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“終わらないデータ集計”から社員を救え カプコンがBI導入で挑む脱Excel

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2019年03月11日 08:12  ITmediaエンタープライズ

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ITmediaエンタープライズ

写真カプコンの執行役員であり、同社のeSports統括本部 統括副本部長 兼 デジタルマーケティング部 部長を務める赤沼純さん
カプコンの執行役員であり、同社のeSports統括本部 統括副本部長 兼 デジタルマーケティング部 部長を務める赤沼純さん

 データ活用や分析のニーズが高まる中、いまだに多くの企業を悩ませるのが脱Excel問題だ。「表計算」「リスト作り」といったExcelに適した用途なら良いものの、本来なら他のツールを使った方が早く済む用途にまでExcelを使い続け、かえってその状態から抜け出せなくなってしまう……。そんな“穴”から今着々と脱出中の大企業がある。大手ゲーム企業のカプコンだ。



カプコンで実際に「Domo」を使っている画面の一例。まだ全社には普及してはいないものの「Excelでマクロを作るよりはずっと簡単な操作で済む」と赤沼さんは語る



 「バイオハザード」「モンスターハンター」「ストリートファイター」など、世代を超えて有名な数々のゲームを手掛けてきた同社。米国、欧州、アジア各国に営業やプロモーション、開発などの各部門を展開する他、2018年2月にはゲームプレイヤーたちが実力を競い合う、いわゆる「eスポーツ」に国内でも本格的に進出した。



 そんな同社では、一体どんな形で脱Excelが起こったのか。「ゲーム業界のデジタル化が、全てのきっかけだった」と、同社の執行役員であり、デジタルマーケティング部の部長を務める赤沼純さんは語る。



●ゲーム業界が迎える「ビジネスモデルの変化」



 「従来のゲームは、CDやカセット型にパッケージされた商品を店舗で買うものでした。ゲーム会社のビジネスモデルも、お客さんにゲームを売る小売店に商品を卸す、いわゆる『B2B』だったわけです。



 しかし、最近はオンラインでゲームを直接ダウンロードするお客さんが増え、ビジネスが『B2C』に近い形に変わりつつあります。そのため、従来はTVや雑誌といったマスメディアを通していたマーケティングも、今後はデータを通してリアルタイムにお客さまのことを知れるような形に変えなくてはなりません。しかし、それを実現するためには、『どこに、どんなお客さんがいて、どのゲームを買ったか』というデータが圧倒的に足りない、ということが社内で分かったのです」(赤沼さん)



 一方同社では、これまで世界各地の拠点で、担当者がExcelを使ってデータをまとめるのが普通だった。各所で発生するデータは、ばらばらに集計、管理されていたが、ただでさえ広い市場にデジタル販売の拡大が加わり、膨大なデータが集まるようになったことで、こうした“データ集計作業”の冗長化が問題になり始めた。



 「例えば、定期的な経営会議に“各ゲームの売り上げ”といった数字を提出する際も、担当者がExcelを使い、数日かけてやっと数字を集計していました。やっと経営陣に数字を見せられたときは、既に集計から1週間もたっていて、『数字が古過ぎる』と言われてしまうこともしばしばでした」(赤沼さん)



 販売やプロモーション、開発といった業務に関連するデータも増加し、「全世界のあらゆる拠点で、膨大かつ多様なデータが飛び交っていた」(赤沼さん)という同社。混乱する現場を何とかして脱Excelさせ、データ集約や管理、活用の仕組みを変える時期が来たことは明らかだった。



●経営陣のサポートを得て、全世界で使えるBIツールを導入



 そこで赤沼さんと、同じくデジタルマーケティング部の池田ひかるさんの二人は、自社に合ったBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの検討を2018年1月に開始。そこで注目したのが、米国企業DomoのBIツール「Domo」だった。



  カプコンの開発部門では、既に「Tableau」を運用していたものの、赤沼さんたちの用途には、Domoが最適だったという。同ツールは、企業のクラウドやオンプレミス環境などで動くデータベースや各種システム、アプリケーションなどからデータを集約し、リアルタイムで更新、可視化する。



 「選定に当たって、『全世界の拠点で使えること』『複数のデータ形式やファイル形式に対応していること』『さまざまなツールをつないで使えること』の3つの条件を満たすのはDomoでした。特に3点目の、さまざまなツールを使うためのAPI(Application Programming Interface)を公開している点は、世界各国の拠点で使われているツールからデータをつなげたい当社にとって、非常に重要でした。



 経営陣も、データを活用したビジネスモデルへの変革が必要だという認識は同じでしたから、導入を相談した時は『すぐやって!』と言ってもらえましたね」(赤沼さん)



 同社では、2018年2月にDomoの導入を決定。分析機能の充実したTableauをこれまで通り開発部門で活用しつつ、「全体的なデータの統合はDomoで、各データの深い分析はTableauで」といった使い分けを視野に入れているという。



