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ライオンの「口臭リスク判定アプリ」 ユーザー、ベンダーが語るAI開発の裏側

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2019年02月25日 12:02  ITmediaエンタープライズ

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ITmediaエンタープライズ

写真ライオン 研究開発本部 イノベーションラボ 主任研究員の石田和裕氏。2018年2月に東京・虎ノ門で行われたイベント「THE AI 3rd」で講演を行った
ライオン 研究開発本部 イノベーションラボ 主任研究員の石田和裕氏。2018年2月に東京・虎ノ門で行われたイベント「THE AI 3rd」で講演を行った

 2018年10月に行われた「CEATEC JAPAN 2018」で展示され、大きな話題を呼んだ口臭判定アプリ「RePERO」。ユーザーが撮影した舌の画像から、口臭リスクを3段階で判定できるものだが、このアプリを開発したのは家庭用品大手の「ライオン」だ。



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 同社はこの他にも、画像解析で歯ぐきの状態を測定するアプリを試作するなど、AIを生かしたサービス開発に注力している。これまで同社の研究員は、製品の品質コントロールが主なミッションだったが、昨今のビジネス状況に合わせ、2018年1月に「イノベーションラボ」を新設。ラボ内で立ち上がったプロジェクトで、RePEROの開発が始まったという。



 現状、口腔ケアの効果を知る方法は限られている。小型の口臭チェッカーも市販されてはいるものの、口臭を調べるためだけに、わざわざ専用デバイスを持ち歩く人は多くない。そこでライオンは、スマートフォンのカメラ機能で舌画像を撮影し、「舌苔」の色味から口臭のリスクを判定することを試みた。



 ライオンが保有する舌の画像と口臭の実測値データを使って機械学習を行ったところ、撮影写真に画像補整をかけ、舌の色味情報と息に含まれる硫化水素の濃度に相関があると分かった。しかし、スマートフォンの機種や撮影環境によって相関の出方が変わってしまうため、環境の補正も含め、アルゴリズムをAIで作成する方が適すると考えついた。



 「はじめは自社で独自に開発をしていたのですが、なかなかうまくいきませんでした。そこで、富士通クラウドテクノロジーズさんに相談したところ、数日で高精度のアルゴリズムを作成してくれました。プロの実力を知った瞬間でした」(石田氏)



 富士通クラウドテクノロジーはその後、AIの判定解析やアルゴリズムのアプリへの実装、データ活用のコンサルティングなどもサポート。ライオンは開発スタートから1年でアプリのローンチにこぎ着けた。



 百貨店の接客スタッフを対象にアプリの実証実験を行ったところ、口臭に対する不安の解消や、オーラルケアに対する意識、身だしなみなどの口臭以外のマナーにも意識が向くといった結果が得られたという。



●AI導入で最も難しいのは、「課題設定」と「データの前処理」



 ユーザーとして、AIベンダーを探すにあたっては、「単に開発をお願いするだけではなく、その先のビジネスを見据えてくれるパートナーを選ぶべき」と石田氏。取り組みへの積極性や信頼関係も大切だと話す。



 「AIやアプリ、デバイス開発などを複数の会社でバラバラに進めると、コミュニケーションコストやトラブルのリスクが増します。スピーディーな開発は総合力で実現するものだと痛感しました。



 AI導入で最も難しいのは、課題の設定とデータの前処理です。この工程が全体の8割を占めるのですが、AI活用が目的化してしまうと、課題設定やデータ処理ができなくなってしまいます。本質的な目的を理解し、信頼関係を構築して、明るく前向きに、ともに開発に取り組んでくれるパートナーを選ぶことが重要だと考えています」(石田氏)



●AI導入には「最低6カ月、1000万円」を覚悟せよ



 石田氏が講演を行ったセッションでは、富士通クラウドテクノロジーズの西尾氏も登壇して「ベンダー側の視点」を説明。「AIの価値を“品質向上”のみに置くと、ビジネスインパクトが見えず、AI導入が進みにくくなります」と語った。



 同社では、AIの価値を「属人化の防止」「省力化」「品質向上」の3つだと考えている。その中でも特に下記の2つが、AI導入の価値や結果を数値化しやすく、プロジェクトも成功しやすくなるという。



・非属人化:特定のスタッフに偏った、職人芸めいたナレッジ・技術の共有



・省力化:人が行ってきた労働の代替(RPAと同様)



 ライオンの石田氏が触れたように、AI開発のキモは「データの前処理」にある。しかし、現実のAIプロジェクトにおいて、顧客側が集めたデータが実際のモデル開発にそのまま使えるケースは少ないそうだ。



 「あくまで一例ですが、顧客が90万件のデータを提供してくれても、その中で使えたデータは20万件ほどということもありました。AIはコンピュータなんです。“ビッグデータを持っていれば使える”のではなく、“正しく欠損のない、キレイなビッグデータ”を持っているからAIで成果が出せるようになるのです。



 だからこそ、AI導入にはお金も時間も必要です。最低でも6カ月、そして1000万円程度かかることもざらです。各種フレームワークを利用してビジネス的なリターンを試算し、課題の取捨選択を行うべきでしょう」



●ベンダーに丸投げせず、可能であればデータサイエンティストの自社育成を



 AIをはじめとするデータ活用では、業界のバリューチェーンや情報の重要性を正しく理解するためのドメイン知識が不可欠だ。実際、ビジネスの現場では、特定の業界に知見のあるデータサイエンティストを積極的にアサインする動きが出てきているという。



 「あと1年くらいすれば、『どこどこの業界に強いデータサイエンティスト』という存在が出てくるのではないでしょうか」(西尾氏)



 まるで、戦略コンサルタントのような扱いだが、データサイエンティストは「あらゆる業界に精通したスーパーマン」ではない。少なくとも現時点では、始めから深い業界知識を持っているデータサイエンティストなどいないと考えた方がいいだろう。



 「AIを開発する際は、どうしても『このデータは何を意味するのか』といったレクチャーが必要になります。その際には、業界のバリューチェーンを理解した自社の担当者が必ず参加すべきです。ベンダーに丸投げしたプロジェクトは、大体うまくいきません」(西尾氏)



 こうした状況を鑑みると、ビジネスの知識がある社内担当者に数学的な知識を与え、データサイエンティストに育成するのが、プロジェクトをスムーズに進めるのには理想的だ。



 AIはリリースした後も、継続して新しいデータを取り込み、精度も含めてシステムを改善していく必要がある。そこまでをベンダーに投げてしまうと、運用のためにデータサイエンティストを雇い続けることになり、コストが膨れ上がってしまう。プロジェクトを進めながら自社で運用できるよう、社内の担当者が技術を習得していく方がさまざまな面で“現実的”なのだ。


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