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なぜコインハイブ「だけ」が標的に 警察の強引な捜査、受験前に検挙された少年が語る法の未整備への不満

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2019年01月30日 13:02  ねとらぼ

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ねとらぼ

写真コインハイブ事件の年表(coinhiveuser.github.ioより引用)
コインハイブ事件の年表(coinhiveuser.github.ioより引用)

 サイト訪問者のPCを使ってWebブラウザ上で仮想通貨をマイニング(採掘)させる「Coinhive(コインハイブ)」を設置したことを巡り、複数の検挙者が出ている問題(通称:Coinhive事件)について、検挙当時未成年だった少年がねとらぼ編集部の取材に応じ、当時の状況や「Coinhive事件」の問題点について語りました。



【画像で見る:コインハイブ事件の時系列】



●「Coinhive」とは



 Coinhiveとは、Web運営者がCoinhiveのコードをサイトに埋め込むことにより、アクセスした閲覧者に「Monero」という仮想通貨をマイニング(採掘)させて、報酬を受け取るサービス。運営者は採掘で得た利益の7割を受け取ることができるとあり、2017年10月ごろから日本でも話題を呼びました。



 Coinhive側は、これまで多くのサイトが広告収入に頼ってサイト運営をしてきたという状況に触れつつ「邪魔な広告の代替手段を提供することがゴール」とサービス内容を説明。広告表示を減らせるという点などがメリットとして注目され、「仮想通貨の新たな可能性を示している」と期待の声も上がっていました。



 一方でスウェーデンのTorrentファイル検索サイト「The Pirate Bay」が、ユーザーへの説明なくCoinhiveを設置した際にはそのコミュニティー内で物議をかもした他、ネット上では「無断で訪問者のCPUを使用しているのでは」と批判的な声も上がるなど、賛否両論の状態が続いています。



 また日本では2018年6月14日に警察庁が「マイニングツールの設置を閲覧者に明示せずに設置した場合、犯罪になる可能性があります」との注意を呼び掛けた他、同日、共同通信などが「神奈川や愛知といった全国の10県警が不正指令電磁的記録供用容疑などで計16人を摘発したことが14日、警察庁のまとめで分かった」とマイニングツール(Coinhive)を設置した16人が検挙されていたことを報じましたが、「なぜ犯罪になるのか説明がない」「どこからが罪になるのか示していないのは問題では」との指摘が相次ぎ、検挙についても「法の乱用」「恣意的な解釈」と批判的な声が上がっています。



●少年はなぜ検挙されたのか



 今回ねとらぼ編集部に情報提供を行ってくれたのは、この検挙を受けた少年。本人のプライバシーに配慮し、一部の情報は伏せるとの条件で当時の状況を語ってくれました。



――Coinhiveを知ったきっかけを教えてください。



少年:ニュースサイト「GIGAZINE」で2017年9月20日に公開された記事「人気サイトがアクセス数の多さを利用し閲覧者のCPUパワーで仮想通貨マイニング、広告に代わる収入源になるか?」を読み、Webサイトの新たなマネタイズ方法として興味を持ったのがきっかけです。記事にはCoinhiveの導入について賛否両論が上がっているとの内容が記されていましたが、このころはまだCoinhiveというサービスができたばかり(2017年9月14日にサービス開始)で、日本のユーザーも少なく、マナーやモラル的にCoinhiveの導入を問題視する声はあっても、違法となる可能性について、法的な意見は全く上がっていませんでした。



――ご自身としてはCoinhiveの導入についてどんな印象をもっていましたか。



少年:一般的にもよく知られるWebに埋め込むタイプのサービスで、自分のWebサイトで利用する分には何ら違法な点はないと思いました。例えば他人のWebサイトに埋め込めば不正に収益を得ることもできるかもしれませんが、それは基本的にどのプログラムでも悪意のある使い方をしようとすればできるので特別なことではないとも感じていました。



――それで自身のサイトにCoinhiveを導入したんですね。



少年:私が導入したのは自身が立ち上げた趣味のWebサイトです。9月下旬にCoinhiveのアカウントを作成し、導入しました。



――マイニングではどのぐらいの収益を得られましたか。



少年:お世辞にもアクセス数が多いとはいえないサイトでしたので、予想通りほとんど収益はありませんでした。引き出しの最低金額も一切満たしていませんでしたので、利益は手にしていません。



