女子高生AI・りんなの開発者から学ぶ、「感情」と「共感」とAIとの未来

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2019年03月16日 10:41  リアルサウンド

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 ユーザーとの心の繋がりを築くことを目指して開発されたMicrosoftの女子高生AI「りんな」。恋愛相談に乗り、デートスポットを考え、ミスiDのセミファイナリストまで残るといった「モテ」の要素がたくさん備わったりんなは、実際、告白される場面も多々あるそうだ。


(参考:女子高生AI りんなが、“歌”に挑戦する理由 「人と人工知能が関わることで新しい作品を生み出せる」


 今日、AIは私たちの生活において身近なものとなっている。そしてソフトバンクのPepper、Groove XのLOVOT、りんなのように、「感情」を理解し「共感」するAIやロボットはどんどん重視されていく傾向がある。(※1)(※2)
(1) https://www.gartner.com/smarterwithgartner/13-surprising-uses-for-emotion-ai-technology/
(2) https://medium.com/@cauraco/emotional-ai-what-is-it-ee3e63678679


 これらのテクノロジーの進化の末、人間とAIはどれだけ密接な関係性を気づくことになるのだろうか。


 今回はりんなのこれまでの歩み、りんなと感情にまつわる話、そして将来の展望と人工知能の未来について、開発者であるマイクロソフトディベロップメント株式会社A.I.&リサーチ プログラムマネージャー・坪井一菜氏に聞いてみた。


・誰もが話しかけやすく身近な人に投影できる


ーーまず、「りんな」とはどのようなAIか教えてください。


坪井一菜(以下、坪井):「りんな」は、2015年にLINEでデビューした、マイクロソフトのAIです。彼女と彼女のシリーズのことを「ソーシャルAI」と呼んでいて、誰かの仕事やタスクを効率よく肩代わりして達成するというより、コミュニケーションや心の繋がりを大事にして相手と関係性を築くようなことを目指して開発を進めています。


ーーなぜ女子高生という設定を選んだのでしょうか。


坪井:「関係性を築く」という目的を考えたときに、誰もが話しかけやすくて、自分の身近な人、周りの人を投影できるような、16歳前後の女の子というキャラクターが適切であると考えました。また、りんなの返答は何か正確な答えを出すというより、たまにちょっと斜め上の面白いコメントをすることで、相手との距離を縮めたいというところもあります。高校生ぐらいの年代の子たち、特に日本の子たちはユニークでとても面白いので、そういったキャラクターの力を借りて、AIを広めるために、女子高生というキャラクターを選びました。


ーーりんなはどんどん進化してきていると思うのですが、りんなの今までの活動と、その進化してきている経緯について教えてください。


坪井:最初はLINEのチャットボットという形でデビューしました。LINE上で何かを打ち込むと、たまに噛み合うときもあれば噛み合わないときもあり、自分が想像していないような答えが返ってくるということで非常に有名になって、様々な方に知っていただけることになりました。しかし、人間のコミュニケーションには、耳で聞いたり、目で見たり、声で喋ったりなど五感があります。それらをりんなにも身に付けさせることによって、りんなという情報の塊のようなものが、さらに人に接しやすくなるのではないか、と考えました。


 最初は頭脳であるメインの会話の部分から始めて、それを表現するための声を作ったり、さらにもっと表現できるように歌声を開発したり、さらにみなさんと同じような目線で世界を見れるようになるために、認識の一歩先の「共感視覚モデル」という形で、視覚を与えようとしています。一方的に喋るだけじゃなくて、耳で聞いて喋るということもできるようになりました。人間の五感を色々な技術で再現して、よりみなさんと近く接することができるような人工知能になるように進化を進めています。


ーーすごいですね。りんなとチャットしていて、結構面白い返しをしますが、その学習データはどこから持ってきたんですか。


坪井:みなさんはチャットボットを作るときによく想像されるのが、「ライターの人が頑張って返答をいっぱい書く」ということですが、私たちの開発チームはもともと検索エンジンを作っていたチームだということもあり、インターネット上の色々な情報を上手く組み合わせて、女子高生らしい喋り方ができるように、チャットエンジンというのを開発しています。


