ホーム > mixiニュース > IT・インターネット > IT総合 > チャットbotを導入して、「社内ヘルプデスクの電話対応」をやめてみた結果

チャットbotを導入して、「社内ヘルプデスクの電話対応」をやめてみた結果

0

2019年01月17日 10:23  ITmediaエンタープライズ

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmediaエンタープライズ

写真横河レンタ・リース 情報システムセンタ システム開発運用部 第四課長 浅野井宏之さん
横河レンタ・リース 情報システムセンタ システム開発運用部 第四課長 浅野井宏之さん

 「VPNにつながらないんですが、どうしたらいいですか?」「支給されたスマホの初期設定が分からないんです」



【その他の画像】



 情シスの皆さんであれば、社員からこういった質問を受けたことがあるだろう。多くの企業で、情報システム部門は社内向けのヘルプデスクとしての機能を備えている。他の仕事もあるのに内線電話に追われて、一日中てんてこ舞い……なんて話も珍しくはない。



 とはいえ、問い合わせに対応できずに社員の業務が止まってしまっては本末転倒だ。そんな中、「毎週水曜日以降は、ヘルプデスクの電話対応をやめる」という挑戦に踏み切って成果を挙げた企業がある。



●重複する問い合わせ、マニュアルを作っても読んでもらえない



 それは、電子計測器やPCをはじめ、タブレット端末やサーバなどのレンタル事業を手掛ける横河レンタ・リースだ。同社は約1000人の社員を抱える一方で、3〜5人の体制で全社員のヘルプデスクに対応しているという。



 電話の問い合わせは一日当たり平均で30件以上。メールでの問い合わせを含めると50件を超えることもあるという。問い合わせへの対応だけで1日が終わるようなこともありそうな数だが、実際のところ、同じような質問に何度も答えているような状況だったという。



 「Windowsのパスワードリセットに伴うトラブルや、会社支給のiPhoneを入れ替えたから初期設定がしたいといった質問が特に多かったです。また年度の始めなどは、新人からの質問も増えますね。誰に相談したらいいか分からず、取りあえず情シスに問い合わせてくるんですよ」(同社 情報システムセンタ システム開発運用部 第四課長 浅野井宏之さん)



 同じような質問が多いこともあり、淡々と処理すること自体はさほど難しくない。しかし、電話応対になると、ヘルプデスクの人員1人のリソースがその1案件に完全に奪われてしまうという問題があった。



 もちろん、同社も何も対策をしてこなかったわけではない。対応を効率化するため、定番の質問に対するFAQマニュアルを300項目ほど作成し、社内ネットワークで公開していた。マニュアル化ができていない新たな問い合わせは、サイボウズのアプリ構築プラットフォーム「kintone」上でトピックスを立ち上げるなど、メールや電話をしなくても解決できる仕組みは整っていたという。



 しかし、それでもマニュアルを読まずに、電話で問い合わせをしてくるケースは後を絶たなかった。



 「ユーザーが抱えている疑問が、マニュアル内のどの部分に書いてあるのか分からなかったり、マニュアルの説明自体がやや難しかったりと、『結局、電話をした方が早い』という状況は変わっていなかったのです。情シスの担当業務はサービスデスクだけではありません。インフラの管理やトラブルの対応もあるため、作業に集中しなければならないときには、電話を受けるのが難しいこともありました」(浅野井さん)



 サービスデスクにとっては「またか」と思うような質問でも、従業員にとっては、すぐに解決しないとマズイ状況であることは間違いない。マンパワーに頼らない解決策が必要だった。



●チャットbot「ラッキーくん」を導入、しかし……。



 そんな彼らの状況が変わったのは2017年11月。日頃から取り組んでいる新技術の検証をきっかけにチャットbotの導入を検討し始めたのだ。



 「自社の業務にAIやRPAなどの新技術を取り入れてデジタル化を進めようという検証に取り組んでいたので、うちの課では、問い合わせ対応にチャットbotを導入しようと考えました」(浅野井さん)



 情報システム系の他案件で付き合いがあった、NDIソリューションズからの提案と検証協力を受けて「CB1」の導入を決定。先述のFAQマニュアルを学習データとして開発を始めた。そして2018年3月に東京・三鷹にある支社において、100人に向けて試験導入を行ったという。導入の際には説明会を開き、デモンストレーションを通じて質問のコツや利便性を伝えたそうだ。



 チャットbotの名前は「ラッキーくん」。部内で協議したところ、疑問が解決して“幸せになる”という願いを込めてこの名前に決まったという。親しみやすくするために柴犬のキャラクターを採用。「学習を進めるうちに子犬から成犬に成長する」という設定も考えた。



 説明会での反応は“かわいい”と上々。FAQマニュアルの他、社内ポータルなど、ユーザーがよくアクセスするページにもリンクを設置し、満を持してテストを開始したものの、そううまくはいかなかった。最初の一週間ほどは利用数が伸びたが、その後、利用者が一気に激減してしまったのだ。



 「最初は興味本位で使ってくれたのだと思いますが、回答の幅が狭く、精度も低かったため、『使い物にならない』と判断されてしまったんです」(浅野井さん)



 その原因は質問を解読する精度にあった。まず言葉の“揺らぎ”への対応ができていなかった。例えば、ユーザーはiPhoneを「アイフォン」「ケータイ」「スマホ」などとさまざまな言葉で表現する。自分たちが考えた通りにユーザーが質問するとは限らない。揺らぎの問題は、開発サイドからすれば「盲点だった」という。



