“夢の国”では万引きしても捕まらない――保安員があ然とした、都市伝説を信じる高校生の言い分

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2019年02月09日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

Photo by Dick Thomas Johnson from Flickr

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、しばらくご無沙汰していた学生時代からの親友に呼び出されて、久しぶりに街でランチをしてきました。他愛のない話をしながら食事を済ませて、食後のコーヒーをいただいていると、どことなく不安気な表情の彼女が言います。

「ねえ、すみちゃん。あなた、万引き犯を捕まえる仕事、まだやっているの?」
「うん、続けているわよ」
「恥ずかしい話なんだけどね、実はあたしの孫娘が、ちょっと前に遊園地で万引きして捕まっちゃって……」

 苦笑する彼女の話を聞けば、現在17歳の女子高生である孫娘が、友人と二人で、“夢の国”とされる遊園地内にあるキャラクターショップで万引き行為に及んでしまい、私服保安員に捕まったということでした。

 あまり大きな声では言えないですけれども、私自身、そのキャラクターショップで勤務した経験があります。意外に思われるかもしれませんが、遊園地内にあるショップなどで扱うオフィシャル商品は割高で魅力的なモノが多いために万引き被害が頻発しており、常に数人の私服保安員が仕込まれているのです。この現場での警戒対象は、主に中高生と外国人。実際に捕捉した事例を挙げれば、修学旅行中の高校生たちによる集団万引きと、お土産用にと大量のチョコレートを持ち出した外国人カップルを摘発したことが記憶にあります。夢の国だから万引きをしても捕まらないという都市伝説的な話を確認したくて、実際に万引き行為に及んでしまったという地方在住の高校生を捕捉したこともありました。この言い訳を聞いた時には、わが耳を疑う思いがしたものです。また、「園内のショップで万引きをしても、夢の国だから退場するまでは声をかけられない」というウワサもあるようですが、実際にはスーパーなどにおける捕捉と同じく、未精算の商品を店外に持ち出したところで声をかけて捕捉します。そもそも万引きやスリ、置き引きなどの逮捕は現行犯が基本なので、犯意が成立した時点で捕捉するしかないのです。

 さらに詳しく話を聞いてみると、彼女の孫娘たちが盗んだモノは、キャラクターものの被り物やタオル、菓子など6点ほどで、合計被害額は1万円を超えていたといいます。盗んだ商品は、アヒルのキャラクター物で統一されており、孫娘が青の方、その友達がピンクの方を選んで盗んでいたと聞きました。共犯での犯行は計画性が高く、悪質と判断されるため、被害届を出されてしまえば、たとえ未成年者であっても逮捕事案となりえる状況といえるでしょう。ちなみに、ここで私が関わった被疑者のほとんどは高校生でしたが、そのほとんどが被害届を出されていました。それによって学校から退学処分を受けた被疑者もおり、見知らぬ人の人生を左右する自分の仕事の影響力を、あらためて実感させられたことを覚えています。

「捕まって、どうなったのよ。もしかして逮捕された?」
「本来なら逮捕するところだけど、お店が被害届を出さないでくれたからって、今回だけという約束で家に帰してくれたのよ」

恐らくは、微罪処分として扱われたのでしょう。写真や指紋などは採取されたそうですが、基本調書を取られることはなく、盗んだ商品を返品するだけで済まされたというので、捕まった側からすれば非常にラッキーな展開といえます。

「運がよかったって、言っていいかわからないけど、これを最後にさせないとダメよ。お孫さん、ちゃんと反省してる?」
「誰も歩いていない従業員専用の道を通って、園内の華やかさがまったく感じられない殺風景な事務所に案内されたらしいんだけど、その時、すごく悲しかったんだって。たまたまステージ裏を通った時に、自分の好きなアヒルのキャラクターが歩いているのを見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになったって」

自分も知っているルートなので、その情景が目に浮かびます。捕捉された被疑者の心境を知ることは、なかなかないことなので、とても興味深い話に思えました。友人関係にさえ気をつけてくれれば、きっと大丈夫。追加で頼んだケーキを前に、そんな話をしていると、彼女のスマホにLINEがきました。スマホに目を落としてメッセージを確認した彼女が、眉間にしわを寄せながら上目づかいに言います。

「出入禁止になっていないか、孫が心配しているんだけど、また遊びに行っても大丈夫なのかしら?」

「夢の国で悪さをすると、出入禁止になる」という話もよく耳にしますが、私の知る限り、そのような処置が取られることはありませんでした。もちろん、その日は退場していただくことになりますが、以後の入場を拒否される場面を見たことはなかったです。しかし、これも数年前までの話。いまは顔認証システムなど、最新の防犯機器を設置している施設が多いので、その扱いは変わっているかもしれません。

「悪さをしなければ、大丈夫。そう伝えてあげて」
「ありがとう。ほんと、恥ずかしくて仕方ないわよ……」

 少しイラつきながらも拙い手つきでメッセージを送る彼女の姿を見た私は、家族って大変だなと、独り身の気楽さを実感しました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう

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  • 怒鳴る度家鴨、の表現にちょっと苦労が見え隠れしてますな。
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