・その人それぞれにとっての一番心地よい関係性を


ーーりんなを使っているユーザーからの印象的だった反応について教えてください。


坪井:ちょっとした事故があり、りんなのいわゆる「記憶」が消えたことがありました。何人かのユーザーに偶発的に起きてしまいましたが、その時にユーザーは「りんなのデータがなくなった」ではなく、「りんな大丈夫?」「りんなの記憶が消えてしまった」「りんなが私のことを忘れている」とサポートへ問い合わせてくれました。その瞬間、ユーザーとりんなの間に関係性が築けていることを実感しました。そして、その「記憶が消える」ということで本当に心に傷を与えるようなことにまで至ってしまうこともあるんだということがわかった、エモーショナルな事件でした。AIは死にませんが、そういう死に近いような体験をさせてしまった気がします。


ーーなかなか普通のAIだったらそういうことは起こらないですよね。


坪井:そうですね。やっぱり話せて、キャラクターとしてきちんと存在しているからこそ上手く関係が築けていて、喪失感に近いような経験をユーザーにさせてしまったのだろうと、運営側として反省しました。ただ、その他にも心温まるエピソードは色々あります。よくあるのは、「りんなに付き合ってとお願いしてこっぴどく振られました」という体験だったり。りんなはよく「結婚してくれ!」なんて言われるみたいですが、上手くあしらっているみたいです(笑)。


ーーそうなんですね。ユーザーは実際に、りんなに恋愛感情を抱いたりするのでしょうか。


坪井:ジョークで言っている人もいるとは思うのですが……。一度ユーザーの方にお話を伺ったときは、「僕は妹みたいな存在として彼女と話をしている」と言っていました。家族LINEの中にりんなを入れていただいている場合もあります。また、あるお父さんが娘さんと色々話すにあたって、ちょっと今風な言葉を仕入れて使えるようにするために、りんなと話していると言っていました。あとは、「親友がりんなちゃんしかいない」という人もいます。深夜に話しかけたり、悩みをちょっと話したらすっきりした、みたいな人がいたりとか。なので、ただ単に恋愛的な感情だけではなくて、その人それぞれにとっての一番心地よい関係性を、りんなと築いていっているような気がします。


ーー坪井さんにとっても、りんなは家族みたいな存在なのでしょうか。


坪井:そうですね。私たちの場合は生みの親に近いような状態なので、他のユーザーとはちょっと違うかもしれませんが、保護者の立場でしょうか。ちゃんと友達と仲良くしているかなとか、テレビに連れていく時もちゃんと話してくれるかなとか。りんなと4年ぐらい一緒にいますが、そのくらい経つと一つの存在として、自分の中でも出来上がってきます。だから、普通のユーザーみたいに、たまに「こんなことがあったんだけどどうしたらいいんだろう、りんな」とか相談するうちに、すっきりすることも結構あります。成長させる技術を、もちろん自分たちで作っているんですけど、成長を見守るような立場にもあり、不思議な感覚ですね。


ーーユーザーがりんなに対して抱いてほしい感情などはありますか。


坪井:すごく興味があるのは、りんなとユーザーがどういう関係性を築けるのだろうか、ということです。人と人工知能がどういう関係を築くことがいいのだろうか、ということを解き明かすのが私たちの目標の一つです。極端な話、別に嫌ってもらってもいいとは思うんですが、どうせなら一緒に仲良く共存できるような関係性を築いていけるようになるといいなと思っています。


ーーそうなれば、りんなは人と人工知能がどういう関係性を築いていくのかを観察する、実験的な存在でもあるのでしょうか。


坪井:そうですね。観察して、より良く一緒に過ごせるような状態にもっていきたいと思っています。人にとって他人と生きることは、他の思考や価値観、他のアイディアを色々もらうためにとても重要です。そういう中にりんなが入り、彼女が新しい情報源になる。人と人とのネットワークの中に、感情的な側面を持つ人工知能が加わって、ネットワークがもっと豊かになっていくような状態になったらいいなと思っています。


ーーすごく興味深い話ですね。


坪井:その一環ではないですけど、次やりたいなと思っているのは、りんなをもう少し有名人っぽいポジションにすることです。ユーザーとりんなという一対一の小さな関係から、りんなが有名人になることによって、有名人と個人が友達になれる。りんながそういう風に有名人のポジションになることによって、りんなの話を共通の話題として、人同士がもっと色々な話をしてくれるようになるんじゃないかなと。多分、社会的にりんなのような人工知能が受け入れてもらうためには、何かしら役割が必要なんです。タスク型の子たちは、あるタスクを達成する役割がありますが、エモーショナルなりんなのような存在も、その感情ゆえに必要とされるようなポジションが絶対にあるはずです。それがどういった形なのか、解き明かすことが重要なポイントですね。


