「中学受験はバカがやるもの」公立至上主義の夫と私立エスカレーターの妻、対立が招いた悲劇

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2019年03月10日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 新入学シーズン間近であるが、早くも新学期をスタートしているのが中学受験塾である。特に新小学4年生の中には、本格的に中学受験に参戦した子も多くいるだろう。その子を持つご家庭には、これから3年間という長期戦が控えているのだが、この中学受験、「一家の団体戦」であることを忘れてはならない。

 受験をする本人はもちろん、その両親、さらにはその子の兄弟姉妹、場合によっては祖父母もそのメンバーにカウントされよう。つまり「一家一丸となって」戦うものが中学受験なのである。
しかし、この戦いの第一歩で、すでに「ボタンの掛け違い」を起こしているご家庭も散見される。すなわち、子どもの両親である夫婦の意見が対立したまま、受験に足を踏み入れる家庭があるということだ。

 夫婦の意見は、「4×4」パターンに分かれる。夫が「賛成」「まあ賛成」「やや反対」「反対」。妻が「賛成」「まあ賛成」「やや反対」「反対」。つまり組み合わせとしては16通りになる。両親が双方共に反対している中学受験はあり得ないので除くとして、「まあ賛成」「まあ反対」の場合は、熱量が高い親の意見に押し切られ、深刻な問題にはならないケースが多い。この中で問題になるのは、どちらかが「賛成」で、どちらかが「反対」の場合だ。夫と妻の間に極端な温度差がある場合、子どもは大混乱になりかねないため、スタート時点で注意が必要なのである。

 誠さん(仮名)と彩さん(仮名)夫婦の場合はこうだった。誠さんは地方出身で大学までの全てを公立教育で成長した。一方、彩さんは東京都出身で中学受験を経験し、そのまま併設の私立大学を卒業している。

 夫婦は一人息子・丈君(仮名)の教育方針に、「のびのびとたくましく」を掲げたが、中学受験で意見が対立した。誠さんは公立教育の方が「のびのびたくましく」を体現できると主張し、一方の彩さんは「それは昔の人間の思考法。今は私立中高一貫校でしか、その目的は達成できない」と反論して、硬直状態が続いていたのだ。

 しかし、丈君の小学校学区は受験熱が高い地域ということも手伝って、夫婦は膝を交えた話し合いをすることなく、なし崩し的に丈君の中学受験生活がスタートした。最初こそ成績が良かった丈君に対し、「勉強しているなんて偉いぞ、丈!」と声掛けをしていた誠さんだったらしいが、学年が上がるごとに成績が下がっていく丈君に、苛立ちを隠さなくなったそうだ。

 誠さんは、彩さんと丈君に向かってこう言ったと聞く。

「だから、中学受験なんかやったって意味はないんだよ! 小学生が土日もなく勉強するなんて、後伸びどころか、今、伸びることすらできなくなってるじゃないか!」

 中学受験は、学年が上がるに従い、周りもだんだんと必死になってくるので、思うように成績は伸びていかないものなのだ。これをどうにか堪えて受験本番につなげていき、合格をもぎ取るのかの勝負でもある。そのため、両親にはある意味、“子どものカウンセラー的要素”も必要になるのだが、誠さんは経験のなさも手伝って、彩さんいわく「息子のやる気を削ぐ天才」と化したそうだ。

 「今の日本を悪くしているのは中学受験産業」とは、誠さんの言葉だ。彩さんは筆者にこんな本音を漏らした。

「主人は『思い込んだらこう』という人で、自説を曲げません。いくら私が今の学校の現状を言っても聞く耳持たずで、最後は私を侮辱するようなことまで口にしたのです。『パパの会社で中学受験をしてエスカレーターで上がったヤツにロクなのはいない!』と。エスカレーター式学校を卒業した私を、この人は心の中でバカにしていたのかと思うと、涙が止まりませんでした……」

 結局、丈君は「中学受験はバカがやるもの」と口にする父親の方に付き、受験をやめた。そして、4月から中学生になるというが、同級生のほとんどが中学受験をしていたため、学校の中で結果的に“浮いた存在”となり、その寂しさを埋めるためなのか、ゲームとYouTubeに没頭するようになったと、彩さんは悔しそうに言う。

「教育は住んでいる地域、時代に合わせて、柔軟に変えていかないといけないと思います。今の時代、子どもであっても、のびのびと野山を駆け回ることはできません。ウチは夫婦の教育方針の食い違いで、失敗したんです。丈には『のびのび』も『学力』も付けてあげることができませんでした。とにかく中途半端に終わったことが残念でならないです」

 今後、丈君がどう成長するかは未知数だ。彩さんの後悔が晴れていくことを祈りたい。

 もう一つ、今度は逆の事例をお伝えしよう。夫が中学受験賛成派、妻が反対派のパターンである。夫である邦彦さん(仮名)は、国立大学の医学部を卒業し、とある大学病院の勤務医をしている。

 妻の光江さん(仮名)は、まだ手のかかる幼稚園児がいるために専業主婦をしている。二人の長男である裕之君(仮名)は、父である邦彦さんに押し切られる形で中学受験に挑戦することになったそうだが、この生活が嫌だと光江さんはこぼしていた。

「主人も私も中学受験の経験がなく、私はその必要性も感じないのですが、主人は裕之をどうしても○○大学出身の医者にさせたいみたいなんです。それで、医学部に強いS学園に入らせたいそうで、そのために私への指図がすごくて閉口しています」

 邦彦さんが帰宅するまでに、裕之君に問題を解かせておくこと。次週末の模試のケアレスミスを、現状の33%から20%以内に収めること。下の子(幼稚園児)は受験勉強の邪魔なので、午後7時には寝かしつけること。これらは全て光江さんの仕事だと言われたそうだ。

 そのほかにも細かい指示があるようだった。試験の出来にも、子どもの体調にも波があるので、親の思う通りには何一つとしてうまくいかないことが“暮らし”なのであるが、邦彦さんにはその加減がどうにも理解できないようなのだ。

 結果として、裕之君が6年生の初夏に、光江さんは子どもたちを連れて、実家に戻ってしまう。邦彦さんが裕之君に「ケアレスミスをした」ということで暴力を振るったことが、直接の原因になったという。

 「中学受験は害悪でしかない」と言い切る光江さんは、現在、離婚調停中。光江さんの地元は、「『中学受験』という言葉もない地方」といい、現在公立中2年の裕之君は、高校受験に向けて、塾漬けの毎日だそうだ(裕之君は医者志望。やはり親子というものは不思議なものである)。

 中学受験はあまりにも親の思いが強いと家庭の崩壊を招く “引き金”になりかねない。人生は何事もバランスが大事ということに尽きるが、もし、中学受験に踏み切ろうとしているご家庭があるのであれば、夫婦のコンセンサスの一致は不可避。

 中学受験は夫婦が同じ方向を向きながら、時には片方が鼓舞し、片方がなだめる。そんな具合に、絶妙なコンビネーションで子どもを支えなければならない“一家の一大イベント”なのだということは申し上げておきたい。
(鳥居りんこ)

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  • 自分の出身校である私立エスカレーター校に長男を入れさせたい夫だが、奥さんの「は?■■に入れさせたい?アンタを含めて周囲にいる■■出身はロクな奴がいないじゃないの」の一言で断念したらしい
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