市川実日子が抱えるジレンマ 『イノセンス 冤罪弁護士』苦い現実にある“たったひとつの救い”を描く

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2019年03月10日 15:41  リアルサウンド

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 たとえそれが冤罪であろうとも、一度被せられてしまった罪はその身と心にへばりついて離れることがない。そんな現実の苦さ、冤罪の苦しみを徹底的に描ききった『イノセンス〜冤罪弁護士〜』(日本テレビ系)第8話。


参考:市川実日子が見せた表情


 今回、大きくフィーチャーされたのは、テレビ局の報道ディレクターである聡子(市川実日子)。この聡子というキャラクターは、演じている市川実日子の凜とした佇まいも相まって、意志が強く説得力のある女性として描かれている。しかしながら、ときおりマスコミとしての無力感や罪悪感などを覗かせる姿から、彼女が理想と現実の狭間で苦しむ、複雑な感情を抱えた人物であることがこれまでも示唆されてきた。


 そんな聡子が拓(坂口健太郎)と楓(川口春奈)に依頼したのは、24年前に起きた「イトエ電機社宅殺人事件」で死刑判決を受けた式根大充(片岡鶴太郎)の弁護。長年、式根と手紙のやりとりをしていた聡子は、警察によるずさんな捜査と自白の強要によって犯行を認めたという彼の心境を知り、もし冤罪なのであれば、ガンで余命も短い彼が生きているうちになんとか罪を晴らしてほしいと拓に頼み込む。「生きているうちに」というのは、無念にも幼馴染を亡くしてしまった過去を持つ拓にとっても、切実に通じ合う思いだ。


 しかし、冤罪の可能性があるとはいえ、死刑が確定してから24年もたつ事件。再審請求は「開かずの扉」と呼ばれるほどに難しい事象でもある。さらに、式根の娘である松ヶ下玲子(星野真里)は、事件以来、死刑囚の娘として苦しい生活を強いられてきており、今さら過去が蒸し返されることを望んでいない。それでも「娘に会いたい」という式根の思いを汲み取って真相究明に務めるなかで、冤罪をめぐる真実がぼんやりと明らかに。一方、マスコミの役目を果たして冤罪を晴らしたい聡子は、報道で事件への注目度を高めて裁判所や検察官たちへのアピールを試みるも、そのせいで再びマスコミに追われてしまうことになった玲子からは、強く叱責されてしまう。


 聡子はマスコミの人間としてジレンマを抱えている。事件の真相を報道して被害者の無念を晴らすことを使命としてこの仕事に携わりながら、上層部にはそうした番組は視聴率が取れないと止められ、また、真実を報道しても救われない人間がいるという事実がある。マスコミの可能性を信じながらもそうした現実のなかで葛藤する聡子が、志を共にする拓に真相究明のバトンを託し、サポートし続けているという理由にも納得がいくだろう。不器用な面もありつつ、そんな彼女の本気の思いを肯定する秋保(藤木直人)からのエールが心にしみる。


 大規模実験によって新事実が明らかになり、真犯人となる人物の娘・由美(酒井美紀)からも証言を得た拓たち。再審請求の場では、真実が容認されるよう拓も念を押すが、請求は棄却されてしまう。「開かずの扉」は今回も開くことがなく、各々に突きつけられるのは苦しい現実。それでもたったひとつ救いがあるとするならば、父と娘が24年の時を経て再会を果たし、アクリル板で分断されながらも、彼らが手と手を合わせられたことだ。『イノセンス』は苦しい現実を突きつけるドラマではあるが、聡子や拓の行動は無駄ではなく、必ず救
いがあると訴えかけている。そうであるから、拓と秋保が大切な人を失った事件においても、その真相が明らかになった時にはきっと、彼らにも春風が吹いてくれるに違いない。 (文=原航平)


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