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エンジニア不足は社内で解決できる 驚きのジョブチェン、営業メンバーをSalesforceの開発者にしたビズリーチの挑戦

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2019年02月28日 09:52  ITmediaエンタープライズ

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写真ビズリーチ 事業戦略本部 BPR部の部長を務める祖川慎治氏
ビズリーチ 事業戦略本部 BPR部の部長を務める祖川慎治氏

 現在、多くの企業で利用されているクラウド型CRM/SFAアプリケーションの「Salesforce.com」(以下、Salesforce)。着実に効果を上げる企業がある一方で、その運用に課題を抱えている企業も少なくない。特にアプリケーション開発にかかる時間やコストに頭を悩ます企業が増えている。



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 Salesforce自体は、少ない工数でアプリケーションを開発できる開発環境とツールを提供しており、開発作業のかなりの部分をノンコーディングで、グラフィカルなGUIツール上の操作だけで行えるようになっている。しかし、複雑な業務要件を実現するためには、プログラミングの知識も欠かせない。事業会社においての問題は、このツールを使いこなしてSalesforceアプリケーションを開発できるスキルを持つエンジニアの数が特に少ない点にある。



 大手転職サイトを運営するビズリーチも、そんな課題を抱えていた一社だ。同社の事業戦略本部でBPR部の部長を務める祖川慎治氏によれば、この問題は年々深刻化しているという。



 「Salesforceは年々ユーザーを増やしているにもかかわらず、エンジニアの数はなかなか増えておらず、需要と供給のバランスが取れていません。しかも日本においては、数少ないSalesforce開発エンジニアを擁するのがSIerで、ユーザーはSIerに依頼する以外に開発を行う手段がないのが実情です」



 既存のSalesforceアプリケーションに、ちょっとした変更やカスタマイズを加えるだけでも、自社で行える人材がいなければ、SIerに依頼せざるを得なくなってしまう。ただ、そのたびに外部ベンダーに依頼して見積もりをもらい、検討してリリースする――という手順を踏んでいたのでは、現場の業務とアプリケーションの乖離(かいり)が次第に大きくなり、事業の変化や拡大スピードに追い付かなくなってしまう。



 ビズリーチはさらに、頻繁にSalesforceアプリケーションを更新していく必要があったという。



 「もともと小規模なベンチャー企業だった当社は、少子高齢化に伴う人材不足を背景に、ビジネス規模が急速に拡大してきました。ビジネスの成長に合わせて毎月のように営業戦略が変わり、そのたびにSalesforceアプリケーションに変更を加える必要があったのです。



 ビズリーチに入社してから、営業戦略に基づくSalesforceのアプリケーションの構築とリリース、定着化を1人で一手に引き受けることで事業スピードに対応してきましたが、ビジネスの規模が拡大するにつれ、対応するのが難しくなってきたのです。このままでは、当社のビジネスで求められるスピード感に追従できなくなるのは明らかだったものの、社外のSIerに頼むと、ビジネス規模の拡大に対する対応スピードが鈍化してしまう。どうすればいいか、日々、悩んでいましたね」(祖川氏)



 そんな祖川氏が解決策として選んだのは、「社内でSalesforce開発エンジニアを育成する」という方法だった。ビジネス課題を理解しているプロダクト開発のエンジニアをSalesforceのエンジニアにすることで、より現場の課題解決につながるアプリを開発できるのではないかと考えたのが、その理由だ。また、祖川氏自身が前職でSalesforce開発の講師を務めていたことも大きかったという。



●アプリケーション開発の勉強会を開催して人材を募集



 早速、当時のプロダクトのCTOに相談し、社内のエンジニアに対して募集をしたものの、手を上げるエンジニアは1人もいなかったという。



 「Salesforceはアプリケーションの開発、実行フレームワークが既に出来上がっており、開発作業も専用のRADツールで極めて簡単に行えるのですが、そのことがかえって腕の立つ開発者にとっては不自由に思えて、敬遠してしまう傾向がありました」



 そこで祖川氏は、社内で自主的にSalesforceアプリケーション開発の勉強会を週に1回、6カ月間開催。Salesforce開発研修の講師を務めていた経験を生かし、自ら講師を務めた。



 「需要が多いにもかかわらず、供給が追い付いていないSalesforce開発のスキルを身に付ければ、エンジニアとしての市場価値は確実に上がる」といううたい文句で勉強会を開催したところ、プロダクトのエンジニア部門から6〜7人のエンジニアが集まった。



 こうして集まったエンジニアたちに対して半年間、Salesforceアプリケーション開発のスキルを伝授。そのうちの1人が自分から手を上げ、Salesforceのアプリケーション開発部門に異動することになったという。



 実際に研修を行ってみて分かったのは、一般的なアプリケーション開発エンジニアとしてのスキルやモチベーションと、Salesforce開発エンジニアとしての適性は、必ずしも一致しないことだったと祖川氏は振り返る。



 「生粋のエンジニアは、どうしても自分で全てを一から作りたがりますから、出来合いの部品やサービスを組み合わせてアプリケーションを作るSalesforceの開発スタイルとは、必ずしも相性が良いとは限りません。また、一から自分で作ってしまうとスキルやノウハウの属人化にもつながりますから、むしろ『作らないこと』と、『あるものを“つなぎ合わせて”価値を提供すること』が大事になってくるのです」



 こうした点も考えた上で、情報システム部門でキャリア設計に悩んでいるメンバーなどにも個別に声をかけ、Salesforceの開発を体験してもらいながら適性がある人をスカウト。異動後には祖川氏が自らメンターとなり、まずは簡単な業務課題を与えて実践的な開発スキルを習得しつつ、徐々に高度な課題を与えながら、実際の仕事を通じてSalesforce開発エンジニアとしてのスキルを徐々に身に付けられるよう指導した。



 こうして、社内で少しずつSalesforce開発のエンジニアを増やしていったという。



 祖川氏はさらに、社内の営業部門からもSalesforceの開発要員を募集。営業出身者はアプリケーション開発のスキルと経験こそないものの、ユーザー側の立場に立った知見や業務知識には長けており、可能性を感じたからだ。



●営業メンバーをエンジニアに!? 



