ジャガー横田さんの夫も罹患!? 最難関N中合格の母が襲われた「中学受験ロス」の実態

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2019年02月24日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。


 今年度の中学受験も業界的には大過なく終了。塾や中高一貫校は早くも次年度体制に切り替わった頃であるが、一方で、この時期、悶々としている“関係者”が多いのもまた事実ということを、読者の皆さんはご存じだろうか。

 その関係者とはズバリ、この冬、中学受験入試に挑戦した子を持つ保護者である。保護者の中にはいまだ“敗戦ショック”から立ち直れず、尽きせぬ涙を抑える人もたくさんいる。熱望校から振られてしまったというショックは、それほどまでに大きいものだ。

 今シーズンの中学受験に挑戦し、話題をさらったジャガー横田さんのご子息。その父である医師・木下博勝先生は、公式ブログでこんな気持ちを吐露しておられる。

「息子の受験が終わって、何はともあれ一旦落ち着きました。僕の生活も以前の様に戻ったわけですが、いわゆる、ロス、なのでしょうか。何か、心に隙間があるような感じが続いています」

 この木下先生のお気持ちが特別なわけではなく、いわゆる「お受験ロス=燃え尽き症候群」というものに罹患してしまう保護者は本当に多いのだ。

 医師になるのが夢だというジャガーさんと木下先生のご子息は、第一希望の難関私立中には残念ながら不合格だったが、医学部のある大学付属校にめでたく合格。人によっては、木下先生にとって、この受験結果が希望通りではなかったため、お受験ロスになったと思うかもしれないが、それは違う。結果の如何にかかわらず、かかる人はかかってしまう。傍目には大成功の結果を手中にしているのに「燃え尽き症候群」とも言える状態になる人がいるのだ。

 この原因は、中学受験が、長期にわたる“親子二人三脚の旅”という側面を持つからだと言われている。たいていのご家庭では小学4年生から中学受験生活を本格的にスタートする。つまり、この3年間は全てのスケジュールが子ども優先で組まれていき、親子でそれを必死でこなしていく日々となる。

 塾のお弁当作り、塾への送迎、プリント整理、成績表管理、弱点補強、情報収集、保護者会出席、学校訪問、塾との面談……。これらは全て保護者の役割である。さらには、子どもに勉強を教えるという役目を買って出る親御さんも多く存在している。

 このように、かつてないほど濃密に我が子と関わり、その成績に一喜一憂し、親子でこれ以上はできないというほどに頑張る毎日を過ごすわけだが、それが強制的に終了する時が来るのである。

 そうなると親の方が“迷子”になる。子どもは受験勉強から解放され“普通の小学生”の毎日を謳歌しだすというのに、親の方が何をしていいのかわからなくなるといった具合に、日常を取り戻せない。しかも、もう二度と、あれほど我が子と関わることはないのだという“事実”が重くのしかかり、呆然と立ちすくむような状態になりやすいのだ。

 美紀さん(仮名)の場合はこうだった。

 息子の大地君(仮名)は優秀な子どもで、塾に入ってから卒業するまで最上位クラスをキープし、特に何の問題もなく第一志望校であったトップ校に合格を決めた。

 傍目には順風満帆。何の文句があろう? というような受験である。しかし、美紀さんは一人息子である大地君の中学受験終了直後から浮かない顔をする日々が続いていた。「何の問題もないんです。大地は自分から受験をしたいと言い出し、自分で勝手に勉強していましたから、私がやったことと言えば、塾の送り迎えとお弁当作りくらいなものです……」

 美紀さんはそう謙遜するが、いくら優秀な子であっても小学生であることには違いはないので、受験に快適な環境を作るべく、美紀さんが大地君をサポートしてきたであろうことは想像に難くない。

「大地の成績がなまじ良かったものですから、周囲からの期待も半端なくて……。『当然、N中学に行くんでしょ?』って会う人ごとに言われてしまい、大地もその気になっていますし、これは失敗は許されないよな……って気持ちになっていました。成績的には問題ないので、もし不合格だったら、その原因は全て私のコンディション作りの失敗しかないなって考えると、すごく怖かったです」

 そして、念願かなって、大地君は無事に最難関N中学への合格を果たした。

「自分でもわかっているんです。これが『燃え尽き症候群』なんだなって……。私なりに使命を果たそうと、全力を注いだつもりだったので、ゴールに到達した途端に気持ちがフッと抜けちゃったみたいになって……。大地と主人が、それぞれの生活を満喫しているのを見ていると、次第に自分は元々、誰からも必要とされてなかったんだなと思っちゃって、心にぽっかり穴が開いたみたいになっちゃって、何もする気になれないんです」

 「失敗は許されない」という使命感を背負い続けてきた美紀さんにとって、大地君の中学受験は、心理的にギリギリの綱渡りだったのかもしれない。そして、受験終了。それまで一種の生きがいのようになっていた「大地君をサポートすること」が、合格と同時に突然必要なくなってしまったのだ。その影響で美紀さんは、“何もする気になれない”心持ちに陥ったのだろう。

 しかし、それから1年が過ぎた先月。再会した美紀さんは1年前とは打って変わって、とてもはつらつとした感じに見えた。 彼女はあることに気がついたという。

「私、あれから反省して、大地に“いつまでもしがみついていてはいけない”って思ったんです。それで、自分の道を歩もうって思って、専門学校に行き始めました。資格を取って、開業するのが夢なんです」

 大地君は優秀な生徒に囲まれて、成績的には真ん中あたりにいるらしいが、とにかく学校が楽しくて仕方ないといったところで、母の出番はまったくないそうだ。

 中学受験はある意味、最後の“親子の蜜月”である。これを通過した後は、否応なく、お互いが自立した存在になるべく徐々に距離が離れていく。親にとっては“子別れの儀式”とも言えるもので、その喪失感は通過儀礼なのだろう。きっと、一時的な「燃え尽き症候群」は「自立した親子関係」の初めの1頁なのだ。

 颯爽と歩き去った美紀さんの後ろ姿が印象的な街角であった。
(鳥居りんこ)

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