――サイト導入から間もなくCoinhiveを削除されたのはなぜですか。



少年:2017年10月ごろから日本でも利用者が増え始め、あまり評判のよくないブロガーがCoinhiveを設置していたことが明らかになると、批判の声が高まりはじめました。また市販のアンチウイルスソフトウェアがCoinhiveをウイルス扱いし始め、Coinhiveをよく知らない閲覧者がウイルスだと勘違いして評判が落ちることなども憂慮し、削除を決めました。設置から削除までの稼働期間は1カ月程度です。



――12月10日には日本経済新聞が「仮想通貨で不正サイト 『採掘』を無断で手伝わせる」という記事を掲載し、弁護士の見解として「サイトの閲覧者に告知せず意図に反してマイニングをさせる行為は、不正指令電磁的記録供用罪などに当たる可能性がある」と紹介したことが大きな話題を呼びました。これについてはどう感じていましたか。



少年:自分の見解とは少し違うと感じました。万が一捜査が始まるとしても、それなりに多くの人が違法だと思わずに利用していたのだから、何かしらの事前警告があったりするだろう、また捜査の対象となるのは「サイトを閉じても裏でマイニングが継続される悪質なもの(※)」「他人のサイトを改ざんし、Coinhiveを埋め込んで利益を得るもの」など悪質なユーザーだと考えていました。さらに言えば、ユーザー側は製作者の想定した使い方をしただけですから、それが不正指令にあたるのならば、基本的に利用者よりも先にCoinhiveの製作者が罪に問われるのではとも考えていました。



(※)サイトを閉じても裏でマイニングが継続される悪質なもの ……ブラウザを閉じてもタスクバーの裏に小さなウィンドウが隠れており、そちらでマイニングが継続されるもの。GIGAZINEなどの一部のニュースサイトや海外サイトでも2017年12月から問題が報じられている。



――この記事で話題になったことと言えば、「サイト閲覧者には多くのリスクが生じる」「個人情報を盗んで犯罪に悪用する恐れも出ている」といった弁護士の見解ですが、これについてはどう思いましたか。



少年:PCのCPUの使用率はマイニング時は100%になるとか、動作が遅くなるとか、バッテリーの過熱状態が続くことで製品の寿命が縮むとかという見解については、全く事実と異なっていると思います。特に「プログラムを改造し、個人情報を盗んで犯罪に悪用する恐れも出ている」という点に関しては、Webサイト上のプログラムで個人情報を盗み出すことが技術的に可能であるかどうかすら疑問ですし、全くの事実無根であるとしか言いようがないと思います。



●突然の家宅捜索



――Coinhiveの削除からしばらくたってから警察が訪ねてきたそうですね。



少年:Coinhiveの削除から半年以上がたったころの早朝、私が自室で休んでいると、親が私を起こす声が聞こえたので、起き上がって部屋の外に出ました。すると、自室の前までやってきた警察官数人が私の部屋の中へと入ってきました。突然のことに驚きつつも「令状を見せてほしい」と頼むと、「不正指令電磁的記録○○(※)」という表題で自分の名前が書かれた書類を見せられました。このとき、任意か強制かも確認しましたが、「強制」とのことで、何の事件で捜査されることになるのかを考えましたが、思い当たりませんでした。



(※)「不正指令電磁的記録○○」……情報提供者の少年によると、「○○」の部分に何が書いてあったのか記憶が定かでないとのこと。供用、保管、取得などと推測される。



――どこでCoinhive事件での捜査だと分かったのですか。



少年:当初は「借りているサーバか、自宅で動かしていたPC・サーバに何か仕込まれたのか」と、遠隔操作事件の事を思い出していましたが、次のやり取りから捜査の概要が見えてきました。



少年:(Coinhiveを設置したサイトのドメイン)〇〇ですか?



警察官:そうだ。(そのサイトで)何か使わなかったか?



少年:Coinhive?



警察官:そうだ。



少年:捜査員が「私が本当に悪いとされているものを使ったかのような口ぶり」だったことには違和感がありましたが、12月10日に掲載された日経新聞の記事の内容を思い出しました。



――いくつか物品の差し押さえを受けたそうですね。主にはどんなことを聞かれましたか。



少年:警察官によるPC操作でSNS、ドメイン、メールなどにログインし、情報の確認をされました。またそれらのIDとパスワードを紙に書きだすように言われ、従いました。IDやパスワードを伝えたり書き出したりする事は、家宅捜索の上で必要な事だとは理解していますが、情報やセキュリティを専門的に勉強している私にとって、それらの行為やスマートフォンの中身、SNS上の会話を見られることは非常に屈辱的でストレスを感じる行為でした。また矢継ぎ早な質問の中、Coinhiveに登録していた仮想通貨の出金先のアドレスがなかなか思い出せず私が悩んでいると、複数の警察官から「これだけしっかり覚えているのだからこれだけ忘れているのはおかしい」「何か隠しているだろう」「不利になるだけだぞ」と追い詰めるような言葉があり、少しパニックになったという場面もありました。