 「企画や要件定義といった、アプリケーション開発の上流フェーズに対しては高い適性を備えているのではないかと考え、エンジニアに育ててみようと思ったのです。



 アプリケーションの企画や、ユーザーである営業部門との折衝などを主に担当してもらっていますが、開発作業もどんどんやってもらっています。さすがにコーディングはハードルが高いのですが、Salesforceのアプリケーションは全体の8割ほどはコーディングレスで開発できますから、その部分に関しては営業出身者にも開発してもらっています」(祖川氏)



 営業部門からSalesforce開発チームへの異動を希望する社員は、常に一定数いるという。その中から適格者を選び出すコツについて祖川氏は、「エンジニアとしての素養より、むしろ『やり切る力』を重視している」という。



 「異動を希望する社員には、事前にかなりの量の勉強をしてもらいます。普段の仕事と並行してやることになるため、大きな負担になるのですが、“これをしっかりやり切れるかどうか”で、その人の実行力を判断しています。いくらSalesforceの開発環境が易しいとはいえ、やはり未知の分野の学習には苦労が付き物ですから、これを乗り切るだけの行動力があるかどうかを見極めるようにしています」



 こうして現在、開発プロジェクトの主に上流フェーズを担当する営業出身のメンバーと、主に下流フェーズを担当する開発出身のメンバーが同じチーム内でタッグを組むことで、社内から次々と寄せられるSalesforceの開発案件に日々臨んでいる。2015年に1人だったSalesforceのエンジニアは、2018年12月の時点で14人まで増え、うち6人は非エンジニア出身だ。



 開発スキルを身に付けたメンバーがBPR部で事業の仕組みや業務プロセスを学び、課題解決の経験を積んだ後、事業戦略や事業企画、法人向け(B2B)マーケティング部隊などで活躍しているのも興味深い動きだと祖川氏は話す。



 「Salesforceの開発を担当するBPR部は、その名の通り全社レベルのBPR(Business Process Re-engineering)を推進するのが本来のミッションです。Salesforceアプリの開発は、そのための手段の一つにすぎません。



 従って、SalesforceをきっかけにBPR部に異動してきたメンバーが、仕事を通じて社内のビジネスプロセスに関する知見を深めた結果、『ここで学んだことを、次はぜひ現場で生かしてみたい』と他部門への異動を志願するケースが実に多いのです。こうしてITと業務の橋渡しができる人材を育成し、輩出していくことも、BPR部に課せられた大事なミッションの一つだと考えています」(祖川氏)



●Salesforceの開発を通じてビジネスとITをつないでいく



 BPR部は祖川氏が自ら立ち上げた部署であり、Salesforceの開発案件をはじめ、各部署から寄せられるさまざまなシステム案件に対応するとともに、社内のあらゆるビジネスプロセスの分析と改善に取り組んでいる。



 中には、SalesforceのSFAのアプリケーションとMA(マーケティングオートメーション)、名刺管理サービスを自動で連携させ、さらにフィールドセールスからマーケティング部隊に戻し、再ナーチャリングを行うような、かなり大掛かりなBPR案件もある。



 このように、「全社最適の立場から業務とITの橋渡しを行える部門を持っていること」が、ビズリーチの成長の源になっていると祖川氏は述べる。



 「よく『情報システム部門が既存システムの保守に手いっぱいで、業務改善にまで手が回らない』という声を聞きますが、そうした環境では、やはりITを活用した業務改善はなかなか進みません。中には、人材不足をカバーするために外部のコンサルティング会社に業務改善を委託する企業もありますが、それではどうしてもスピード感に欠けるため、当社のようにスピードを武器に急成長を遂げてきた企業には適していません」



 こうした考えから、社内でBPR部を設立することを思い立ったという。現在でも同部では、3カ月間に200リリースというスピードでSalesforceアプリケーションの改善を続けながら、一方でMAやRPA、ETL(データ連携)、帳票システムといったさまざまなシステムを使ったビジネスプロセス改善に取り組んでいる。



 現在も引き続き、Salesforce開発エンジニアの社内外のリクルーティングと育成を行っているが、祖川氏は「何よりも、この仕事の面白さをより多くの人に知ってほしい」という。



 「一般的なシステム開発プロジェクトとは異なり、会社のビジネス戦略に直接絡めるのがこの仕事の面白さです。収益に直結する数字をダイレクトに扱いますから、会社を動かしている実感を持つことができます。ぜひ多くのエンジニアや営業スタッフに、こうした仕事の醍醐味(だいごみ)を味わってほしいですね」



【聞き手:後藤祥子、吉村哲樹】


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