無実を叫んで54年、獄中死した元死刑囚 その無念に迫る映画『眠る村』公開

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2019年01月27日 10:52  弁護士ドットコム

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2015年10月、1人の死刑囚が無実を訴えながら、獄中で病死した。元死刑囚の名は、奥西勝。三重県名張市で起きた「名張毒ぶどう酒事件」(1961年3月)で死刑が確定し、第9次再審請求中に、89歳で還らぬ人となった。


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生前、奥西元死刑囚は「真実を叫んでも信じてもらえぬ」とつづっていたという。2015年に獄中死するまで54年間にわたって無実を訴えた奥西元死刑囚の無念を晴らすべく、事件から57年が経った今でも、真実解明を望む支援者やジャーナリストたちがいる。


事件の真相に迫るドキュメンタリー映画『眠る村』(制作:東海テレビ)が2月2日から東京・ポレポレ東中野のほか、全国で順次公開される。制作を手がけた阿武野勝彦プロデューサー(東海テレビ)と齊藤潤一監督(同)に話を聞いた。(編集部・吉田緑)


●「無罪」→「死刑」の逆転判決

映画のタイトルに使われる「村」とは、事件現場の葛尾地区と裁判所を意味する。村と裁判所でなにが起きていたのか。そして「眠る」とは、どういうことか。映画は事件当時の貴重な映像を織り交ぜながら、ありのままの事実を突きつける。



奥西元死刑囚は警察の取調べに対して「妻と愛人との三角関係を清算するためにやった」と自白し、事件から6日後に逮捕された。しかし、逮捕された後に「自白は警察に強要された」と、無実を主張する。


当初の村人たちの証言は、奥西元死刑囚以外の犯行も考えられるものだった。ところが、奥西元死刑囚の自白後、村人たちの証言は一変し、犯行を裏付けるかのような証言をし始めたのだ。


1審は証拠不十分だとして、奥西元死刑囚に「無罪」が言い渡された。ところが、控訴審では「自白は信用できる」として死刑判決がくだり、1972年に最高裁で死刑が確定した。


死刑囚となった後も、奥西元死刑囚は無実を訴え続け、裁判のやり直しを求めて9度も再審請求した。弁護団は最新の科学に基づいた新証拠をみつけては、その都度、再審請求の壁を乗り越えるべく立ち向かった。


●「私が死ぬのを待ってる、裁判長も」

しかし、裁判所が再審を認めることはなかった。2005年に1度だけ再審開始決定が出たものの、翌年に取り消されている。その理由は常に「自白は信用できる」というものだった。


奥西元死刑囚が亡くなった後、妹である岡美代子さんが再審請求を引き継いだ。しかし、裁判所の姿勢は変わらず、請求は棄却される。「私が死ぬのを待ってる、裁判長も」ーー。予告編では、岡さんの悲痛な声を確認できる。



「岡さんはおとなしい人。今まで裁判所を批判したこともなく、再審が開始されることを信じてきた。静かなる怒りが爆発したのだと思う」と齊藤監督は説明する。


「なぜ裁判所は真剣に証拠に向き合わないのか。なぜ弁護団の話を聞こうとしないのか。『疑わしきは罰せず』の大原則はどこにいったのか」と、齊藤監督の疑問は膨らんでいったという。


●故・樹木希林さん「この事件で、弁護士が育てられている」


長年にわたる弁護団の努力を記録した数々の映像も『眠る村』の見どころの1つだ。結成から40年、弁護団の活動はすべて手弁当でおこなってきた。それでも奥西元死刑囚を救うため、常に全力を注ぎ続ける弁護士たち。


阿武野プロデューサーは「弁護団の熱量が伝わってくる作品になった」と話す。そして、こんなエピソードを教えてくれた。


2018年に亡くなった樹木希林さんは、かつて『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』(東海テレビ放送・2013年劇場公開)で奥西元死刑囚の母・タツノを演じている。2015年、奥西さんが獄中死した際、「長い獄中生活、さぞかし無念だったと思います…」と伝えると、樹木さんは「この事件によって、弁護士が育てられている。だから、奥西さんが生きたことはとても大きな意味があったのだと思う」と話したそうだ。


齊藤監督も「弁護団長の鈴木泉弁護士は『冤罪をなくしたい』という志を持って、弁護士になったと聞いた。年齢を問わず、弁護団の弁護士たちは高い志をもっている。熱く志ある若い弁護士の誕生に今後も期待したい」と話す。


映画には他にも、新証拠をみつけるために奮闘した稲垣仁史弁護士らの姿があった。


●「眠る」2つの村、葛尾と裁判所

「名張毒ぶどう酒事件」はなにを残したのか。真実は闇の中に葬られたままでよいのか。『眠る村』はさまざまな問いを投げかけてくる。


「日本にはいろいろな村社会がある。裁判所も1つの村。映画をみて、『村』を感じてほしい」と齊藤監督はいう。眠る村は葛尾だけではない。裁判所もまた、幻の「自白」のうえに眠り続ける村なのだ。



長年取材を続け、これまでも「名張毒ぶどう酒事件」をテーマにしたドキュメンタリー作品を制作してきた東海テレビ。『眠る村』は「名張シリーズ」7作目の作品となる。ナレーションを担当するのは『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』(2013年)で奥西役を演じた仲代達矢さんだ。


阿武野プロデューサーは「映画を通して、なにが起きたのか、なにが根っこにあるのかを知ってもらえればと思う。日本のなにかが見えてくる」。


【『眠る村』作品情報】


2月2日(土)より東京・ポレポレ東中野にて公開ほか全国順次


WEBサイト: http://nemuru-mura.com


ナレーション:仲代達矢プロデューサー:阿武野勝彦 監督:齊藤潤一 鎌田麗香 製作・配給:東海テレビ放送 配給協力:東風


*「名張シリーズ」4作品などが映画の公開に合わせて日本映画専門チャンネルで特集放送される。


特集ページ:https://www.nihon-eiga.com/osusume/tokaidoc/


(弁護士ドットコムニュース)


このニュースに関するつぶやき

  • これは難しいね。ただ死刑が確定しているのに長期間執行されず獄中死は大問題。執行しないのは裁判所の判断を無視しているのか冤罪だと思っていたのかと司法を疑ってしまう。
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