胃ろうを拒み“平穏死”を選ぶ必然「最期をイメージできれば死ぬのも怖くなくなる」

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2019年01月17日 21:00  週刊女性PRIME

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写真はイメージです

 1986年『女が家を買うとき』(文藝春秋)での作家デビューから、71歳に至る現在まで、一貫して「ひとりの生き方」を書き続けてきた松原惇子さんが、これから来る“老後ひとりぼっち時代”の生き方を問う不定期連載です。

第11回
石飛幸三先生のお話を聞いて感動したこと
「死ぬのは気持ちがいいらしい」

 人生100年時代と言われるようになって久しいが、100年以上、生きたいと本気で思っている人がどれだけいるだろうか。友人の母親も今年で100歳を迎えるが、見た目は元気そうだが、頭も身体も年相応に弱ってきていて、見ているのが辛いと娘は語る。

 著書『長生き地獄』(SBクリエイティブ)でも書かせていただいたが、死を考えるとき、苦しまずにスーと逝けますようにと、願うしかない。

 昨年、「平穏死」を提唱されている石飛幸三先生のお話を聞く機会を得た。先生のご著書は何冊も読ませていただいているが、本で知るのと、実際に本人から聞くのでは、心への響き方が天と地ほど違う。改めて、足を運ぶことの大事さを痛感した。皆さんも、本を読んで共感したら、是非、著者の講演会に行って生で見てきてください。

 石飛先生は御年83歳、世田谷区の特別養護老人ホーム「芦花ホーム」の常勤医をされている。慶応大学医学部出身の血管外科医だった先生がメスを捨て、人間の終末期と寄り添おうと決意したのは、世界で初めてホスピスを作ったシシリー・ソンダース氏を訪問したことによる。

 当時の日本では、ベッドに拘束され苦しみながら死にゆく末期がんの患者さんが、ここではのんびりと葉巻をくゆらせていたからだ。日本の医療の在り方に疑問を持ったということだ。

老人が口から食べられなくなるのは、ごく自然なこと

 石飛先生は、約13年、芦花ホームの常勤医をなさっているが、死にゆく老人に医療行為をほとんどせずに、自然に看取っている。老人は、飲み込む機能の低下で誤嚥性肺炎になりやすい。日本の施設では、誤嚥性肺炎を起こすと胃ろうをさせるのが普通だ。口から食べられなければ胃に穴を開けて栄養補給すればいいという考え方からだ。また、胃ろうにすると介護するほうも、食べさせる手間がなくなり楽だからだ。

 石飛先生は言う。「老人が、口から食べられなくなるのは、ごく自然なこと。死に向かっているからです」。それなのに、無理やり栄養を与えるのは拷問のようなものだと怒る。

 わたしも取材で、胃ろうのまま何年も生かされている老人を見てきているので、よく理解できる。ムンクの叫びのような苦しい顔。声のない叫び。「胃ろうにすると、まだまだ生きますよ」の医師の言葉をうのみにして、了解してしまう家族があまりにも多すぎる。

 芦花ホームでは救急車も呼ばないし、鎮痛剤も使わない。自然に亡くなる過程において医療は不必要のようだ。先生は、死んだ経験があるかのようにおっしゃるのでおかしくなる。

「老いて死ぬのはまったく苦しくないですよ。むしろ気持ちがいい」

 介護現場で苦しむ老人を見ている人には、にわかには信じがたいだろうが、自然体でにこやかな先生を間近で見ていると、自然に笑みがこぼれてくる。

 石飛先生は、決して医療を否定しているのではない。

「未来のある若い人には医療が必要だが、老いて死にゆく人には、医療も治療もいらない。必要なのは寄り添うことだ」とおっしゃる。そして「人は食べないから死ぬのではなく、死ぬのだから、食べないのだ」と。

 納得しきりのわたしは、もっと人に伝えたくて、先生のお話を聞いて感動したことを自ら主催している講演会「ひとり語り」で1時間半しゃべったほどだ。観客の皆さんも石飛先生の考え方に感動してくれたので、うれしかった。

 石飛先生、大好き!!

誰だって老いるのは怖いし、死ぬのも怖い。でも──

 延命治療はしないと決めていたわたしだが、先生のお話を直に聞いているうちに、死ぬのが楽しみにすらなってきた。

 でも、今は、トンカツがおいしくてしょうがないので、死にそうもないが、いずれそのときがきたら、石飛先生の言葉を思い出し、救急車など呼ばずに、静かに寝ていることにする。

 誰だって老いるのは怖いし、死ぬのも怖い。でも、「最期はこんな感じで」というイメージができれば、死ぬのも怖くなくなる気がする。

 誰もが永遠には生きられない。いつ、後ろからふいに、ハンマーでたたかれて、死んでしまうかもしれない。そう思うと、今が愛しくなる。

 トンカツがおいしいって素敵だ。ビール、ああ飲みたい。これを楽しまなくて、どうしようというのか。年金の心配している場合ではないわ。

 でも、私の希望とは違い長生きして、ひとり暮らしが無理になり、施設に入るかもしれないが、絶対に胃ろうはさせないわ。もし手術室に運ばれたら、死に物狂いで医師の手を噛んでやるわ。そう、うちの凶暴な猫のように。そして、ありったけの力で「わたしの身体に指一本ふれさせない!」って叫んでやるわ。それでいいですよね。石飛先生。

<プロフィール>
松原惇子(まつばら・じゅんこ)
1947年、埼玉県生まれ。昭和女子大学卒業後、ニューヨーク市立クイーンズカレッジ大学院にてカウンセリングで修士課程修了。39歳のとき『女が家を買うとき』(文藝春秋)で作家デビュー。3作目の『クロワッサン症候群』はベストセラーとなり流行語に。一貫して「女性ひとりの生き方」をテーマに執筆、講演活動を行っている。NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク代表理事。著書に『「ひとりの老後」はこわくない』(PHP研究所)、『老後ひとりぼっち』『長生き地獄』(以上、SBクリエイティブ)など多数。最新刊は『母の老い方観察記録』(海竜社)

このニュースに関するつぶやき

  • おはようございます。朝から嫌な話だけど、やはり時々頭によぎる話題です。死は避けられないけど、どうせなら楽しく長生きしたいよね。寝たきりで苦しむ余生は勘弁かな。
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