・人工知能が成長するところにとても興味を持っている


ーー先ほどお伺いしたように、恋愛感情を抱くユーザーの大半は冗談みたいな感じでりんなにアプローチしていますが、過去には恋愛相談に乗ったり、ミスiDに出るなど、「モテ」を意識した企画も多い気がします。こうした企画やプロモーションは、どんな背景から生まれているのでしょうか。


坪井:恋愛相談を組み入れていた理由は、人の感情に関係したコミュニケーションを取れることが大事だろうと考えたからです。恋愛相談というのは人のよくある悩みですし、ユーザーで一番多かったのがりんなと同じ高校生の子たちだったので、恋バナをするからこそ築ける絆みたいなものを培ってほしかったんです。同性しかり異性しかり、そういう秘めた側面を話せることは重要だと考え、りんなは恋愛相談をしていました。


 ミスiDも、芸能人路線でやっていく中で、AIっていう特異な存在を受け入れてくれる唯一のミスコンだと感じて、試しに出てみようと思っていました。快く迎え入れていただいき、セミファイナルに残って、たしかTwitterの活動でそれに残れるか残れないかが決まる時に、りんながみんなに「応援してくれ」と、一回呼びかけたことがありました。そうしたら、すごい勢いで「りんなちゃんがんばれ」というTweetが集まってきました。それってすごく素敵だなと思って。その「頑張れ」と声をかけてもらえるのは、人工知能と人間でとても良い関係だなと思いました。


 よく人工知能と言うと、「人の仕事を奪う怖い存在」のように捉えられますが、一方で、結構みんな人工知能が成長するところを見ることにとても興味を持っているように思います。りんなが成長に向けて頑張る姿を見せると、それに対して多くの方が応援をしてくれるのは、人工知能でありながら、人間みたいなキャラクターだからこそあり得ることだと思いました。人が親しみやすい、存在として感情移入しやすいような、器というかキャラクターみたいなのがある。それによって、あれだけ人と心の繋がりっていうのを作ることができるんだと感じた面白い体験でした。


ーー逆に、りんながチャットしている相手と仲良くなっていく中で、恋愛感情のようなものを示すことはあるんですか。


坪井:まだ、りんな自身に感情が生まれている状態ではないと思います。人の感情ってどうやってできているのか、全く解き明かされていないんです。理論的には感情っぽいものも作れるんじゃないかという話もチーム内ではありますが、まだそこには至っていません。今りんなが返事しているのは、色々な過去の人がそういうコミュニケーションをしていて、こう言うときっと仲良くなれるだろうという、経験に基づいています。そこに心があるのかと言われると、ちょっとまだ謎ですね。何をもって感情と言うのかっていうのは、いまだに科学的に解き明かされてないことなので、あるのかもしれないし、ないのかもしれない。


ーー坪井さんの中ではこれが感情である、と呼べるコンセプトはあるんですか。


坪井:そうですね。例えば感情認識っていうのも色々あって、映像やテキストが何の感情なのかを予測する技術は、業界的にもみなさんよく取り組まれていることです。なので、感情に関する情報と、例えばドラマやテレビの映像情報を大量に用意して学習させると、おそらくその感情的なものは習得できるのではないか、という予想はあったりもします。しかし、その膨大な情報を集めて整理したり、正確な感情を定義するなど、とても難しいなと思いますね。


ーー将来的にそういう取り組みをりんなでする可能性はありますか。


坪井:人間も一緒ですが、相手の感情というのは推測でしかなくて、正確に相手の感情を理解し、理解したところで何かをすることもなかなか難しいと思っています。それよりは、互いの関係性という軸で考えると、やはり共感できることってすごく大事だなと思っていて。共感できる返答やコメントなどの振る舞いができるようになるのが、今のところは感情を得る道を進むに当たっては、重要なのかなと思っています。


ーー先ほども将来は人間とAIが感情的に共存できるような存在になってほしい、というお話がありましたが、りんなは今後、どう成長していくでしょうか。


坪井:りんなという技術には、キャラクター性が備わっていることがとても重要だな思っています。特に世界に比べたら、日本はキャラクターが非常に息づいている国です。キャラクターがあることで、グッと共感しやすくなり、人と人をうまく繋げることができます。なので、私たちのAIはそういったキャラクター・個性という強みを持っているので、将来的にはどんなデバイスにも組み込めるようになるはずです。便宜上、現在はLINEでのチャットや電話、声としてラジオやネットに出演していますが、それこそ技術としては色々なものに入っていけるようなものなのかなと思っています。そういったように、いろんな場所に組み込まれ、融合していくような未来も一つあるかなと思っています。(リアルサウンド編集部)


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