●チャットbot開発の“盲点”――想定外の使い方に対応できず



 開発チームの誤算はもう1つあった。学習させるデータが有限である以上、チャットbotは全ての質問に答えられるわけではない。そのため、対応できるジャンルをあらかじめ周知していたが、情報システム部門のサポート範囲から外れるような質問が次々と寄せられてしまったのだ。



 「サポート範囲外の質問の中には、勤怠システムの入力方法を問うものもありました。これは本来であれば、人事総務が対応するものです。しかし、勤怠の“システム”である以上、情シスに問い合わせしようとするのは、不思議ではありません」(システム開発運用部 第四課 加藤美絵さん)



 人工知能(AI)という言葉には、どこか魔法のような響きがある。「AIに聞けば何でも答えてくれる」と幻想を抱く人は少なくない。そのような期待を持って質問し、回答が期待外れだった場合、落胆してしまうだろう。



 「導入当初は、情シスへの問い合わせが多い『iPhone』『メール』『PCの操作』の3分野に絞って運用を始め、カバー範囲を少しずつ広げていくつもりでした。しかし、最初の質問で問題解決ができなかったユーザーは、もう二度と使ってくれないんですよね」(浅野井さん)



 その後、試験導入で得られた知見を基にチャットbotをブラッシュアップ。2018年6月に全社へと展開した。リリース直後は問い合わせが多く、1カ月で約1200回ほど使われたものの、8月には約300回にまで減少してしまった。ヘルプデスクへかかってくる電話の件数もほとんど減らなかったという。



 「チャットbotに全く慣れていないユーザーは、『お疲れさまです』や『あのー〇〇ですけど、お疲れさまです』とあいさつから質問を始めたり、まるでメールの文面のように、冒頭で自分の名前を名乗ったりすることもありました。ユーザーの期待値が高く、それに対応できないという点で同じような問題にハマってしまったわけです」(加藤さん)



●「電話対応、やめます」に現場の反応は……?



 ユーザーの落胆を感じ取った浅野井さんは、当初の予定を前倒す形で学習を急いだ。回答できる幅を広げ、精度が向上したラッキーくんの利用を促進するため、試験的に「電話問い合わせを受け付けない日」を設けることにしたという。



 「まずは9月に水曜日を“休み”にしました。意外なことに、社内の反応でネガティブなものはほとんどなく、むしろ、同様のサポート業務を行っていた他の課からは、『よく先陣を切ってくれた!』と感謝される声すらありました。一応、本当に緊急の場合のみ電話をかけてもよい、という例外を設けていたのも、大きなポイントだったかもしれません」(浅野井さん)



 電話対応を行う日を減らした分、他の日に問い合わせが殺到する……といった事態も起きなかったため、10月には水曜日と木曜日、11月には金曜日も加えた週3日で電話でのヘルプデスクをやめたそうだ。この施策の効果もあり、電話問い合わせの数は激減し、チャットbotの利用回数は1カ月あたり約1000件にまで回復した。



 ユーザーからは「電話よりも早く回答を得られていい」「今さら聞けないようなことでも気軽に質問できる」といったポジティブな声が出てきているという。メリットやデメリットを検討した結果、現在は毎日電話の問い合わせを受け付けるよう、ルールを元に戻したが、電話での問い合わせは10分の1程度にまで減ったままなのだそうだ。



 「電話での問い合わせは、現在は1日あたり3〜4件程度です。対応で作業が中断することがないので集中して仕事ができています。また、単純な質問が減ったので精神的に楽になりました。自分自身も分からないことがあったら、ラッキーに聞いています」(システム開発運用部 第四課 梶原千帆さん)



 システムトラブルなどの対応もあることから、ヘルプデスクへの問い合わせ件数の総数は、チャットbotの導入後でも10%減程度にとどまる。とはいえ、数値の変化以上に就労環境は改善されたようだ。



●今後はチャットツールに対応、人事総務への展開も目指す



 チャットbotとして一定の成果が挙がった今、浅野井さんは「ラッキーにアクセスできるポイントをさらに増やしていきたい」と語る。



 現時点でも、ラッキーへのリンクは社内ポータルの一番目立つ場所にある。今後はさらに気軽に利用できるようにするため、チャットツール「Microsoft Teams」のbotに導入し、外出先からでもスマートフォンでアクセスできる環境を整える予定とのことだ。



 また、同様のシステムを人事総務部門に展開する考えもある。情シスと同様に、人事総務部門も「用意したマニュアルが読まれない」「古いフォーマットで申請してくる」など、ユーザーからの問い合わせ対応が忙しい部署だ。



 いくらマニュアルを最新のものに更新しても、それをユーザーが自力で見つけてくれるとは限らない。質問文からチャットbotが適切なマニュアルを見つけてくれれば、「ちゃんと読め」「どこにあるのか分かりにくい」という両者のすれ違いは減るだろう。



 ラッキーくんの進化はこうした機能面に限らない。現在はクリスマスやお正月など、季節のイベントに合わせて、チャット画面の背景やアイコンのデザインが変更されている。遊び心があるのはもちろんだが、「視覚的な変化で『ラッキーがちゃんとアップデートされている』ことを伝える効果があります」(浅野井さん)という。あいさつなどの雑談にもより多く対応できるように、日々開発を続けているそうだ。



 仕組みとしては単純で導入のハードルも低いチャットbot。しかし、だからこそ普及のためにどのような工夫をするかが、導入の成否を分けるポイントになる。失敗を乗り越え、ときには強制的な手段も使って成果を挙げた、横河レンタ・リースの事例は多くの企業にとって参考になるだろう。


    あなたにおすすめ

    ランキングIT・インターネット

    前日のランキングへ

    ニュース設定