日向坂46、2部構成で表現した“けやき坂46”への別れと新たな始まり デビューライブを振り返る

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2019年03月10日 15:31  リアルサウンド

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 日向坂46がデビューカウントダウンライブを横浜アリーナにて開催した。今回の公演は、ライブ中に”グループ名が変化する”という非常に特殊な作りと言えるだろう。けやき坂46として最初はライブをスタートし、途中から日向坂46へと”改名”するのだ。しかし、そうした特殊な構成がかえってグループの持つ魅力を引き出せていた、というのが筆者の所感である。


参考:日向坂46、“ひらがなけやき”としての最後のメッセージに? 欅坂46『黒い羊』収録曲が示すもの


■グループの誕生を印象付ける”二部構成”


 多くのアーティストのライブ採用されているのが、序盤にスタートダッシュを決め、中盤にしっとりと落ち着いた曲で聴かせ、終盤にラストスパートをかけるという三段構成である。常にアッパーな曲を披露すると間延びしてしまうため、中盤で変化を与えることでライブに抑揚を生むのだ。しかしながら、今回の日向坂46のライブは、細かく見ればところどころにゆったりした曲はあるにせよ、全体的には終始アップテンポな楽曲で突き進んでいくというものである。それを最も象徴しているのが、初期から常に終盤の起爆剤として定番となっていた「誰よりも高く跳べ!」をいきなり2曲目に披露した点だ。今回、ライブ前半はリリース順に披露されたため、けやき坂46のオリジナル曲としては2つ目となるこの曲も序盤で披露されたのである。これにより、ライブそのものの起承転結というよりは、今回の公演の持つ大命題=”日向坂46という新しいグループの誕生”を強調する目的の方が重視されてセットリストが構成されていたことがわかる。


 そもそも、今までの日向坂46はライブの中に必ずソロ曲やユニット曲によるパートを設け、全体曲の一体感の中にそれらを挟み込むことで2時間あまりあるライブを完成させてきた。ところが、今回はユニット曲も極力減らし、同じようなメッセージを持った楽曲を続けて披露することも避けている。それゆえ、単純に楽曲の並びだけを見るとストーリー性が薄いのだが、実際のライブを生で観ると彼女たちから受け取れるパワーは非常に力強く、勢いを感じるライブに仕上がっていた。


 それを可能にしているのが、他でもなく「けやき坂46」としての前半と、「日向坂46」としての後半とに分けた”二部構成”であろう。つまり、たとえメンバーは同じであっても、中盤に突然、青を基調としたライトや星空をイメージしたような煌びやかなステージングへと変化が起きることによって、まったく新しい何かが生まれる瞬間に立ち会えた気分にさせられるのだ。ライブ中に世界観が急変するのである。それまでの期待感が高揚感へと一変し、空気が急激に澄んだような印象を受けた。


■「けやき坂46」の楽曲の魅せ方


 また、特筆すべきは、前半の「けやき坂46」としてのライブにおいて、1曲ごとにドキュメンタリー映像を流したりMCを挟むことで、”けやき坂46ヒストリー”的に演出した点である。楽曲の世界観を重視してセットリストを紡ぎ出すのではなく、思い切ってリリース順に披露したことで、ライブそのものを”アルバム”的ではなく、”コンピレーション”あるいは”プレイリスト”的に魅せている。これが吉と出た。


 というのも、これまでの日向坂46の楽曲は、姉分の欅坂46との関係性によって成り立っていた側面があり、ひとつひとつの楽曲がその時どきのグループの実情を訴えているものが多いからだ。本格始動後もいまいち煮え切らないグループの現状を逆に明るく爽快感たっぷりに歌い上げた「永遠の白線」、自分たちの成長が実感できずとも必死に努力を重ねるひたむきな姿勢を歌った「それでも歩いてる」、突如任された武道館3日間公演への本音を素直に吐露した「イマニミテイロ」、活動してく中で自然と生まれたグループのモットーを曲にした「ハッピーオーラ」など、先行して単独名義でリリースしたアルバム『走り出す瞬間』の新録曲を除けば、その都度都度の状況によって言葉がよりいっそう光る楽曲が多い。


 つまり、今回の前半部のようにドキュメンタリー映像やMCでの彼女たちの言葉とともに楽曲が披露されることで、より歌唱意義が増すのである。当時の状況が映像や彼女たちの言葉とともに楽曲がパフォーマンスすると、ファンの熱気も何倍も跳ね上がる。「けやき坂46」としての楽曲の魅せ方としては、最も輝く演出であったと感じた。


■日向坂46が披露した名曲揃いの新曲たち


 さて、こうした活動を経てきた彼女たちによって育まれたグループカラーは果たしてどういうものか。それを端的に示すのが、デビュー曲「キュン」を皮切りに続け様に披露された新曲群だろう。


 ”好きになりそう”とかけた「ときめき草」は芽生え始めた恋心を歌った春らしい一曲。ベッドの上で泣く姿を歌った「耳に落ちる涙」は爽やかさと切なさの同居した一曲。ファンの間でも人気の高い「沈黙した恋人よ」のストーリーを拡張したような「沈黙が愛なら」はどこか温かい雰囲気のある一曲。「Footsteps」は孤独であっても自分を信じて前へ進もうと歌うストレートな一曲。そして表題曲の「キュン」は恋の始まりを歌ったキャッチーなザ・アイドルソング。


 どれも爽やかかつ繊細な音選びに胸を打つメロディが乗った彼女たちらしい楽曲だ。素直で明るい表情や、純真無垢なイメージ、悔しさを隠さないピュアな性格、温かな雰囲気、思いやりなど、彼女たちの内面がそのまま音になったような名曲揃い。普通、こうしたデビューシングルの収録曲と言うと、曲調にバラエティを持たせすぎて”ハズレ”が一曲くらい混じっているものだが、これらの新曲はどれも彼女たちのアイドル性を見事に捉えている。それは、彼女たちが長い期間かけて培ってきた確固たるカラーがあるからこそだろう。


 ライブ本編を大胆に二部に分けた構成、グループの歴史を辿る演出、新グループの誕生を印象付ける新曲が立て続けに披露された後半部。今回の公演は、特殊なライブ構成でありながら、それがむしろ彼女たちの良さを引き出す最も適した演出となっていた。いよいよシングルデビューを控えた日向坂46。今回のライブで得た勢いに乗り、彼女たちは先輩グループのように坂を駆け上っていくだろう。(荻原 梓)


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