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伊藤忠、デサントへ敵対的TOBに発展か…メンツ優先の“勝者なき”泥仕合で利益棄損

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2019年03月01日 06:11  Business Journal

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写真伊藤忠・岡藤正広代表取締役会長CEO(写真:AFP/アフロ)
伊藤忠・岡藤正広代表取締役会長CEO(写真:AFP/アフロ)

 1月末、総合商社の伊藤忠商事が、スポーツウェアの製造・販売を手掛ける株式会社デサントへの株式公開買い付け(TOB:Take-Over Bid)を行うと発表した。TOBの価格は1株、2800円(1月30日の終値に対して50%のプレミアム<価格上乗せ>)だ。TOB期間は1月31日から3月14日までである。


 伊藤忠には業務・資本提携を通してデサントの成長を支えたとの自負がある。加えて、伊藤忠はデサントの経営に改善すべき点が多いと考えている。それを実現するために、伊藤忠はTOBを通して現在30%程度の出資比率を40%に引き上げ、拒否権を発動できるようにしたい。


 一方、デサントの創業家出身である石本雅敏社長は、自社の独立性を最重要視している。デサントはワコールとの提携を発表し、伊藤忠から距離をとり始めた。この決定に伊藤忠は不信感を強めている。


 伊藤忠が事前通告なくTOBを発表したことに対して、デサントは反発している。資金量などを考えれば、TOBを通して伊藤忠がデサントの経営に影響力を及ぼすこと自体は難しくないだろう。ただ、それが伊藤忠とデサントにとって、ウィン・ウィンの結果につながるとは言いづらい。


●これまでの伊藤忠とデサントの関係
 
 伊藤忠はデサントの株式の30%程度を保有する筆頭株主だ。両社のヒストリーを振り返ると、伊藤忠がデサントの経営を支え、それをもとにデサントが独自の取り組みを進めたことがわかる。デサントにとって伊藤忠は経営の危機を救ってくれた恩人といってよい。この関係が悪化することは、将来への不安を高める。


 1964年、伊藤忠とデサントは、ゴルフウェアの共同販売を始めた。1984年、ゴルフウェアの過剰在庫が発生し、デサントは経営難に陥った。この時、デサントトップであった石本恵一氏(現社長の父親)が提携先の伊藤忠に助けを求めた、伊藤忠は繊維のプロを派遣し、経営を立て直した。


 1998年、デサントは2度目の経営難に陥った。スポーツ用品の世界大手アディダスが日本法人を設立したことに伴い、デサントとのライセンス契約が終了した。これを受けてデサントの収益が激減した。この時も、伊藤忠はデサントに役員を派遣するなどして、経営を支えた。


 経営危機の背景には2つの要因がある。まず、デサントは自社ブランドではなく、海外大手ブランドの商標権を手に入れることで収益を得てきた。加えて、デサントは国内事業を重視してきた。このビジネスモデルを改革するために、伊藤忠出身経営者のもとでデサントは海外進出を進めた。特に、韓国では現地企画商品がヒットした。デサントの売上高の50%近くが韓国から獲得されている。


 2013年、デサントの経営は大きな転換点を迎えた。経営トップが伊藤忠出身の人物から、創業家に替わった。会長職には伊藤忠出身の人物が就いたが、代表権は与えられなかった。これは、デサントが伊藤忠との連携よりも、独自路線を目指し始めたことを明確にした。それ以降、デサントは韓国で収益を稼ぎつつ、商品開発と海外進出を進めて収益源の分散を図ろうとしてきた。「水沢ダウン」の登場は、その一つだ。デサントはこれに次ぐヒットを生み出し、自社の企画力で成長を遂げたいという思いを強めている。


●ここへ来て深まる両社の対立


 現時点まで、両社は主張の食い違いを埋めることができていない。伊藤忠はなんとかしてデサントとの関係を維持しようと、対話よりも、資本の論理を重視した。それが、「伊藤忠がデサントに対してかなり高圧的に言うことを聞くように求めている」といった報道につながっている。確かに、その側面はある。


