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優勝8回、総額1千万円超の賞金をゲットした起業家に「プレゼンの極意」を聞いてみた――Empath CSO 山崎はずむさん(後編)

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2019年02月27日 09:22  ITmediaエンタープライズ

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ITmediaエンタープライズ

写真前編では、声から感情を分析する技術「Empath」で、長谷川さんの感情が丸裸に……
前編では、声から感情を分析する技術「Empath」で、長谷川さんの感情が丸裸に……

 元ハンズラボCEOで現在、メルカリのCIO(最高情報責任者)を務める長谷川秀樹氏が、志高きゲームチェンジャーと酒を酌み交わしながら語り合う本対談。今回のゲストは音声感情解析技術『Empath』を携えて数々の海外ピッチコンテストに出場、2018年は8回優勝、総額1千万円を超える賞金をゲットしたというEmpathの共同創業者・CSO(最高戦略責任者)の山崎はずむさんです。



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 『Empath』の技術や用途にフォーカスした前編に続き、後編では海外でのスタートアップの状況やピッチコンテストで勝つ秘訣、大学で哲学の研究をしていたという山崎さんがなぜスタートアップの世界に飛び込んだのかなど、興味深い話題が盛りだくさんです。



●独自の技術があれば海外のスタートアップにも投資する中東や欧州



長谷川: ピッチコンテストに出るならこの国がいい! みたいなのはあるんですか?



山崎: 賞金の額が大きいのはヨーロッパの小国と中東です。2019年に勝ったコンテストで一番、賞金の額が大きかったのは5万ユーロ、日本円で650万円(当時のレート)です。



長谷川: どこの国ですか?



山崎: ルクセンブルクです。ルクセンブルクはもともと、FinTechやSpaceTechが強いのですが、今はAIに注力したいという話になっていて。地場産業がなかなか作れないから、外から誘致しているんです。



長谷川: ピッチコンテストは民間が主催してるんですか?



山崎: ルクセンブルクの場合、イベントは半官半民でした。ルクセンブルク政府も関わっていますが、賞金を出す主体は民間企業という形です。



長谷川: 国が関わっていると、「国内のベンチャーに勝って欲しい」というバイアスがかかったりするのかなと思うんですけど、そうでもないんですか?



山崎: おっしゃる通り、一番やりたいのは国内のスタートアップ支援だと思いますが、海外のスタートアップを誘致し、法人を設立してもらうことで税収を獲得するという側面もありそうです。技術交流、優勝な人材の確保などももちろん狙っており、誘致の呼び水としてコンテストが機能しているのだと思います。



長谷川: 他の地域はどうですか?



山崎: 僕らが特に強い地域の1つは、アラブ首長国連邦(UAE)です。UAEの場合はテクノロジーを外から呼び込むほかないんですね。僕らは政府プロジェクトを一緒にやっていることもあって、UAE内での知名度が上がっているので、勝ちやすい状況です。あと、もう1つ、僕らが良くしてもらっているのがフランスですね。マクロン政権になってからスタートアップに対する支援がすごく手厚くなりました。



長谷川: フレンチテックって、CES(1月に米国ラスベガスで開催される電子機器の見本市)にもどんどん出てますね。



山崎: はい。実は僕らも「フレンチテックって言っていいよ」といわれて、フレンチテックを名乗ってます。フランスの状況は日本と少し似ていて、それなりに国内市場がありますけど、「これからは海外に出ないとヤバイよね」という危機感があって、外からいろいろなノウハウを得ようとしています。だから僕らも非常に入りやすく、仕事がしやすいんです。



 あとは北米のピッチコンテストでも受賞しています。僕らはGoogleのアクセラレータープログラムにも入れてもらっています。僕らにとっては、コールセンターの先の話として、スマートスピーカーとか音声アシスタント関連でどう影響力を持っていくのか――ということが非常に重要なので、ここに勝負を賭けています。



●ピッチコンテストで勝つ秘訣は



長谷川: ピッチコンテストに出るとき、国によってやり方を変えたりしてるんですか? それとも共通のスタイルで?



