NHK“ネット同時放送解禁”が民放・配信サービスに与える影響は? 海外の事例などから紐解く

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2019年03月12日 07:01  リアルサウンド

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 政府は、NHKが全ての番組を放送と同時にインターネットで配信できるようにする「放送法改正案」を閣議決定したことを発表した。


(参考:議論進む“放送規制全廃”でメディア環境はどうなる?


 これは、総務省が2020年の東京五輪に向け「常時同時配信」を目指して調整してきたもの。今回の閣議決定を経て、今国会で放送法改正案が成立すれば、総合テレビとEテレの2チャンネルの全ての放送がネットを通してスマホなどで24時間見ることができるようになる。NHKはこれまで災害時やニュース、スポーツ番組などに関してのみ、ネットでの同時配信を実施してきたが、全番組の同時配信については放送法の改正が必要だったうえ、民放各社でも実施していない施策のため、大きなニュースとなった。NHKは早ければ2019年度中の実現を目指しているという。


 このニュースに関しては様々な角度からの報道がなされているが、果たして「テレビとネット」の関係性を考えるうえで、どこまで前向きなトピックになるのだろうか。デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏に聞いた。


 まず、海外での「テレビとネット」の現状について、ジェイ氏はこのように述べる。


「海外ではアメリカが先行していて、2010年代半ばからテレビをライブ配信するストリーミングアプリが出揃い、テレビは“テレビでも観られるが、アプリでも観られる”という状態が当たり前になってきました。とはいえ、ストリーミングするサービスがHulu、AT&T、Sling TVなど数多くあり、チャンネルがそれぞれのサービスへバラバラに配信しているので、自由だけど不自由な状態、ともいえますね」


 テレビとネットは共存しているものの、サービスの増加に伴う不便さがあるという。続けて、同氏は日本を引き合いに出してこう続けた。


「海外ではこれらのストリーミングサービスが発展することで、ケーブルカッター(TV契約を辞めた人たちの総称)が増加した一方、テレビ局がインターネットに適応するという流れが生まれました。いまは“ネットを使う”ということが、パソコンから離れてスマホ、タブレット、テレビの中でも適用される時代になったなかで、ネット配信をNHKが部分的に取り入れていくのは、大きなトピックです。NHKがこの動きを率先して始めることで、日々発展を続ける現在の通信環境を活かしていない、旧来型の放送業界のデメリットが問題として浮き彫りになってくるはずですから、そこを改善することで、今まで海外では当たり前でも日本ではできていなかった、時代に合わせた自由な放送が当たり前になってくるはずです」


 また、今回の放送法改正は、民放各社へどのような影響を与えるのだろうか。


「テレビ朝日が出資元でもあるAbemaTVのような先行サービスは、ユーザーの視聴データやリテンションが強いコンテンツをいち早く研究できるメリットがあります。そのなかでチャレンジングなドラマやリアリティ番組、ドキュメンタリー番組を作ることができますし、そこにテレビ的な要素を入れる・入れないという選択もでき、当たるコンテンツを生み出す精度を上げていくことができる。ネット配信については『字幕放送がうまくできないんじゃないか』という懸念もありますが、そう遠くないうちにテクノロジーが解決するでしょう。まさに今がターニングポイントだと思うので、今回のタイミングでさらなるネット・アプリへの対応を急ピッチで進めるのか、緩やかなままなのかという各局の判断に注目ですね」


 最後に、スポーツ中継などのリアルタイム性が求められるコンテンツがネットで配信できるのは、放送局のビジネスとしてプラスの側面もあるのではないか、という問いに、ジェイ氏はこう答えた。


「オリンピックを含め、大きなスポーツの中継がネットで観られます、ということをNHKが謳えば、放送料を支払うユーザーも増加するかもしれません。ただ、NHKは公共放送であるため、そのぶんガバナンス、政府・第三者機関が責任を負って内部監査をするのかどうか、という点には気をつけないといけません。DAZNのように放送権を買う形なのか、広告を入れてスポンサードするのかなど、ネット配信用の新しいビジネスモデルを作る必要も場合によってはあるでしょう」


 放送法の規定により、NHKは各年度のコンテンツ提供・実施にあたっての費用を、受信料収入の2.5%までで賄わなければならないため、ジェイ氏が述べてくれたような放送料・受信料を払うユーザーの増加や管理が一層求められる。この状況を民放各社がアドバンテージと捉えて一気呵成にネット対応を進めるのだろうか。そういった点にも注目しつつ、今年のテレビ業界とインターネットの合流を見守りたい。(中村拓海)


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