 同時に、感情を排して事実を確認し、なぜここまで対立が深刻化したかを確認することが重要だ。まず、伊藤忠はデサントの筆頭株主だ。過去の経緯を踏まえると、デサントは伊藤忠のバックアップがあったからこそ、ここまで成長してきた。これまで伊藤忠が資本だけでなく人を送り込んできたことは見逃せない。


 デサントの経営が傾けば、筆頭株主として経営に影響を与えてきた伊藤忠の手腕にもクエスチョンマークがつくだろう。伊藤忠はデサントの経営に責任がある。にもかかわらず、デサントは、恩人である伊藤忠のアドバイスに耳を傾けようとはしてこなかったように見える。伊藤忠にとってデサントの姿勢は身勝手と映っただろう。こう考えると、伊藤忠がデサントに不満を募らせてきたのには、それなりの理由がある。


 加えて、伊藤忠は繊維事業の強化のためにデサントがほしい。オリンピックなどの大規模イベントが控えるなかで、デサントを傘下に置くことは、伊藤忠の繊維事業の強化に有効だ。伊藤忠のトップである岡藤正広・代表取締役会長CEOが繊維分野でキャリアを重ねてきただけに、その思いは強い。昨春には伊藤忠がデサントを買収するとの観測が急速に高まった場面もあった。


 客観的に考えると、デサントにとっても、総合商社とのアライアンスを強化して成長を目指すことは合理的といえる。特に、中国など現地の商習慣や規制がわが国と異なる国や地域においては、総合商社の経営資源を活用することは有効な発想だ。


 それでもデサントは独自路線を行きたい。2018年8月、デサントは伊藤忠による買収を防ぐために、ワコールとの業務提携に踏み切った。これは、伊藤忠にとって“恩人に背を向けること”にほかならなかった。ワコールとの業務提携は、デサントと伊藤忠の対立を決定的にした。


●将来に禍根を残す敵対的TOB
 
 デサントは高圧的に指示をするのではなく、自主性を尊重してくれる後見人がほしい。加えて、デサントはMBO(経営陣が参加する買収)を検討するなど、独自路線の確保にかなり執着している。それは、伊藤忠への不信の表れといってもよい。


 関係がこじれるなか、伊藤忠商事は最終手段としてTOBを表明した。ここまでくると、伊藤忠側には、デサント成長の立役者としての“面子”を守らなければならないとの考えが強くなっているようにさえ感じる。


 表向き、伊藤忠は韓国事業への過度な依存がデサントの経営不安を高めると主張している。韓国経済は、財閥企業の輸出競争力を高めて成長してきた。特に、近年の成長は実質的にサムスン電子の半導体輸出に依存してきた。世界的な半導体市況の悪化を受けて、サムスン電子の業績は急速に悪化している。それが韓国経済の減速にダイレクトに響いている。


 客観的にみると、伊藤忠の主張するようにデサントの収益構造には不安がある。それに対してデサントは経営の改善に取り組んでいると、真っ向から対立している。結果論になってしまうが、両社とも、もう少し歩み寄って利害の調整を図ろうとしてもよかった。すでに、TOBに対してデサントの労組やOB会が反対を表明するなど、両社間の心理的な溝は深まっている。それを修復するのはかなり難しい。


 見方を変えれば、敵対的なTOBを通して、経営の再建や強化を実現するのは難しいということだ。投資銀行業務の専門家に言わせると、事業規模が異なる企業のTOBは、特に慎重に進めなければならないという。TOBの対象が相対的に小規模の企業である場合、相手企業による経営支配などへの抵抗感や恐怖心が高まりやすいからだ。


 今回のように、大企業からの圧力が強くなると、TOBは敵対的なものへ変化しやすい。その結果、TOB対象企業では、経営支配への不安などから人材の流出などが起き、経営基盤が弱体化する恐れがある。これが、敵対的TOBの成功は難しいといわれる所以だ。TOBが成立したとしても、デサントは伊藤忠に反発するだろう。敵対的なTOBは将来に禍根を残す恐れがある。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)


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