『僕の初恋をキミに捧ぐ』なぜ映画からTVドラマへ? “少女漫画実写化ブーム”にも変化が

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2019年01月26日 06:12  リアルサウンド

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 1月19日よりテレビ朝日系列の「土曜ナイトドラマ」枠でスタートした『僕の初恋をキミに捧ぐ』。2005年から2008年まで「少女コミック」(小学館)で連載されていた青木琴美の人気漫画を原作にした本作は、心臓病を患い20歳まで生きられないと知った垣野内逞(野村周平)と、彼の初恋の相手で主治医の娘でもある種田繭(桜井日奈子)を主人公に、2人の純愛を描くラブストーリーだ。


参考:桜井日奈子の“透明感”が放つ学園物語の輝き 『僕の初恋をキミに捧ぐ』一筋縄ではいかない恋と友情


 10年ほど前(2009年10月)に岡田将生が逞を、井上真央が繭を演じて映画化されているこの原作。当時の日本映画界の潮流を思い返してみると、その数年前に『世界の中心で、愛を叫ぶ』が大ヒットを記録したことに端を発する、いわゆる“難病もの”ブームが徐々に終息期へと突入し、その一方で後々一時代を築くことになる“少女漫画原作映画”が徐々に増えはじめた時期でもある。そう考えると、同作はブームとブームの橋渡しをつとめた重要な作品であったといえるだろう。


 しかしながら、すでに映画として実写化されているにもかかわらず、何故ふたたびこうしてテレビドラマという形で映像化されたのか。それは昨年で創刊50周年を迎えた「少コミ」の記念プロジェクトの一貫で、過去の人気作や「少コミ」を代表する作品を映像化する目的があったと言ってしまえばそれまでなのだが、ここはひとつまったく異なるキャスト・スタッフで、かつ映画からテレビドラマへとメディアを変えて映像化するメリットについて考えてみたい。


 まず仮に『僕の初恋をキミに捧ぐ』が映画でのリメイクであったならば、一昨年末の『8年越しの花嫁 奇跡の実話』をきっかけに再燃しはじめている“難病もの”映画のブームに乗り、ふたたび橋渡し役になるという見方もできたのだが(もちろんメディアを跨いで映像業界全体の潮流に乗ったという部分もあるのだろうが)、今回は深夜帯の連続ドラマだ。過去に同じようなリメイク事例があったのかざっと調べてみると、「少女漫画原作」で「映画からテレビドラマ」に「どちらも国内制作」で「まったく別の座組み」で作られたと限定していくとかなり絞られる。


 すぐに浮かぶところでは昨年の1月クールにフジテレビ系列の月9枠で放送された『海月姫』だろう。2014年に能年玲奈(現:のん)主演、相手役には菅田将暉を配して映画化。ドラマ版ではNHKの朝ドラ『べっぴんさん』を終えてまもない芳根京子が主人公に、そして瀬戸康史が相手役を演じた。また、『ハチミツとクローバー』は、2006年に櫻井翔と蒼井優で映画化、2008年に生田斗真と成海璃子でドラマ化と、非常に映画化とドラマ化の間隔が短く、原作のパワーに乗じた感も強い。そして、実写映画化から約10年の間隔を経てテレビドラマ化という今回と同じような時間軸をたどった『花より男子』。


 いずれも連載中に映画化(厳密に言えば『ハチクロ』は映画公開のタイミングで完結したのだが)され、連載終了後に改めてドラマ化している。連載終了後の2009年に映画化、今年ドラマ化した『僕の初恋をキミに捧ぐ』が原作・映画・テレビドラマの関係性として少々異例なタイプだということがわかる。


 とはいえ、非常にわかりやすい例として(井上真央つながりもあるので)『花より男子』を比較対象としてみると、「映画」と「テレビドラマ」それぞれ違う形で作ることのメリットが顕著に見えてくるのではないだろうか。95年の内田有紀主演の映画版では物語の要素を活かしながらも設定を大幅に変更し、かつ映画の尺の中で完結する極めて端的なストーリーとして脚色が施されていた。その一方で、井上真央と松本潤の共演で社会現象を巻き起こし、続編や新たな映画版まで作られた2005年のテレビドラマ版は、ストーリーの奥行きやキャラクターの個性が倍増。そこにはやはり、2時間弱の映画と毎週1時間弱×3カ月の連続ドラマそれぞれが持つ情報量の大きな差が垣間見える。


 いわば、原作の持つテーマをより洗練した形で抽出することができる「映画」と、原作に忠実にキャラクターやエピソードなどを満遍なく描写することができる「テレビドラマ」という“それぞれの良さ”という違いである。現にこの『僕の初恋をキミに捧ぐ』も、映画版では子ども時代から中学時代の仲睦まじい主人公カップルを描き、高校時代を中心に2人の物語にフィーチャーしていく純愛ラブストーリーとしての強固とした側面を持つ一方で、原作漫画に登場した一部のキャラクターの描き込みが薄くなったり、はたまたカットされたりするなど、映画の特性上避けられなかった部分が多々あったことは否めない。


 しかし今回のドラマ版では、映画版と同様に一部に設定変更が加えられているとはいえ、より原作に近く、多くの要素を映像化できる土壌が備わっているわけだ。それに加えて、主人公2人にフォーカスを置きながらも周囲のキャラクターをしっかり描けるという強みを活かし、主演の2人に加えて宮沢氷魚や佐藤寛太、岐州匠、福本莉子といった将来性豊かな若手キャストたちのアンサンブルという見どころを生み出す。ある意味では、これまで若手キャストを輩出する役割を果たしてきた少女漫画原作映画のブームが下火になっていることも相まって、その役目がテレビドラマへシフトしたということも考えられるだろう。映画よりも確実に出番が多くなるだけに、そのシフトチェンジは非常に合理的だ。


 そう考えると、あまりにも大量生産されて原作ファンから批判的な意見や、業界内でもメリットが少ないと思われ始めている少女漫画原作の“キラキラ映画”に代わり“キラキラドラマ”なるものが主流になる日も近いのかもしれない。ましてや、この「土曜ナイトドラマ」枠は7話完結が通例なだけに、ある程度洗練された物語でテーマを薄めることなく、キャラクターやエピソードをしっかりとすくい上げる余裕もある。本作も第1話の時点で、非常に良い実写化の形が生まれることを予感させてくれただけに、今度はブームの橋渡しではなく、新たなブームを生み出す作品となるのではないだろうか。 (文=久保田和馬)


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