sumikaが追求する音楽活動という名の“家づくり” 新作『Chime』で踏み出した新たな一歩

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2019年03月11日 16:01  リアルサウンド

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 「住処っていうのはね、心地よさなんだよ」「そこに人に対するぬくもり、そして楽しさがある」。そう語るのは、建築家の天野彰。このVTRは、sumikaという名前のバンドが新アルバム『Chime』リリースを告知するためのTVCMスポット映像である。しかしこの事前情報を知らない人ならば、住宅メーカーのCMだと勘違いしてしまうことだろう。


参考:sumikaが語る、『君の膵臓をたべたい』と築いた幸福な関係「僕らの進み方は間違っていなかった」


 実際sumikaは、天野氏が語る住まいにとって大切なもの――チーム内の心地よさ、人としての血の通ったぬくもり、ファンとともに“sumikaというプロジェクト”を作り上げる楽しさを大切にしながら歩んできたバンドだ。例えば、YouTubeにアップされている動画「sumika / 結成5周年のご挨拶」で紹介されている、<GREEN ATTiC>設立に始まるチームの変遷。2014年に行った、プロアマ問わず、sumikaの楽曲に自由に映像を付けることのできる「Niwa cinema」という企画。リスナーに対し何か伝えたいことがある時、ビデオレターを通じてメンバーの口から直接伝えていくやり方。これらの取り組みからは“本当に好きなものを、好きな人に向けて、たくさん渡せるチームを作れるように”という信念を守るため、自分たちのやり方を一人ひとりに伝えながら、丁寧に輪を拡大させていくバンドの在り方が見えてくる。


 また、そのような温度感はライブにおいても大切にされている。片岡健太(Vo/Gt)は観客に対し、あなたの手拍子も声も目線も表情楽器に変えたいのだと語りかける。ステージ/客席の垣根を越え、会場全体で“合奏”しないかと持ちかける。昨年7月には初の日本武道館公演を行ったが、広い会場は終始温かい空気に包まれていた。人肌の温度が感じられるようなアットホームさこそがsumikaの持つ大きな魅力なのだ。(参考:sumikaの歌は、いつも“みんな”の傍にあるーー日本武道館公演で確かめ合ったファンとの絆)


 sumikaは変わらずここに在り続ける。だから、つらい気持ちになってしまったら「ただいま」と言いながら帰ってくればいいし、勇気を蓄えることができたなら「行ってきます」と言いながらドアを開けるといい。住まいとしての家と同様、sumikaはそういうバンドなのだと、彼らは楽曲における歌詞、インタビューやライブのMCにおける発言などを通じて発信してきた。2017年7月にリリースした1stアルバム『Familia』もまさにそのことを伝えるような作品だった。


 そしてこの度リリースされる2ndアルバムは『Chime』と名付けられた。このタイトルには、sumikaがあなたの家を訪ねにいく=チャイムを鳴らすという意味合いが込められているとのこと。冒頭を飾る「10時の方角」サビにて、上昇スケールのメロディラインに乗せて〈はじまり はじまり〉と唄われていることも非常に象徴的である。


 これまでと同様、ゲストミュージシャンを多数招いて制作された本作。同じような表情をしている楽曲はひとつもなく、各曲には新たな要素が盛り込まれている。『Fiction e.p』にも収録されている「ペルソナ・プロムナード」は、リリース当時、そのシニカルさが新鮮に感じられたが、今回のアルバムにはそれとはまた別のベクトルでドキッとするような歌詞の楽曲がある。前回の『ファンファーレ / 春夏秋冬』リリースツアーではボーカルと鍵盤のみで演奏をする機会があり、「ゴーストライター」ではその経験を活かすようなアレンジを取り入れられている。また、「Strawberry Fields」、吉澤嘉代子をゲストボーカルに迎えた「あの手、この手」はかなり大胆な構成に。一方、いきものがかりや秦 基博などの楽曲を手がける音楽プロデューサー・島田昌典の編曲による「ホワイトマーチ」はポップミュージックとしてどこまでも開けており、『JR SKISKI 2018-19キャンペーンテーマソング』に選ばれたこともsumikaの名前をより広める機会となった。


 本作のラストを飾るのは、1stアルバムと同じタイトルの「Familia」という楽曲だ。片岡が歌詞に綴ったのはチームに対する思い。家族のような関係性が“永遠に”続きますように――そのような願いを彼がここまでストレートに描いたのは今回が初めてでないだろうか。


 同アルバムの14曲中6曲はタイアップソング。前アルバム発表からの1年8カ月の間、sumikaはバンドの外側にいる人々とともに制作を行う機会が多かった。その経験は、バンドに新たな刺激を与えたほか、sumikaというチームに対する信頼感や、このチームならばどこへでも行けるのだという自信も連れてきてくれたのだろう。聴き手一人ひとりを大きく抱きしめ、まるごと肯定するポジティブなアルバムを作ることができた理由もそこにある。


 変化を恐れず家の外へ飛び出したsumikaが、その道のりで出会った人々ともに鳴らす『Chime』。それを聴いてあなたは何を思うだろうか。新生活の始まりに、ぜひともsumikaの音楽を。(蜂須賀ちなみ)


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