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『ハケン占い師アタル』ツッコミどころだらけなのに、つい見てしまう遊川和彦作品の秘密

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2019年02月08日 20:51  Business Journal

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写真「木曜ドラマ『ハケン占い師アタル』|テレビ朝日」より
「木曜ドラマ『ハケン占い師アタル』|テレビ朝日」より

『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)というタイトルを聞いて、「これは遊川和彦のドラマだな」と思った人は、なかなかのドラマフリーク。遊川が脚本を手がけた作品は、『家政婦のミタ』『○○妻』『過保護のカホコ』(いずれも日本テレビ系)と、クセの強いタイトルばかりだからだ。


 さらに、「強烈な変わり者のヒロインが、問題を抱える周囲の人々を変えていく」という筋書きは同じ。『ハケン占い師アタル』は、そんな“遊川フォーマット”に則ったものだけに一定の安定感があり、平均視聴率は1話から12.1%、10.9%、10.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と2ケタを超えている。


 ただ、前述したこれまでのドラマと比べると、随所に脚本・演出の粗さが見られ、モヤモヤとした気持ちの視聴者が多いのも事実だ。ここでは、その粗さやモヤモヤの理由を挙げていく。


●社員の悩みは記号的、アタルの返事は昭和的


 物語の舞台は、イベント企画会社「シンシアイベンツ」。ここまでの3話は、「社員たちの悩みをアタル(杉咲花)の“占い”で解決していく」という判で押したような同じパターンだった。


 アタルはいつもニコニコ楽しそうに働いているが、占いのシーンでは豹変。先輩たちに上から目線で強い言葉を放っている。その結果、1話から順に、神田和実(志田未来)、目黒円(間宮祥太朗)、品川一真(志尊淳)の問題を解決していったのだが、占いのシーンは時間にして各話4〜5分のみ。あまりにアッサリと心を入れ替えてしまうため、「エッ、それだけ?」と拍子抜けなのだ。


 同様に拍子抜けなのは、社員たちの悩みが記号的で、アタルの返事が昭和的なこと。


 1話では、和実の「なんで私には友達ができない?」にアタルは「嘘くさい笑い方だよ。要するに演技がくさいのよ。今のままだと心がすり減って一生友達なんかできない」。


 和実の「ミスばっかりしている。この仕事向いているのか?」にアタルは「それは他人が決めることじゃなくて自分が決めることなんじゃないの?」。


 和実の「どうしていろいろなことが決められない?」にアタルは「あんたには愛がないんだよ。一番大切な愛が欠けてるの。自分に対する愛。周りのことばっか気にする前に少しは自分を愛そうよ」。


 そして、最後の決めゼリフが「誰にでも必ずあるんだよ。自分にしかできないことが」。


 2話では、円の「何でオレはモテない?」にアタルは「外見ばっかで本質を見ようとしないから」。


 円の「ホメられたいんだけどどうしたらいい?」にアタルは「少しは大人になれよ。上野さんに言われたことだってラッキーと思わなきゃ。みんなの本音が聞けたんだから」。


 円の「俺に何かいいところがあるのかな」にアタルは「スネてんじゃねえよ。今まで通り自分らしさを失わずにいたら必ず誰か手を差し伸べてくれるって」。


 そして、最後の決めゼリフが「この世にひとりもいないっつーの。誰にも必要とされない人間なんて」。


 3話では、一真の「嫌な上司がいていじめられるんだけど、どうしたらいい?」にアタルは「どうしようもないよ、向こうは変わらないから。どこに行ったってそういう上司は必ずいるから。でもさ、あんたにはあんなに心配して引き留めてくれる先輩がいるじゃない」。


 一真の「本当にここは俺のいるべき場所なの?」にアタルは「逃げてばっかりいるやつに自分の居場所なんか見つかるわけない」。


 一真の「ほかのやつはちゃんとわかってるわけ? 今やってる仕事が正解だって」にアタルは「あんたみたいな若造に働く意味や喜びが簡単にわかってたまるかっつーの。そういうのはいろんなこと経験して初めてわかるからありがたみがあるんだろ? それなのにつらいことがあるたびに人のせいにしたり、チョイチョイって検索して答え見つけようとしてんじゃねえよ」。


 そして、最後の決めゼリフが「この世にひとりもいないっつーの。何が正解かわかって生きているやつなんて」。


 大半の人が気づいているであろう。アタルの言葉は占いというより、頑固親父の説教か、それとも洗脳か。ただ、この感情に訴えかける強引さこそ「ねじ伏せてでも感動させてやろう」という遊川らしさでもあり、「ツッコミどころだらけだけど、つい見てしまう」という人が少なくない理由だろう。


●ホームページに込めたメッセージ


 ホームページを見ると、トップには語りかけるような杉咲花のアップ写真とともに「あなたにも絶対いいところがある。」と書かれている。これは、いわば遊川から視聴者に向けたメッセージであり、良くいえば「優しく愛情豊か」、悪くいえば「上から目線で偉そう」に見えてしまう。つまり、見る人の受け取り方によって、大きく変わる作品なのだ。


 さらに、ドラマのベースとなる「イントロ」のトップには、「悩み多き“働く人々”と会社を変えるニュータイプの救世主が登場!」「杉咲花×遊川和彦が仕掛ける平成最後の新“働き方改革”」と書かれている。これも、「働く人々の悩みは心構えひとつで解決できる」「今の世の中には、真の働き方改革が必要だ」という遊川からのメッセージではないか。


 何度かインタビューさせてもらったことがあるが、遊川は社会背景や現代的な問題をテーマに据えることが多く、それを解決するための主人公を徹底的につくり込むタイプ。だからアタルがあそこまで個性的である必要があるのだが、一方で社員たちの悩みは、前述したようにどこかで見聞きしたような記号的なものが多い。


 主人公のキャラクター造形はこだわってつくるが、周囲の人物はテレビやネットでよく見るタイプなのだ。そんな人物造形の粗さを見る限り、「働く人々に取材を重ねて書き上げた」というより、「僕にはこう見えていますよ」というイメージ先行の感がある。


●アタルの秘密はいつ明かされるのか


 3話ですでにワンパターン化しつつあり、クチコミの評判も視聴率も下降気味だが、このまま遊川が無策でいるはずがない。4話でフィーチャーされる上野誠治(小澤征悦)の問題解決からパターンを変えてくるのか。それとも、全編にわたるテーマの“アタルの秘密やトラウマ”を早めに明かして視聴者を驚かせるのか。


 とりわけ、謎に包まれたアタルの過去は「それについては言いたくありません」という秘密主義を貫くことで視聴者の興味を誘っているだけに、訴求効果は高いだろう。


 同作が放送されている『木曜ドラマ』は、この2年間で『緊急取調室』『黒革の手帖』『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』『BG〜身辺警護人〜』『未解決の女 警視庁文書捜査官』『ハゲタカ』『リーガルV〜元弁護士・小鳥遊翔子〜』が放送されてきたテレビ朝日の看板枠。そのタイトルを見れば、重厚なムードの作品がラインナップされ続けていることがわかるだろう。


 それだけに『ハケン占い師アタル』が世界観の異なる作品であることは明白だ。もともと通常のラインナップから外れた作品なのだから、通常の脚本に加えて初めて演出も務める遊川には、最後まで思い切った展開で攻めに攻めて、いい意味で視聴者を驚かせてほしい。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)


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