山崎: 国というよりは、「聞いている人が誰か」によりますね。「事業会社なのか、ベンチャー・キャピタルなのか」で、語り口が若干変わります。



 それと、どうしてその国に来ているのかも、必ず最後に添えるようにしていいます。僕らは、やみくもに賞金だけを狙っているわけではなくて、その国でできることを探りながらプレゼンテーションを行っています。例えば共同研究ができそうな大学があるとか、その地域のマーケティングのハブとして有用だとか、国によって期待することが違うので、その国で僕らが何をやりたいのかを伝えることは大事です。ただ、3分のピッチだったら2分55秒は全く同じ内容ですね。



長谷川: どこかで、ピッチコンテストで勝つスキルみたいなものを身につける機会があったんですか?



山崎: ピッチコンテストの経験は全然なかったんですけど、人を説得するのには、「語りが大事」なことは、経験的に分かっていましたね。僕は予備校で高校生に英語を教えていたことがあって、「同じ内容を教えるにしても、語る人間が変わると伝わり方が違う」ということを実感していました。



 話の構成や論理性も大事なんですけど、教壇に立つときって、役者のような心構えが必要なんですよ。この言葉で止めて、息を吸って、ここで一発ボーンと語気を強める――みたいなパフォーマンスができるかどうかが、極めて大事なんです。日本のスタートアップはそれが得意じゃなくて、愚直にフラットに話し続けるので、せっかくの内容が伝わりきらない場合が多いですよね。



 僕は演劇をやっていたわけではないですが、どういう間合いの置き方をすれば説得力があるかとか、そういうことは、教壇やアカデミアの世界でプレゼンテーションしてきたことで、経験値がたまったのかもしれなません。



●ゴールデン街の飲み友達に誘われ、バンドをやるようなノリで起業家に



長谷川: 山崎さんは、どういうキャリアでここまできたんですか?



山崎: 僕は、ほぼ社会人経験がなくて、これがファーストキャリアなんですよ。



長谷川: それまでは?



山崎: 大学で哲学と文学の博士課程にいました。今の会社は、新宿ゴールデン街の飲み友達と始めたんです。



長谷川: じゃあ、大学院生だったときに今のCEOとゴールデン街で知り合って、起業しようって誘われたの?



山崎: そういうことです。僕ら2人がコ・ファウンダーで、CEOが国内の統括を、僕がCSOとして海外向けのビジネスを担当するという住み分けで。



長谷川: CEOは、どうして哲学の研究をしている人に対して「一緒にやろうぜ」と誘ったんでしょうね。



山崎: 単純に英語ができたから、というのが1つの理由で、それ以外にはあまり戦略みたいなものはなかったと思います。



 彼とは5年くらい飲み友達で、僕は彼が何の仕事をしているかなんて全然知らなかったし、彼は僕が研究者であることは知ってましたけど、お互いに仕事の話なんか一切していませんでした。あるとき、僕が研究者として米国の大学院に行って帰ってきたときに「この先どうしようかな……」と話していたら、「うちに来ればいいじゃん」と軽く言われて。友人同士でロックバンドをやるような感じでしたね。「取りあえずお前、練習すればギター弾けるだろ?」みたいな。



長谷川: そうやって誘われてビジネスの世界に入って、3〜4年経ったわけですね。山崎さん個人としては、これからもこの事業を続けていこう、という感じですか?



山崎: 僕らは近い将来にエグジットを見据えているので、その後のことはまだ考えられないですね。今はエグジットさせるまでやり切ることしか考えていません。



●普通に就職できなかったタイプのスタートアップ経営者に共感



長谷川: 哲学の研究をしていたところから今の会社を始めて、「これは面白い!」って思えたんですか?



山崎: 実はそんなに違和感ないんですよ。人工知能のコンセプト自体、コンピュータサイエンスではなく哲学から来ている概念ですから、そんなに遠くないな、と。



 それと、アカデミアのバックグラウンドがあると、外部から人を呼びやすいという利点もあるんです。例えば僕らはアーティストとのつながりも重要視していて、今度、ある有名な方にアドバイザーに入っていただきます。アーティストの方々と会話をするときには、人文科学のバックグラウンドが役に立つところもすごくあるんです。



長谷川: 学生時代は、就職しようと考えたことはなかったんですか?



山崎: 民間企業で働くということを一度も考えたことがなくて、だから就職活動もしたことがないです。今、こうなっているのは、極めて不思議ですよね。



長谷川: 就職しなくても食べていけると思っていたわけですか?



