「北山宏光が面白すぎて…」監督・筧昌也が語る“死を描くときのバランス”

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2019年02月16日 14:00  ソーシャルトレンドニュース

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"「北山宏光が面白すぎて…」監督・筧昌也が語る“死を描くときのバランス”"

20代で作った自主映画がフジテレビ『世にも奇妙な物語』の1編に選ばれセルフリメイクを果たすなど、クリエイターの世界には珍しく若くして評価を受け、名を世に知らしめた筧昌也監督。その半生は前編で伺った通り。

その後も、自身原案の『ロス:タイム:ライフ』や、バカリズム脚本の『素敵な選TAXI』の演出など作品を重ね、『Sweet Rain 死神の精度』以来、久々の映画監督作となるのが『トラさん〜僕が猫になったワケ〜』。
Kis-My-Ft2の北山宏光さん演じる主人公・寿々男が命をおとし、残された家族のもとに猫として戻ってくる……というストーリーになっている。
前編から一転、“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”では、死を描く作品の多い筧監督の死への距離感やバランス感覚、また映画初主演作となった北山宏光の印象などを聞いた。

キスマイライブで“猫演技”の点が線に繋がった



――最新作『トラさん』は、北山宏光さんの映画初出演作にして、初主演作です。


「はい、ただ正直、北山くんとやっていて“初めて”の感覚は全く持たずにすみました。たぶん完成した作品を見ても初めてな感じはしないですよね?」


――はい、予告編でうたわれていて気づいたくらいです! Kis-My-Ft2としての活動は撮影前にご覧になったりされたのですか?


「実は、東京ドームのコンサートを見に行けたのが、撮影の後だったんです。ただ、そのときに、撮影時の点と点が一気に線になって繋がった感じがしたんです」


――どういうことでしょうか?


「『やっぱりこんなに動けるんだ!』って改めて感動して。ステージ上の体が柔らかく動けている姿を見て『だから撮影中の猫の動作もスマートにできたんだな……』と思いました。猫として塀の上にいたり、ダンボールに入ったり、っていうひとつひとつの動作のしなやかさが思い出されて繋がったんです。それに彼、実は筋肉がムキムキなんですよ」


――えっ、そうなんですか!意外です!


「はい、パッと見はあまりそういうタイプには見えないんですが、細マッチョで。むしろ寿々男は、自堕落な生活をしている漫画家という設定だから、今回はあえて筋トレを抑えて臨んだらしいのですが、本当はいい体をしてるんです」

“ジャニーズという伝統芸能”の新鮮さ


――筧さんは『死神くん』で嵐の大野智さんなど、以前にもジャニーズの方とご一緒されてますよね。俳優さんがジャニーズであることがプラスに働くことってありますか?


「歌舞伎俳優の人がドラマに出ていると『この人、誰?なんか、周りと雰囲気違うけど、所作が美しいぞ』という新鮮さを感じますよね?ミュージカルを主軸に活躍されている人がテレビドラマに出てきて『この人知らなかった!』っていうプラスの驚きを感じたり、よく知ってる芸人さんだけど、芝居で違う面を見られて新鮮に感じることってあるじゃないですか。 そういう新鮮さを僕は北山くんにも抱いていました」


――“ジャニーズという伝統芸能”にいる人だからこその新鮮さ、といいますか。


「ええ、北山くんは舞台(『あんちゃん』)を見ても素晴らしかったです。ちゃんと歌と踊りの”型”はできているので、何をリクエストしてもちゃんと応えてくれるんですよね」


――仕事の現場での雰囲気作りみたいなものも独特なんでしょうか?


「北山くんはムードメーカーなんですよね。主役である上にひとつの映画の現場の“座長”という意識を持ってくれて、色々背負ってくれたので。監督としては申し訳ないくらい、本当に助かってしまいました。
逆に大野さんはいい意味でマイペースで。スタートかける直前まですごく普通に佇んでいたり、スタッフと立ち話していたりするんですが、カメラがまわった瞬間にちゃんとキャラクターになれる。もちろん短期集中型の映画と、長丁場の連ドラという差はありますが、ひとくちにジャニーズの俳優さんと言っても色々なアプローチの仕方があって興味深いです」

“面白すぎて切った”場面も


――今回の北山さんは役柄的に、シリアスじゃない演技も求められていましたよね。


「申し訳なかったんですが、北山くんの演技が面白すぎて切ってしまった部分もありました。『トラさん』はあくまで単純なコメディではないという認識だったので、笑えるのがいいときもあれば、少ししんみりするべきところもあって」



――死を扱っているお話なので、そのバランスは難しそうですよね。ただ、慣れているといったら語弊があるかもしれませんが、筧さんは『Sweet Rain 死神の精度』や『ロス:タイム:ライフ』など死を扱った作品が多いですよね。


「まあ、たまたまそういう作品が多いんですが、別に、死後の世界を常にスピリチュアル的に考えているかというと、そうではないんです。ただ、物心ついた6歳から8歳くらいにかけて、祖父、祖母、義理の姉……と立て続けに親族が亡くなった経験があって。お葬式とかの関連した行事も含めて、それがかなり自分の中で衝撃的な体験だったんですよね」