――その後はどういった流れで調べが行われましたか。



少年:差し押さえ等が済んだ後に、「あらためて話を聞くので警察署に来るように」と言われたので、「逮捕はされないようだ」と思いました。その後数回警察署に赴いて素直に取り調べを受けましたが、「単純に私が悪かったです。ごめんなさい」で終わらせてしまってはいけない事件なのではないか、と思い、警察官があらかじめ用意していた表現を修正してもらったうえで、調書には「現在これは悪質であり罰するべきという意見や、これは犯罪に当たらないのではないかという意見等さまざまありますが、私としては法的な判断を早く出してほしいと思っています」という内容を記述してもらいました。一方で「反省している」旨の記述は私の話を構成するうえでどうしても必要だとのことだったので、「反省しています」ということも書いてもらいました。



――取り調べ後はどんな行動をしましたか。



少年:警察からは「できるだけ外に(Coinhive事件のことを)言うな」と不可思議な口止めを受けましたが、有識者に相談をした方が良いと判断し、セキュリティ研究者の高木浩光先生にメールで相談をしました。



――高木浩光さんにコンタクトしたのはどういった思いからだったのでしょうか。



少年:Librahackや遠隔操作事件のような面倒な厄介事に巻き込まれたくないという思いや、将来自分の専門分野となるであろう情報・個人情報関連の法律(特に不正指令電磁的記録に関する法律など)は勉強をしておいた方がいいと、以前から自分なりに学習を続けていました。しかし、自分の「Coinhive利用での捜査には問題点があり、法律の解釈が問われるべき話だと思う」という考え方が誤り・思い違いである可能性もあったため、自分の行動が正しかったのか自信がなく、専門家の助言を仰ぎたかったからです。高木先生からはメールの翌日に連絡をいただきました。



――高木さんの見解はいかがでしたか。



少年:「これは不正指令電磁的記録供用罪に当たらず、警察・検察は不当な捜査をしている 重大な問題が進行中であると考えています」という回答をいただきました。これを見て不安の中でも少しだけ安心することができました。その後高木先生は複数の情報提供があったことから、5月19日に「高木浩光@自宅の日記」にて「緊急周知 Coinhive使用を不正指令電磁的記録供用の罪にしてはいけない」という記事を掲載しています。



●審判不開始決定



――今回の場合、情報提供者さんは事件当時10代ですから「少年事件」ということになりますよね。処分はどうなったのでしょうか。



少年:私は「コンピュータプログラムに対する社会的信頼」を害したということで、「不正指令電磁記録の保管罪にあたる」ということでしたが、結果的には「審判不開始決定」が出ました。これは成人の刑事事件における不起訴のようなものです。家庭裁判所調査官との面談結果や少年照会書と呼ばれる書類を真摯に作成した結果ですが、当時私は受験を控えていたので、貴重な勉強時間を失ったことはとてもつらかったです。



――少年事件ならではの難しさもあったとうかがいました。



少年:本件はある種、法的な解釈が問われるようなのですが、少年事件ではそれが罪であるかどうか分からないうちから反省が求められることが多いということ、少年に対しては略式起訴や起訴猶予というものが存在せず家庭裁判所での審判をするしかないということ、家庭裁判所での審判ではあくまで反省と更生がメインとなってしまうという点が問題だと感じました。



 家庭裁判所での審判でも弁護人にあたる「付添人」として弁護士を付けることは可能で、無罪にあたる不処分を争う余地は一応ありますが、それには非常に多くの費用や時間がかかってしまいます。また私個人としてはモロさんの件が注目された事によって、この件でなされるべき問題提起は果たされたと思っており、自分の時間を犠牲にしてまで争う必要は無いと判断しました。Coinhiveにモラル的な問題があるという点については理解をしていますし、少し疑問に思うところもありますが、最初から自分が本件について反省をすること自体に異論はありませんでした。



 結果的に弁護士を選任したり争うことも無く、審判不開始処分となりましたが、今まで警察のお世話になった様な事が一切なかっただけに精神的なダメージがあった事も今回の事件のつらさの一つでした。



●当事者が抱くCoinhive事件の疑問点



――Coinhive事件では、情報提供者さんを含め複数人が検挙されました。中でもフリーランスWebデザイナーのモロさんは、罰金10万円の略式命令を受けましたが、これに異議を申し立てて刑事裁判が進行中です。これについてはどう見ていますか。



