「あの人、見覚えがある……」万引きGメンが捕まえた熟年女性、その正体にスーパーの社長も絶句

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2019年01月26日 20:03  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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 こんにちは、保安員の澄江です。

 以前、急な欠員が出たということで、本来であればあり得ない、自宅からほど近いところにある生鮮スーパーで勤務することになりました。長く同じ街に暮らしているために顔見知りも多く、たまに行く店でもあるので、何度かお断りしたのですが、今回限りということで部長様に拝み倒されてしまい、やむなくお受けしたのです。ましてや、私の年齢(60代)は、万引きする人が非常に多い世代。もし、自分の同世代の知り合いが万引きしているところを現認してしまったら、いつも通りに声をかけて、警察に引き渡すことができるでしょうか。そう考えると、全ての場面において躊躇する自分しか想像できず、かといって犯行を現認してしまえば、それを見逃すわけにもいきません。結局は、そのような場面に遭遇しないことを祈るほかなく、重く憂鬱な気持ちで現場に向かった次第です。

 当日の現場は、関東近郊の住宅街にポツンと位置する激安生鮮スーパーM。この店は個人店主が経営する地域密着型の店舗で、妙に気合の入った職人気質の社長兼店長が、全てを取り仕切っているようなお店です。コンビニを少し大きくしたくらいの規模の店内は、棚が低く、見通しもよいので被害は少なそうですが、店外売場はいつも無人で、店内外を自由に行き来できる構造が来るたびに気になっていました。設置されている防犯機器といえば、出入口とレジ上に古いタイプのカメラが付けられているくらいで、従業員の数も少なく、制服警備員の配置もないので、お客さんの良心に支えられているタイプの店舗といえるでしょう。狙ったモノを、店外売場に持ち出してしまえば、いくらでも盗めてしまう。そんな造りのお店なのです。

 事務所に向かい、特売の値札を作成中だった社長に声をかけて挨拶を済ませると、初対面にもかかわらず少し乱暴な口調で指示されました。

「中はいいから、外を中心にみてくれるか? 米、油、洗剤、缶詰なんかがやられてるみたいで、毎月、全然数が合わねえんだ」

 正直な話、寒い冬の日に外の売場を巡回するほどツラい仕事はありませんが、断るわけにもいきません。当日の業務は、午前10時から午後6時まで。勤務開始前に、近くのドラッグストアでいくつかのホッカイロを購入した私は、それをおなかにあててから、勤務を開始しました。寒い日には、これが一番なのです。

 顔見知りを見かけることもなく無難に前半の業務を終えて、閑散とした店内を見ながら休憩に入ろうか考えていると、どこか見覚えのある熟年女性が売場に入ってきました。

(あれ、あの人……、誰だっけ?)

 絶対に見たことがある人なのに、年齢のせいなのか、どうにも思い出せません。遠目から気付かれぬように、顔を見ながら記憶を辿ってみても、まったく思い出せないのです。すると、持ち手つきのサラダ油(198円・税抜)の前で足を止めた熟年女性は、片手に3本ずつ、合計6本のサラダ油を手にすると、嫌な目付きで後方を振り返りました。万引きを特集するテレビ番組的にいえば、まさに「ちょバリ(超バリバリに挙動が怪しい)」といった様子で、この人が誰なのかということは、もはやどうでもよいことになりました。

(きっと、やる)

 そう確信した私は、絶対に気付かれない位置から、熟年女性の行動を見守ります。出口付近ですれ違った女性店員と、軽く挨拶を交わしたところをみると、恐らくは常連客なのでしょう。なに食わぬ顔で、女性店員が店内に戻るのを見届けた熟年女性は、少しだけ顔をひきつらせながら後方を振り返ると、6本のサラダ油を持ったまま店の外に出ていってしまいました。できる限りの早足で追いかけ、道路を横断しようとする熟年女性に追いついた私は、その背後からそっと声をかけます。