山崎: 思ってないですよ。僕の家庭は裕福ではなかったので、「仕事しながら学校に行く」というのが普通の発想でした。逆に、社会に出るとこんなに普通に暮らせるのかと、がくぜんとしているくらいです。電気やガスが止まるのなんてしょっちゅうだったんで、普通に仕事をしていると、そういうのがないというのがスゴイなと。



長谷川: 確かに。



山崎: ずっとアカデミアにいたいと思っていたんですけど、社会に出てみてバランスが良くなったような気がします。お金は汚いもの、というイメージが大分薄れました。



長谷川: 仕事以外では何をしているときが楽しいですか?



山崎: 今はスタートアップかいわいの人たちとバンドをやったり、Podcastの配信をしたりしている時が楽しいですね。スタジオに入って、ただただ楽器をかき鳴らす、というのは、楽しいですよね。あとは、うちの会社にオープンスペースを作っていて、そこにスタートアップかいわいの人を呼んで花見とか忘年会とかやるんですよ。そういうイベントでお酒を作って出したりしている瞬間が、結構楽しいです。



長谷川: 1人でなにかに没頭している時が楽しい、って言うのかと思ったら、案外そうでもないんですね。



山崎: 土日に家から出ないで、ずっと本を読んでいたりもしますよ。でも、スタートアップに入って分かったのは、スタートアップの経営者って普通の就職ができなかった人たちが多くて、意外と彼らにシンパシーを覚えるんです。そういう人たちと出会ったのが面白くて、それが今も続けられている理由かもしれません。



●ルールは「しょうがないから守る」くらいがいい



長谷川: 働き方に関してはどうですか? 日本の場合、週5日8時間働くとか、会社によりますけど10分でも遅れたら半休とることになるとか、フレックスにしてもコアタイムがあるとか、「これはどうなの?」と感じるようなこと、ないですか。



山崎: うちもIPO(Initial Public Offering:株式の新規公開)を考えるようになって、そういうところも気にし始めたのですが、良くないな、と感じてます。僕自身は「成果物があればどうでもいいじゃん」という考え方なので、会社に来なくてもいいし、もし来るならポジティブな理由であってほしい。例えば、「顔を合わせて話がしたいからオフィスに来る」という理由なら、すごくポジティブですけど、「ここにいないとカウントされない」とか、そういう理由でがんばって来ちゃうのは違う気がします。



長谷川: 来ないといけない、という雰囲気になっている?



山崎: やっぱり株式上場を意識し始めると、どうやって勤務時間を管理するか――という話も出てきますからね。



 今、会社のメンバーは20代が9割で、外国籍のスタッフも多いんです。大学で研究をしてきて、うちが初めての会社、という人も多いので、彼らには広い世界を知ってほしいですね。オフィスにオープンスペースを作っていろんな人たちを呼んできている理由の1つはそれです。外の人たちの考えも入れつつ、逆に自分たちもどんどん外に出ていっていいんだよ、というのを見せたいと思っていて。仕事はリモートでも何でもいいから、「今日はここに行きたい」と自分の意思で決めて、行けるようになるといいですよね。



長谷川: そう思いますね。



山崎: 法令順守は必要だとしても、「ルールを守っていれば、取りあえず生き残れる」という状態だと、何も生まれなくなってしまいますからね。



長谷川: 危ないですよね。



山崎: 「しょうがねえ。迷惑かけたくないから守るか」というのが美しいと思っているんですけど、“ルールを守りながらも美学を保てるか”というのが、なかなか難しいところですよね。そういう意味では、言葉で「自由にやっていいよ」と言うだけでなく、いかに背中を見せられるか、「これを一緒に作りたいから、こういうルールでやってくれない?」と言ったときに「しょうがないな」とついてきてくれるような信頼関係を作れるかどうかも、勝負どころだと思っています。



長谷川: いいですね。メルカリも、「自分で考えて、意味のあることをどんどんやってください」という文化です。



 面白いのは、チームビルディングのための経費の上限がないんですよ。一般的な会社は、マネジャー1人に月額いくらまで、といったような上限が決まっているものですけど、そうすると、予算いっぱい使い切ろうとするんですよね。逆に上限が決まっていないと、本当に必要なことにだけ使うようになるんです。だから、人間って枠を与えない方が、実はまともな方向に行く可能性もあるんだな、と思って。



山崎: そう思いますね。



長谷川: 今日はありがとうございました。メルカリもコールセンターを作ることを考えているんで、今度は仕事の話をしましょう。



山崎: ぜひ、よろしくお願いします。


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