少年:高木先生が証人尋問に立たれた際には、私も実際に横浜地方裁判所に足を運んだり、別の期日では知人に頼んで裁判の傍聴記録を作ってもらったりと注目しています。今回は当事者側に立っていますが、もし私が当事者ではなかったとしても本件については注目していたと思います。



――当事者として、Coinhive事件に対する疑問点はありますか。



少年:法解釈や検挙理由については大いに疑問です。そもそも「利用者の意図」というプログラムの開発・公開側では制御も把握もできないような曖昧なものが要件になっているような国は日本以外にないと思います。許可・明示があれば良かったのでしょうが、当時も今もJavaScriptの動作に許可や明示をしている・求めている様なサイト・サービスはGoogle Analytics以外ほとんど見かけず、そのGoogle Analyticsですら明示する事を忘れているサイトを多々見かけます。もっとも今回の捜査に関わった各県警のウェブサイトにすら明示がされていないという話もあります。



 そんな中で、一般のJavaScriptで作成されたサービスと同様であるはずのCoinhiveについて「導入には許可・明示を求めなければいけない、さもなくばそれは不正指令であり違法だ」という事をどうやって判断できたのかは疑問に思っています。



 また「不正」という要件は、そのプログラムが社会的に許容しえるものであるか否かが問われますが、Coinhiveが誕生した直後であった当時の私たちが、「好意的な評価も少なからずあったCoinhiveが、将来どの様な社会的評価を受ける事になるか」の未来予知を行う事は、不可能であったと思っています。大げさに言えば、新しい概念が含まれるサービスが登場した時は、他国の人やリスクを冒してまで使い始める人を待ち、社会的な評価が安定してから使うという風にすれば良いのでしょうか。この点もどの様にすればよかったのか疑問に思っている点の一つです。



 究極的には、どの様なプログラムが不正指令に該当するのか、明示しなければいけない基準は何かというのがわかるように該当法令の解釈を細かく明示して欲しいです。モロさんの裁判も処分の結果はどうであれ、今後JavaScriptを動かすには明示や許可が必要である、という可能性が明確に否定またはその基準がはっきりと提示される様な物となること、くれぐれも明示すべき基準等で曖昧な要件が更に増えるようなことが無いように願っています。



――最後に本件を経て感じたこと、伝えたいことを教えてください。



少年:私たちは「Coinhiveを試した」というだけで前科・前歴がついてしまいました。略式の罰金でも審判不開始決定でも済んだものはもう元に戻せません。それにモロさんのケースでは警察がHTMLの「head」と「header」を混同していたり、私のケースでも警察官が当時のCoinhiveの機能について明らかに間違った知識で調べに臨んでいたりしました。特に前者はオーストリアとオーストラリア、インドとインドネシアを勘違いしているようなものです。そうした誤った知識を共有した状態で被疑者の話や知識を否定する姿勢のサイバー課には驚きを禁じえませんでした。私のケースではあまり本筋とは関係ない部分での間違いであり、また証拠を持参して指摘したら納得してもらえましたが、もしこれが重要な点での間違いであったとしたらと思うと少し恐ろしいです。



 今回、自分でもどうやればこの事件を回避できたのかの判断がはっきりとはついておらず、そもそもCoinhiveが意図に反しているのか、不正指令であるのかという点に関しても判決が待たれる所ですが、ひとまず私の件は終結しました。私に関する処分が決定した際には、半年ぶりに息継ぎをしたような気分でした。しかしながらモロさんは家宅捜索の翌週に結婚式、私は受験直前という人生においてとても重要なタイミングでの検挙でしたので、今回の事件によって人生に大きな傷跡が残ったということは本当に残念です。



 一時期は気が落ち込んで、情報関係の活動をやる気力も失せてしまっていたのですが、やっと気持ちが元に戻ってきたので、今後も気を付けながら引き続き情報の分野を学んでいきたいと思います。また私自身、趣味ではありますが興味のある法律、政治、歴史分野の調べもので、さまざまな記録が残っている事でとても勉強になったことがありました。この事から裁判の記録など、Coinhiveに関する記録を公開する活動をしているのですが、今後ともそれらの記録をネット上にアーカイブとして残せたらと考えています。



 モロさんの裁判は2月18日に最終弁論、3月ごろに判決が予定されており、こちらの展開にも注目が集まっています。Webには広告トラッキング機能のように、Coinhiveと同様、ユーザーから一見して設置されているかどうか見極めにくい収益目的の技術もありますが、そういったものは違法とされていません。時代に沿った法整備と明確な解釈の明示が急がれます。


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