「こんにちは、店内保安です。お客様、なにかお忘れじゃないですか?」
「ひっつ……、な、な、なんですか?」
「なんですか、じゃないでしょう? そのサラダ油、お支払されてないですよね?」
「はあ? あっ、そうだ! ごめんなさい、うっかり忘れていました……」

 どこか芝居染みた口調で、意外と素直に犯行を認めた熟年女性は、その場を取り繕うように踵を返すと店内に向かって歩き始めました。

「ちょっと、待って。事務所は、こちらですよ」
「ちょっと忘れていただけなんですよ。お金払ってきますから、勘弁してください」
「なにも買わずに、それだけ持ち出しているんだから、そんなの通用しませんよ。事務所に来てもらえないなら、いますぐ警察を呼ぶことになりますけど、いいですか?」
「…………」

 携帯電話を手に通告すると、どうやら降参したらしい熟年女性は、ガックリとした面持ちで事務所への動向に応じました。手錠をはめられたような格好で、6本ものサラダ油を持ち歩く姿は異様で、どこか滑稽に見えるほどです。

「万引きです……」

 事務所に到着して、被疑者である熟年女性を社長に引き渡すと、社長の口から思わぬ言葉が飛び出しました。

「あれ、おかみさんじゃねえか。おいおい、ウソだろ? 冗談だよな?」
「お知り合いなんですか?」
「この人、目の前にある中華屋の奥さんだよ」
「ああ、あそこの……」

 どこかで見かけた理由が判明して、少しスッキリしましたが、社長の怒りは徐々に大きくなっていきます。

「おかみさん、一体どういうつもりなんだよ。いままでに、何度もやってんだろう? 毎日のように通って、毎年の新年会と忘年会でも使っているのに、これはあんまりじゃねえか?」
「社長さん、ごめんなさい! もうしないし、これも買わせてもらいますから、勘弁してもらえませんか?」
「そんな簡単に許せるわけねえだろ。この油、店で使うんだろ? 親父さんも知ってるのか?」
「はい。でも、私が勝手にやったことです。お願いですから、主人には言わないでください! 離婚されちゃう……」

 お店で使うために万引きしたと白状したおかみさんは、その場に土下座すると、床に顔つけるようにして体を丸めて泣き始めました。それを見た社長は、フンと鼻で笑うと、その場で電話をかけ始めます。

「毎度、スーパーMです。親父さん、ランチ終わったろ? おかみさんのことで、ちょっと大事な話があるんだ。いますぐ店の事務所に顔出してくれねえかな……」
すぐに駆け付けてきた親父さんは、床にうずくまるおかみさんの姿を見て狼狽すると、まるで状況が呑み込めていない様子で言いました。
「おまえ、どうした?」
「あんた、ごめんなさい! 許して!」

 その後、警察を呼ばないことを条件に、過去の犯行も告白したおかみさんは、いままでに何度も、油や米、調味料などを盗み出していたことを認めました。その理由は、お店の経費を浮かすため。おかみさんの犯歴を聞く親父さんの顔は、この上なく痛々しく、見ていてとてもつらかったです。結局、いままでの分を含めた形で被害弁償することで示談した社長は、警察を呼ぶことなく2人を解放しました。示談金の額は、15万円。この額面が多いか少ないかはわかりませんが、利害関係人が納得しているので、きっと妥当な額なのでしょう。

 それからだいぶ後ですが、件の夫婦が営む例の中華料理屋でランチをとってきました。お世辞にもはやっているとはいえないものの、その様子に特別な変化はなく、いまもご夫婦で営業されておられましたよ。チャーハンをいただきながら、以前と変わらないおかみさんを見て、離婚されなくてよかったねと、心の中でつぶやきました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

このニュースに関するつぶやき

  • 「この人、目の前にある中華屋の奥さんだよ」・・・高崎の油そば屋、ランチタイムにmixi書き込みするくらい客が来ないのに潰れないと思ったら、こんな手口で経費削減しているのかもしれませんね。
    • イイネ!5
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