発達障害は病気というよりも、少数派の「種族」だから生きづらい

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2019年01月19日 21:00  週刊女性PRIME

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 メディアで頻繁に取り上げられ、世の関心も高まっている発達障害は、その特性を正しく把握することが必要だ。発達障害を専門とする精神科医師の本田秀夫氏に聞いた。

  ◇   ◇   ◇  

 私はこれまで、発達障害の専門医として、こんな質問をよく受けてきました。

「発達障害と個性はどう違うのか?」と。

 私はその違いについて、拙著『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(SBクリエイティブ)にまとめました。このコラムでは、発達障害の特性について触れながら、なぜ発達障害が「少数派の“種族”」といえるのか、その理由ついてお話していきましょう。

発達障害と個性はどう違う?

 まずは、発達障害の特性から、説明しましょう。

 以下の図は、「発達障害の基本的な特性」を表しています。

 発達障害には、「自閉スペクトラム症」「注意欠如・多動症」「学習障害」など、いくつかの種類があります。そして、それぞれに特性があります。

 たとえば、自閉スペクトラム症には「対人関係が苦手」で「こだわりが強い」という特性があり、注意欠如・多動症には「多動性・衝動性」と「不注意」という特性があります。

 発達障害とは、これら「自閉スペクトラム症」「注意欠如・多動症」「学習障害」などを総称した呼び方なのです。

こだわりを対人関係のなかで調整できるかがカギ

 発達障害は、その人が持つ「特性」、一般的な「個性」とはどう違うのか。ここではケーキ好きな女性たちを例に解説しましょう。

 会社などで、休み時間に女性どうしがおしゃべりをするときに、どこのお店のケーキがおいしかったという話になることがあります。そうすると、ほかのお店のケーキと比べてどうか、使っている材料はそれぞれなにか、最近できた新しいお店はどうなのか、といった具合に、マニアックな知識が次々に披露されたりします。

 このような会話をする人のなかには、「ケーキオタク」と呼べる人もいるでしょう。

 では、ケーキオタクの女性たちに、「対人関係が苦手」「こだわりが強い」という自閉スペクトラム症の特徴が見られるかというと、一概にそうとはいえません。

 ある種のこだわりをもっていても、それを対人関係のなかで柔軟に調整できる場合には、むしろ「対人関係が良好」だったりします。

 ケーキに関する雑談でいえば、参加者のほとんどは、ケーキの知識を追究するためではなく、おしゃべりで時間をつぶしながら親交を深めるために、たまたまケーキを題材にしているのに過ぎないわけです。

 もうひとつ補足しておくと、オタクの人は、興味がなくてもケーキに関するおしゃべりにそれなりに参加できますが、自閉スペクトラム症の特性がある人は、もしもケーキに興味がない場合、そもそもおしゃべりに積極的に参加しようとはしません。彼ら彼女らにとって会話はあくまでも情報交換のためであり、時間つぶしや交流のために会話をしようという意欲は、基本的には低いのです。

 いっぽう、自閉スペクトラム症の人は、対人関係のために大好きなことの優先順位を下げることには抵抗があるのです(それが「対人関係が苦手」で「こだわりが強い」という特性につながります)。

 この「対人関係」に着目すると、自閉スペクトラム症の人とオタク(個性的な人)との微妙な違いが浮きぼりになっていきます。

発達障害と個性との違いに、明確な境界線はない

 しかし、発達障害と個性との違いは、まさに「微妙な違い」です。

 なぜなら、対人関係やこだわりの調整は「できる」「できない」の2つにはっきりと分けられるものではなく、あいまいなものだからです。

 調整できる場面が多ければ「個性的な人」や「オタク」に近く、調整が難しいと自閉スペクトラム症の特徴に近いというふうに考えられます。

 発達障害と個性、自閉スペクトラム症とオタクに明確な違いなく、「個性」や「オタク」、発達障害は地続きのもので境界線はないといえます。

なにも話さずに見ているのも「好き」ということ

 自閉スペクトラム症の特性が強い人の交流スタイルという点で、とある女の子のエピソードを紹介しましょう。

 彼女が家にいて遊んでいたときのこと。手のあいた母親がそばにいって、いつもより積極的に話しかけたりスキンシップをとったりしながらいっしょに遊んでいると、 彼女は母親に向かってこう言ったそうです。

