菅田将暉のメッセージに10日間のすべてが集約 『3年A組』がネット社会へ訴えかけた強烈な警鐘

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2019年03月11日 06:11  リアルサウンド

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 「景山を殺した本当の犯人はSNS」「SNSによる暴力を世に知らしめること」。先週の第9話で意味深に隠されていた、最後の“俺の授業”で柊(菅田将暉)が生徒たちに語ったすべての真意。3月10日に最終回を迎えた『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)のこれまでを振り返ると、学校を爆破してまで立てこもる教師と人質になる教え子という突飛な設定と二転三転するストーリーであったわけだが、最後の最後に語られるメッセージは奇をてらうことのない、あまりにもストレートなものであった。


参考:『3年A組』菅田将暉の姿にみる教師像の変化 熱血先生の声は現代にも届くのか?


 すでに第6話の時点で、ひとつの大きなテーマとも言えるメッセージが提示されていた。「上辺だけで物事を見るな。本質から目を背けるな」。ネット上で多様な意見が流れる中で、それがマジョリティであっても流されることなく、自分の頭でしっかりと考えることを忘れてはいけない。けれども現に、先週の第9話が放送されるタイミングで流れた「映画化」という噂(少なくとも、その情報にあったように結末が持ち越されることはなかったわけだが、話題性の大きさから言っていずれ続編が何らかの形で作られることもないとは言い切れないのだが)に踊らされた人が数多く見受けられた。


 そして最終回で「みなさんにすべての真相をお話しします」という柊の言葉通りに語られた事件の真相という名のメッセージ。それはもはや、ドラマの内側に留まるものではなかった。劇中のSNS“マインドボイス”での配信という設定上のカメラを通して視聴者に語りかける、周りに合わせて自分の意見をころころと変えることの愚かさ、知りもしない相手に向けられた言葉の暴力への問題提起。柊の熱のこもったスピーチが語られはじめると、校庭から屋上を見上げる警察のカットがほぼ映らなくなり、屋上へ向かおうとする生徒たちの姿が時折入るだけという演出によって、柊の“俺の授業”が何のフィルターも介されずに視聴者に、社会に向けて直接的に投げかけられることとなった。


 本作の脚本を担当していた武藤将吾といえば、2017年の『仮面ライダービルド』を手がけた人物であり、『仮面ライダーW』の菅田将暉とのコンビも相まって、時折入る特撮ネタが大きな話題を集めていた。とはいえ彼の代表作といえば、2005年の夏に放送された『電車男』(フジテレビ系)が真っ先に思い浮かぶ。1人の男がネット掲示板で語る、本当か嘘かわからない出来事に対して愛情を持って接する、いわばネットのポジティブな一面を描き出した物語だ。


 それから13年半を経た今では、そんな出来事がネット上でつづられればすぐさま「嘘松」などと揶揄される時代に変わってしまったわけだ。それはネットが生活に欠かすことのできないツールとなった反面、それによっていろいろなことが失われて、社会全体が荒んできたからのように思える。そんな中で本作は、武藤が現代というネット社会へ訴えかける強烈な警鐘といえよう。昨年度のいわゆる「ネットいじめ」と呼ばれる暴力の認知件数は12632件にのぼる。使い古された方法で警鐘を鳴らしても、今の社会には、そして何より今の子供たちには届かない。そんな苦しさが、教室という閉塞した空間からすべてが発信される物語に象徴されているようにも見える。


 ドラマ終盤で登場するようになった、武智(田辺誠一)を追い詰める幻覚もまた、SNSが生み出す恐怖を視聴者に体感させるねらいがあったのだろう。このドラマに本来あった演出の流れを打ち消してでも入れる価値はあったと、この最終回の演出を見ると感じずにはいられない。そしてまた、暴力の加害者へ問題意識を植え付けると同時に、加害者にも被害者にも向けられた一番大きなメッセージがあったことは見逃せない。それは最後の屋上のシーンで生徒を前にして柊がつぶやく小さな言葉、「死ぬのは、怖いな」。実にシンプルで、すごく当たり前の考えであるはずのその一言に、この濃密で長い10日間のすべてが集約されているのかもしれない。(久保田和馬)


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  • ドラマの中で柊先生が言った、これで何か解決するとは思わないが誰か一人でも考えて思い止まって欲しいがテーマだったんですね。私もそう願いたいです。
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