設置したとして、不正指令電磁的記録取得・保管の罪(通称ウイルス保管罪)で横浜簡裁から罰金10万円の略式命令を受けたが、命令を不服として正式裁判を請求した。


初公判を前に弁護士ドットコムニュースの取材に応じた男性は、「何が違法なのかが明確になっていないのがすごく恐ろしい。自分はもうすっかり新しい技術を試すのが怖くなってしまった」と話した。(編集部・出口絢)


●警察「令状出てんだよ」

男性は2017年9月下旬、ウェブメディアの記事を読みコインハイブの存在を知った。個人でウェブサイトを運営していた男性は、「コインハイブの技術自体は面白い。画面を占有する広告よりもサイトが見やすくなり、(広告に代わる新しい収益源として)良いかもしれない」と実験的に導入することを決め、プログラミング言語「JavaScript」(ジャバスクリプト)でプログラムのコードを書き加えた。


収益については、多くの記事で「稼げる額はわずか」と言及されていたため、導入前からあまり期待していなかった。


その後、サイトの閲覧者から「ユーザーの同意なくコインハイブを動かすのはグレーではないか」といった指摘を受けた。男性はサイトの閲覧者にコインハイブを使うという告知をしていなかったため、「設置しているのは意図的です。個人的にグレーとの認識はありませんが、同意を得るように検討します」と返した。


もともと「コインハイブがどういうものか知りたい」という目的で導入した男性。指摘を受けた時には既に「あまり導入する価値がない」とも感じていたため、指摘を受け「同意の通知を出すために、新たな作業が発生するのも大変」とサイトからコインハイブのプログラムを消した。


結局、サイトにコインハイブを設置したのは、約1カ月ほど。仮想通貨「モネロ」で支払われた報酬は、日本円で約800〜900円だった。日本円に換金して振込を申請するには5000円以上の売り上げが必要だったため、結局お金は受け取っていない。


2018年2月上旬、神奈川県警から家宅捜索を受け、警察署で取り調べを受けた。コインハイブの何が違法に当たるのかは詳しく説明されず、「反省しろよ」「令状出てんだよ」と言われ聴取を進められたという。


「お前の両親がコインハイブ使われたらどう思うんだ」。取調官にそう迫られ、「どうも思わないと思います」と答えると「感覚おかしいよ」と言われた。


●「戦ってください」支援の声相次ぐ

男性は略式命令を受けた後、コインハイブ導入から家宅捜索、取り調べまでの経緯をまとめたブログを公開した。「コインハイブを使っているエンジニアが、同じ目にあわないように」と注意喚起の意味を込めたものだが、「僕の方が叩かれるかもしれない」と批判が来ることも危惧していた。


しかし、予想とは裏腹に、「はてなブックマーク」では「裁判頑張ってください」「戦ってください」などと男性を支援するコメントが並んだ。「コインハイブは好きではない」としながら、警察の取り調べ方法や摘発に反発する声も寄せられた。


「業界全体としてコインハイブが犯罪として認められてしまうと良くない。エンジニアたちが萎縮してしまいかねない」。男性は代理人の平野敬弁護士に相談した際、そう言われ、正式裁判を起こすことを決めた。


男性が危惧するのは「今のままだと、コインハイブだけが違法なのかも分からない」という点だ。


「例えば、意図しない動作をしたから違法だというのであれば、意図しない動作をするジャバスクリプトはたくさんあります。結局どれが違法かわからず、家宅捜索に来られたら終わり。そんな流れは良くないと思います」


●異例の「公判前整理手続き」

検察と弁護側は被告人が正式裁判を求めた2018年4月以降、裁判官、検察官、弁護人が協議して争点や証拠を絞り込む「公判前整理手続き」を計6回実施した。男性の代理人である平野弁護士は「罰金10万円の事件で、何回もの公判前整理手続きが行われること自体が極めて異例だ」と話す。


争点は(1)コインハイブは不正指令電子的記録(コンピューターウイルス)に当たるか、(2)男性に実行の用に供する目的(他人に実行させる目的)があったか、(3)故意があったかどうか、など3点に整理された。


平野弁護士は「インターネットにおいて、プログラミング言語であるジャバスクリプトは勝手に動くもの。広告も個別的な同意なく動作している。個人情報漏えいなどの被害が生じるわけでもない」として、コインハイブは反意図性・不正性の要件に当てはまらないと指摘。「男性はコインハイブをウイルスと思って使ったわけではなく、目的や故意の要件も満たしていない」と主張している。


公判では弁護側の証人として、セキュリティ専門家の高木浩光氏が出廷する予定。


<コインハイブ事件経過>


・2017年9月下旬 男性が自身の運営するウェブページにコインハイブを導入。・11月上旬 男性がウェブページからコインハイブを削除。・2018年2月上旬 神奈川県警が男性の自宅を家宅捜索。・3月28日 横浜地検が不正指令電磁的記録取得・保管の罪で略式起訴し、横浜簡裁が罰金10万円の略式命令を出す。・4月上旬 男性が略式命令を不服として正式裁判を請求。・12月27日 公判前整理手続きが終了。・2019年1月9日 横浜地裁で初公判が開かれる。


【編集部より】国立研究開発法人産業技術総合研究所から「今回の出廷は個人での活動である」と指摘を受け、高木浩光氏の肩書きを「セキュリティ専門家」と変更しました。(1月8日12時45分)


(弁護士ドットコムニュース)


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