●社内に「失われた秘宝」が? 導入で得た思わぬ気付き



 一見スムーズに導入が進んでいるようだが、その準備期間には、さまざまな苦労があったという。最初に立ちはだかったのが、ツールに取り入れるデータの整理だ。



 Domoの導入を控えた2018年初め、導入チームがまず行ったのは、社員への徹底的なヒアリングだった。「社内のあちこちに散らばっていたデータの所在や管理者を確認」「会社にとって本当に必要なデータの取捨選択」といった作業に数カ月を費やした結果、思わぬ気付きを得ることもあった。



 「ヒアリングの過程では、『データを判断する人のリテラシーがどれだけ重要か』に気付かされましたね。現場にはさまざまな課題意識を持った人たちがいて、実際に細かいデータを見ている社員もいました。一方で、肝心の『課題』を示すようなデータや経営陣が求めているようなデータが、現場から届かないケースが非常に多かったのです」(赤沼さん)



 現場のデータソースから何の加工もしない素の状態でデータを取り込み、必要に応じて最大限の知見を引き出したかったという赤沼さん。しかし、ヒアリングを通して知ったのは、「今まで現場が独断でデータの一部を切っていた」などの事実だった。



 現在同社では、全社へのDomo導入を進めているが、データの価値を損なわず、各部署や経営陣からの知見を最大限に引き出す意味でも、赤沼さんは「社員への啓蒙(けいもう)を進め、同時にデータを漏らさず共有することが重要」と語る。また、膨大なデータの中で方向性を見失うことのないよう、あらかじめ経営陣の求めるデータの内容やデータ活用のゴールを共有し、それに応じたKPIを設定する、といった工夫をしているという。



 実際に社内で同ツールを使うのは、現場でデータを扱う担当者や、そのデータを判断するチーム長や室長、部長といった役職付きの社員たちだ。彼らを対象にしたDomoの普及活動では、地道な工夫が続いているという。



●4日かかっていた作業が十数秒で――現場を驚愕させた変化



 「今のところ、ExcelからDomoへ切り替わった作業の割合は、全体の10%程度でしょうか。販売チームでは、実際にDomoを使って毎週の収支報告を行っています。従来は、社内の各担当者からメールで送られてきたデータを、Excelで半日以上かけて集計していましたが、現在は指定の場所に必要なデータを送ってもらう作業以外の部分がほぼ自動化され、実働時間が30分程度で済むようになりました」(赤沼さん)



 同社では、準備期間を経て2018年7月に社内でお披露目を行い、同年10月からは、社員向けの「レクチャー会」を始めている。社員を各拠点から集めては、Domoの使い方を覚えてもらう、というものだ。



 池田さんは、「レクチャー会は東京で既に2回開いたのですが、データの取り込みやグラフ化、可視化といった基本的なスキルを紹介しています。開発部門は大阪にあり、そちらではまだレクチャー会をできていませんが、連絡を取って個別に紹介しています。実際に使いこなす人たちも出てきていますし、彼らに現場で広めてもらうと、普及のスピードが上がりますね」と語る。



 2人は、こうした活動を通じて、Domoに取り込めるデータはそろっているものの、使い方が分からないので、いまだにExcelでマクロを組んでいる――といった社員にも、いずれはDomoを使ってほしいという。



 一方、実際に現場でDomoに触れた社員の中には、今まで経験したことのないスピードで必要なデータがまとまる様子にショックを受けることもあるという。例えば、赤沼さんが、Domoを使ってあるゲームの時期別売上データを十数秒で集約してみせると、後ろでその様子を見守っていた担当社員は、「その作業、今まで4日かけていたんだけどな……」と絶句したという。



●データ活用の事例を新ビジネスに――BIツールを使う課題と希望



 カプコンでは今後、Domoに全社のマーケティングデータや販売データを取り込み、いずれは一つのプラットフォーム上で皆が同じ数字を見られる環境を実現しようとしている。



 「実際に、データを使う会議では徐々に報告のフォーマットをDomoにしています。最終的には全社員にとって必須のツールになるようにしたいですね。社員の習熟度を上げるためにも、Domoにはぜひ、オンラインで公開しているチュートリアル動画の日本語版を充実させてほしいです」(赤沼さん)



 Domoの活用を支える舞台裏では、社内データの緻密なチェックも進んでいる。デジタルマーケティング部の池田さんによれば、この作業は最も苦労が多い一方、各部署に掛け合って必要なデータセットを用意する過程では避けて通れないという。



 「特に、マスターデータを精査し、データ分析に悪影響を与える、いわゆる“ノイズ”を見つけて処理する部分は大変ですね。新たなデータが加わるたびに、この問題は必ず起こるのですが、複数のデータフローの間にさまざまな処理を行っているので、ノイズ自体の原因が見えにくいんです。今後AIなどの技術がさらに発達すれば、いつかは自動化できるかもしれません」(池田さん)



 こうした努力の先には、リアルタイムで得られるデータを、今後さらに変わっていくだろうゲーム業界のビジネスに生かす目標がある。



 「今は、新たにeスポーツなどのビジネスが立ち上がっています。そこでDomoを使い、データをフル活用しながら運営するような事例を作りたいですね。そうすれば必然的に、他の事業にとってもヒントになり、海外の事業拠点にも応用できると考えています」(赤沼さん)


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