ペットにも葬式を……残っている慣習には意味がある


――具体的に意識しているわけじゃないけど、何か無意識で関係しているのではないか、と。


「オカルトは好きじゃないんですが、迷信みたいに残っているものには、やはり意味があると思いますしね。以前、別の企画で取材したときに『ペットでも、ちゃんとお葬式はやったほうがいい』っておっしゃったお坊さんがいて。ペットの葬式ってやらなかったり、簡略化しちゃう人が多いみたいなんですよね。それで『ペットが亡くなったあと精神的におかしくなってしまっていた方にお葬式を勧めたら、やったあとに変わった』っていう話をきいて、やっぱり長い歴史の中で残ってる慣習には意味があるんだな、と思いました。四十九日とかもそうですよね」


――ただ、それをそのまま作品に活かそうとすると難しそうですよね。


「ええ、今回も主人公の寿々男が猫としてこの世に戻ってこられる1ヶ月の期間を、49日間にしようかとも思ったんです。でもそうしてしまうと説教臭くなるかな、と思って、それはしなかったり……と設定の時点から色々とバランスを考えました」


死を扱うときのバランス感覚


――設定も演出も……死を描く作品は、色々と難しそうです。


「まあ、猫になってこの世に戻ってくるという設定自体がポップにしかなりえないですからね。
作品全体がポップな分、“死の重み”が軽く見えてしまわないように気をつけました。例えば、主人公が死ぬときにはちゃんと血を出す、という演出もそのひとつです」


――交通事故で死ぬシーンで血が流れたあとに、主人公の寿々男は現実世界と天国の間にある“あの世の関所”なるところにいって、バカリズムさん演じる裁判長とやり取りをします。あそこでも、寿々男は頭の周りに血をつけてますよね。


「あの“途中で浮いている血”の演出は結構こだわったんですよ(笑)。ブラックユーモアではありますが、あれくらいならいいだろう、と。ああいう演出を付帯することで『死んでしまったという現実の悲しさを少し薄めよう』とか、バランスを考えてます」

“死者と裁判員の列”をあえて描かない理由


――“あの世の関所”でのバカリズムさんの裁判長とのやり取りも軽快ですよね。


「あそこ、実は裁判長って言ってるけど、バカリズムさんは裁判長ではないんですよね。
毎分、毎秒人は死んでいるわけじゃないですか。だから、死んだ人全員をひとりで対応できるわけがない。大勢いる担当のうちのひとりなんですよ」



――裁判長ではなく、裁判員だと(笑)


「ええ、きっと“あの世の関所”のような場所では、ああいう役割の人がたくさんいて、死者を裁いている。本当は、寿々男の番が終わって、バカリズムさんが『次の方どうぞー』って呼ぶと、もっと血だらけの死者が入ってくるっていうシーンも考えていたんです」


――面白そうですね(笑)。たしかに裁きをする人も、死者の側も、本当はひとりではないはずですもんね。


「ハリウッド映画だったら、きっとCGで、裁判員が大勢いて、たくさんの死者が並んで裁きを受けている様子を全部描きますよね(笑)。でも、僕はそれを描かなくていいと思っているんです」


――どういうことでしょうか?


「この作品は『ロード・オブ・ザ・リング』みたいなハイ・ファンタジーではなく、藤子不二雄的な引き算のファンタジーなんですよね。今の時代は技術で何でもできちゃうけど、あえてそれはしない。映画って結局、想像させたもん勝ちなんですよね。観客の想像力を信じてるから、それができるんです」

(取材・文:霜田明寛 写真:田中智美)

『トラさん〜僕が猫になったワケ〜』 映画情報
2月15日(金)全国ロードショー



【STORY】
売れないマンガ家の高畑寿々男(北山)は、妻・奈津子(多部)がパートで稼いだお金をギャンブルに使い、お気楽な生活を送っていたが、ある日突然、交通事故であっけなく死んでしまう。そんな寿々男に“あの世の関所”が下した判決は、「執行猶予1ヶ月、過去の愚かな人生を挽回せよ。但し、猫の姿でー」。トラ猫の姿で奈津子と娘・実優(平澤)のもとに戻った寿々男は、「トラさん」と名付けられて高畑家で飼われることに。愛する家族のために何かしたいと思うトラさん=寿々男だが、猫だから言葉さえ通じない。限られた時間の中で、トラさん=寿々男は、家族に何ができるのか―?

出演:北山宏光、多部未華子、平澤宏々路、飯豊まりえ、富山えり子、要 潤、バカリズム
原作:「トラさん」板羽 皆(集英社マーガレットコミックス刊)
監督:筧 昌也 脚本:大野敏哉 音楽:渡邊 崇
主題歌:Kis-My-Ft2「君を大好きだ」(avex trax)
配給:ショウゲート
公式サイト:torasan-movie.jp
©板羽皆/集英社・2019「トラさん」製作委員会


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