風俗嬢万引き犯と連絡先を交換……! 万引きGメンの「タブー」犯した後輩の思い出

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2019年02月23日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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 こんにちは、保安員の澄江です。先日、帰宅途中の電車内で、数年前にうちの事務所を退職したSちゃんと偶然に再会しました。

「澄江ねえさん、ご無沙汰しています」
「あら、Sちゃん! あなた、心配してたのよ。お元気だった? すっかり大人っぽくなって……」
「私、来年で40歳になるんです。さすがに、落ち着きましたよ」

 いまから、およそ15年前。入社したてだったSちゃんのインターン研修を担当したのは、私でした。当時、まだ24歳だったSちゃんは、ギャル系のメイクで、髪も金髪。初現場となる小さな町のショッピングモールに、猫のキャラクターがプリントされた黒のスウェット上下という軽快すぎる服装で出勤してきた時には、まさに度胆を抜かれたような気分にさせられたものです。どう見ても、保安員には見えない。そう表現すれば聞こえはいいかもしれませんが、どちらかといえば万引き犯に近い雰囲気になっているので、そこを褒めるわけにもいきません。

「あなた、その髪の色、研修の時に注意されなかった? そんなに目立っていたら、仕事にならないわよ」
「すみません。部長に言われているんですけど、帽子で隠せばいいかなと思って……」
「いいわけないでしょう。それに服装も少し派手。キャラクターのついた服は目印になるから、現場では着ない方がいいわよ」
「店内で浮かないように、近所のスーパーに行く時の恰好で来たんですけどね……」

 そう話してはいますが、場違いな感じが強く、存在自体がうるさい感じで、とても目立ってしまっています。

「メイクも、ちょっと考えなさいよ。目の周り、そんなに黒くしていたら、すぐに顔を覚えられちゃうじゃない。奇抜なメイクは、お店にも嫌がられるから、挨拶の前に落としてきなさい」
「え? スッピンは、マジでツラいんですけど……」

 いわゆるギャル系である彼女は、社会経験が少ないようで、目上の人に対する言葉づかいも知らないようでした。こんな派手な子に、保安員が務まるのだろうか。きっと、すぐに辞めてしまうことだろう。事務所の採用基準や教育効果を疑問に思いつつ、不貞腐れる彼女を一喝して半ば強制的にメイクを落とさせた私は、なるべくSちゃんの姿を見られないようにして、店長に挨拶を済ませたことを覚えています。

 その後、周囲の予想に反して長期にわたって勤務を続けたSちゃんは、めきめきと腕を上げて、いつしかベテランの保安員になっていました。パンダのようなメイクと金髪といったスタイルを貫き通した結果、彼女を気に入って指名する店長も現れ、ある時期においては事務所のマスコット的な存在にまでなっていたように思います。私自身、Sちゃんとは何度も一緒に現場に入り、仕事上のパートナーとして多くの捕捉事案を共有してきました。なかでも、同年代の女性常習者に対する扱いは特に熱心で、親身に寄り添う姉御肌な感じの説諭が記憶に残っています。そんな彼女が退職したのは、とある女性常習者の供述がきっかけでした。

「ねえさん、ちょっと相談があるんですけど……」

 出勤時、待ち合わせ場所である駅の改札にノーメイクで現れたSちゃんは、いつになく深刻な顔で言いました。なにかあったなと、嫌な予感を抱きながら話を聞きます。

「担当しているAで、何度か捕まえたことがある常習の女の子がいるんですけど、話を聞いたら、子どもの頃から身寄りがなくて、ずっと風俗で働いてきたって言うんです。寂しいから万引きしてるって泣くし、話しているうちに仲良くなっちゃったので、万引きしたくなったら止めてあげるから連絡してって感じで、前回、捕まえた時に連絡先を交換しちゃったんですよ。そしたら、さっき警察から電話がかかってきて……」

 捕まえた被疑者と連絡先を交換するのは、服務規程に反する行為で、懲戒事由に相当します。報復はもちろん、さまざまな観点から見てリスクが高いため、どんな事情があっても交換しないのが鉄則なのです。

「逮捕された女の子が、私が休みだということをメールで知ったことで万引きがしたくなったと供述しているらしくて……。できれば、ガラウケも私に頼みたいと話しているみたいなんです。私、どうしたらいいですかね?」
「あなた、それ大変なことよ。事務所に報告して、すぐ警察に行ってきなさい」

 事務所に報告させると、その場で出勤停止となったSちゃんは、ここから直接警察署に出向いて事情聴取を受けることになりました。電話口の部長さんから、随分と厳しいことを言われたようで、気の強いSちゃんの目に涙が溜まっているのがわかります。

「ねえさん、あたし、もうダメかもしれないです」
「ちゃんと話せば、大丈夫よ。悪いのは、その女なんだから」

 目に見えるほどの絶望感に包まれたSちゃんの姿は、見ていて痛々しいほどでしたが、末端職員の私にできることもありません。出勤前で時間もないことから、大丈夫と励まして、警察署に送り出すほかないのです。その日の勤務は、Sちゃんのことが気になってしまったためか集中できずに、なにひとつ成果を出せないまま終了してしまいました。

 顔馴染みの刑事さんから共犯扱いの取り調べを受けたというSちゃんでしたが、被疑者とやりとりしていたメールの内容から疑いが晴れると、当たり前のことですが何らの処分を受けることなく解放されました。しかし、被疑者と連絡先を交換したうえ、共犯の嫌疑をかけられたことを重くみた事務所は、クライアントへの面目を保つためなのかSちゃんを解雇してしまったのです。

 Sちゃんと会うのは、それ以来のこと。ずっと気にかけていたので、顔を見ているだけで、さまざまな思いが溢れ出てきます。

「仕事帰り?」
「はい。いまはデパートで、レジ打ちやっているんです」
「保安は、もうやらないの?」
「怖い思いもしたし、どうしても情が入ってしまうので、もうやりたくないですね。ねえさん、ケガしないように気をつけてくださいね。近いうちに、ゆっくり飲みましょう」

 別れ際に、あらためて連絡先を交換した私たちは、それぞれに到着した別方向の電車に乗り込むと、手を振り合ってお互いを見送りました。離れ行く電車を目で追いつつ、直接言えなかった言葉を心の中で呟きます。

(あの時、助けてあげられなくて、ごめんね……)

 少し混雑する車内で、そっと涙した私は、二人で過ごした現場の日々を思い出しながら家路につきました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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  • 映画のシナリオにできそうだな(笑)
    • イイネ!2
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