今期、もっとも観るべきドラマは? ドラマ評論家が選ぶ、2019年冬ドラマ注目作ベスト5

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2019年02月12日 10:11  リアルサウンド

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 2019年現在、朝からゴールデンプライム帯、深夜帯にかけて、現在約30作以上ものドラマが地上波にて放送中だ。各局、力の入った作品が並ぶが、本当に観るべきはどのドラマだろうか。ドラマ評論家の成馬零一氏に、冬ドラマから注目すべきタイトルのベスト5を選んでもらった。


1.『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK)


 『いだてん』は宮藤官九郎脚本の大河ドラマ。1964年の東京オリンピック開催に尽力した金栗四三(中村勘九郎)と田畑政治(阿部サダヲ)を主人公とした物語で、現在は明治を舞台としている。古今亭志ん生(ビートたけし)を語り部として配置したことで、物語は時間と空間を自由に行き来する他視点群像劇となっている。主演級の俳優が多数出演する全員主人公の物語といっても過言ではない。この、どこを見ても楽しめる登場人物の多様性こそが(現時点における)本作の最大の魅力だろう。同時に思うのは『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)から宮藤が連ドラで描いてきた男の子たちの物語の総決算となっていること。過去を舞台に実在する人物を描いていながら、出てくる男の子たちが過去のクドカンドラマに登場した人々を連想させ、特に天狗倶楽部の愉快な男たちは『木更津キャッツアイ』(TBS系)を思わせる。さながらクドカン版『坂の上の雲』(NHK)とでも言うような話となっているが、大河では鬼門となっていた現代史に、戦争ではなくスポーツを題材に切り込むことで、近代日本の男の子たちの成長と挫折を追求する姿からは目が離せない。今年一番の注目作である。


2.『トクサツガガガ』(NHK)


 『トクサツガガガ』は特撮オタクのOLを主人公にしたドラマ。オタクの恋愛を描いた『電車男』(フジテレビ系)からすでに14年も経つのに、今のオタクもあんなに必死で趣味を隠そうとするものなのか? それともこれは性別の差なのか? という点が理解できずに様子見していたが、話数が進むにつれて特オタの女性キャラが増え、同じオタクでも考え方に違いがあることが描かれてから、とても面白くなってきた。ドラマ内、ヒーロー番組と物語がパラレルな関係になっているのも面白く、続きが楽しみ。オタクモノにありがちな自己卑下的な笑いではなく、特オタであることを肯定的に描ければ、今の時代のオタクドラマとなりえるのではと期待している。


3.『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)


 『ハケン占い師アタル』は、遊川和彦脚本の会社モノ。今まで家族や恋人といった個人的な関係性を掘り下げてきた遊川が、「会社」を舞台にした作品を描いているのは、労働問題や女性差別といった、今の社会の矛盾がすべて会社に集約されているからだろう。去年末に話題となった『獣になれない私たち』(日本テレビ系)や『ハラスメントゲーム』(テレビ東京系)、あるいは『下町ロケット』(TBS系)などの池井戸潤原作小説のドラマも含めて、会社を舞台にした作品は近年増えつつあるのは、人々の関心が一番集まっているのが「働き方」であり、それを女性主人公で展開すると、もっとも現代的な作品になるからだ。本作もまた、会社という年齢も性別もバラバラの人々が集まる舞台をうまく活かして、社員一人一人に焦点を当てることで現代的なドラマとなっている。毎回、一筋縄ではいかない遊川和彦作品だが、今回は本人が演出を担当していることも含めて、新境地となりそうである。


4.『フルーツ宅配便』(テレビ東京系)


 『フルーツ宅配便』はデリヘル嬢を主人公にした一話完結の群像劇。演出には映画『凶悪』などで知られる白石和彌が参加しており、完成度の高いストーリーが毎週展開されている。物語は淡々と進み、デルヘル嬢を主人公にしていても、安易なお色気は登場しない。背景に貧困問題が見え隠れするものの、単純な被害者として描いているわけでもない。一人一人が背負っている物語は各自バラバラで、見終わった後で一番考えさせられるのは、同じデルヘル嬢でも、いろんな境遇の人がいるという多様性である。言葉にすると陳腐だが、人間としてのデリヘル嬢が丁寧に描かれていることが、本作最大の魅力である。


5.『絶対正義』(東海テレビ・フジテレビ系)


 『絶対正義』は昨年、『結婚相手は抽選で』を放送した東海テレビ制作の「オトナの土ドラ」枠で放送されている作品。主演は『ブラック・スキャンダル』(日本テレビ系)等の作品で再ブレイクしている山口紗弥加。物語は同じ高校出身で現在、別々の境遇にいる30代女性の群像劇だが、第一話では彼女たちの高校生時代が描かれた。この第一話がめちゃくちゃ面白かった。演出は『コード・ブルー』(フジテレビ系)シリーズで知られる西浦正記。テロップを多様したケレン味たっぷりの演出でテンポよく見せることで、高槻(山口紗弥加)の過剰な正義感の異様さを際立たせることに成功している。まだ導入部なので、この面白さが今後も続くかどうかは若干不安だが、それでも主人公の高規範子の学生時代を演じる白石聖の存在感は凄まじいものがあり、彼女の怪演を見られただけでも、この第一話の価値はあったと言える。


 ベスト5に入れたドラマはすべて群像劇で、多様な価値観を複数の視点で描いたものほど魅力的に感じた。「多様性が大事」と言うのは簡単だが、それを表現するためには、複数の登場人物の視点と安易な結論を出さない粘り強さが必要となってくる。それはわかりやすさとは対極にあるスタイルだが、時代に対応した作品がこうして生まれていることは喜ばしい限りだ。


【参考】成馬零一の「2018年 年間ベストドラマTOP10」


(成馬零一)


このニュースに関するつぶやき

  • このライター、ここまで「観るべき!」と自信持って豪語してるが、もし面白くなかったらそれを観た無駄な時間を皆に返すぐらいの甲斐性あるんだろうな?-_-;
    • イイネ!4
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