「お母さん、なにも話さないで見ていてくれるのも『好き』っていうことなんだよ」
 
 彼女の理想は、母親にそばにいてもらい、やや並行遊びのような感じで淡々と過ごすことであり、それが彼女にとっての「お母さんといっしょに楽しく遊ぶ」という感覚なのでしょう。

 ほかの子が好む母子のスキンシップとは異なりますが、それが彼女にとっては心地よいやり方なのです。

 私はNPO法人などで、発達障害の方たちの余暇活動を支援しています。その活動のなかで「黒ひげ危機一発」で遊んだときのエピソードを紹介しましょう。

「黒ひげ危機一発」を使って、自閉スペクトラム症の子どもたちが、ユニークな遊び方をしていたことがあります。ひとりずつ順番に剣を刺すのではなく、ひとりが剣を刺し続け、人形が飛び出したら次の子に渡すという遊び方です。

 一般的な遊び方は「誰が刺したときに、黒ひげが飛び出すだろうか?」というスリルを共有することですが、その子たちにとっては、ほかの子とスリルを共有することは二の次だったのです。ひとりだけが剣を刺している間、まわりではそれぞれが好きなことをして、別の遊びを楽しんでいました。

 でも、子どもたちは「みんなで『黒ひげ危機一発』ゲームをして楽しかった!」と語り合っていたのが印象的です。

発達障害とマイノリティ問題

 では、「黒ひげ危機一発」のユニークな遊び方をしているときに、ひとりだけ「みんなで順番に剣を刺そうよ!」と提案する子がいたとしたら……その子は、居心地が悪かったかもしれません。なぜなら、ユニークな遊び方をしている場面では、一般的な遊び方のほうが少数派だからです。

 私は、発達障害の人が向き合う困難は、社会のなかで少数派であること、つまり「マイノリティ問題」と共通していると考えています。

 人種や民族、性的志向などの少数派(マイノリティ)といわれる人たちは、偏見や差別の目にさらされることがあります。

 では、なぜ偏見や差別が生じるのかというと、マイノリティの人たちがマジョリティ(多数派)を知るほどには、マジョリティはマイノリティのことを知らないからです。

発達障害は、少数派の「種族」である

 発達障害は、病気というよりも、少数派の「種族」のようなものと考えるべきです。
多数派が少数派のことを理解して、お互いに助け合っていくことによって、偏見や差別が少しでも減らせるのではないかと思います。
そうすれば、発達障害の特性があっても「障害」とは言わなくてよい人たちが、いまよりも増えていくに違いありません。

 また、「黒ひげ危機一発」ゲームの例でいえば、通常とは違った遊び方を楽しんだからといって、通常の遊びを楽しむ能力の欠損があるわけでも、能力が劣っているわけでもありません。

 もしも、楽しみ方に優劣があると考える人がいるとすれば、それは多数派のおごりでしょう。自閉スペクトラム症の人たちの楽しみ方は、ただ少数派というだけです。

 そして、発達障害(とくに自閉スペクトラム症)の特性がある人たちの社交の仕方は、そういう微妙な対人関係よりも自分の関心、やり方、ペースの維持を最優先させたいスタイルだとしかいいようがありません。

 そのスタイルがいい悪いということはなく、それぞれにスタイルがあるというだけの話なのです。

発達障害の特性を「選好性」としてとらえる

 少し専門的な話になりますが、私は発達障害の特性を「〜が苦手」という機能の欠損として考えるよりも、「〜よりも〜を優先する」という「選好性の偏り」としてとらえたほうがしっくりくるように考えています。ここでいう「選好性」とは、Aというものではなく、Bというものを選ぼうとする生来の志向性のようなものです。

 たとえば、「雑談が苦手」という特性は「雑談よりも内容重視の会話をしたがる」という具合に、「対人関係が苦手」という特性は「対人関係よりもこだわりを優先する」という選好性としてとらえることもできます。

 また、注意欠如・多動症の特性を「じっとしていることが苦手だが、それは思い立ったらすぐに行動に移せるという長所でもある」というとらえ方もできます。

 このコラムによって、より多くの方に、発達障害の方の志向性や社交のスタイルなどに関心をもって、理解していただくことにつながれば幸いです。

文/本田秀夫(信州大学医学部子どものこころの発達医学教室・医学博士)

本田秀夫(ほんだひでお)
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事
精神科医師。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年より現職。日本自閉症協会理事、日本児童青年精神医学会代議員。
2013年刊の『自閉症スペクトラム』(SBクリエイティブ)は13刷5万部超のロングセラー。

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