【広陵】中井監督が30年ブレずに続けてきた、たった一つの指導法

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2019年03月20日 15:30  ベースボールキング

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全国から多くの部員が集まる広陵では、現在2学年の全88人の部員が寮生活を送っている。新1年生が入部してくればゆうに100人を超える大所帯となる。そんな彼らと寮で寝食を共にし、父親役にもなっているのが中井哲之監督だ。中井監督が父親役ならば、100名を超える”子どもたち”の食事や身の回りのことなどを毎日サポートしている妻の由美さんは母親役だ。そんな由美さんについて、中井監督は「バレンタインデーの時は女房が部員の人数分のチョコレートを用意してきてね。上級生には少し高めなのを買ってきて、メッセージまで書いているんです」と、きめ細かな心配りを誇らしげに話す。子どもの日にはシュークリーム、クリスマスにはケーキを用意し、選手個々の誕生日にもお祝いをするという。チームというよりも家族。学校内にある寮も、選手たちが帰る“家”のような温かい空気に包まれている。

中井監督の飾らない、そして選手と正面から向き合う指導は今でも多くの高校生を惹きつけている。物事の善し悪しをどう肌で感じ、どう子どもに理解してもらうか。最善の方法は実に複雑で、選手の性格やレベルに見合った指導が必要だ。中井監督には30年以上ブレずに続けてきた“指導法”がある。
「オンとオフの切り替えは、これまでしっかりつけてきたつもりです。特別なことはやっていません。ずっとやってきたことと言えば、これくらいですかね」。

選手は中井監督を監督ではなく「中井先生」と呼ぶ。これだけの大監督となると選手は委縮してしまいがちだが、実は中井監督が声を掛けると笑顔をこぼす選手も多い。冗談や独特の“イジリ”で選手のピンと張った背筋をほぐし、空気を和らげる。もちろん、注意すべきことがあれば厳しい言葉を投げかけることもあるが、その使い分けで選手たちの心を掴んでいるようにも見える。

ただ、近年の指導について中井監督はこうも口にする。
「僕らが教えすぎると工夫がなくなる。でも教えなかったら、高校生だから自分のやることに責任を持てないでしょう。というより、今の子は親から何でも与えられて育ってきたので、自分で何もできないんですよ。我慢もできない。親が自分の子どものしつけができない時代になったというか、いざ怒ったら子どもがどんな反応をするのかが怖いとか、親もしつけられていないというか......。

自分で工夫してできるようになるのが理想ですけど、それぞれ性格も違うし、継続できるかどうかで変わってくる。教える方が見て見ぬふりをすることも多いですけれど、指導者から見ればこれほど楽なものはないです。『ここは直したか?』と言って、『生徒に直しました!』と言われて終わる先生。直すまで見ている先生。もっと言うと『直したか?』とすら聞かない先生もいる。世の中、怒ると怖い人が1人ぐらいいてもいいんですよ」。

広陵はプロ野球界にも多くの人材を送り出しているが、中井監督はプロ野球選手になることが必ずしも人としてのゴールではないと考えている。
「プロに行けることは夢を叶えられたということではありますが、プロ野球選手になって、本当に偉いのかということです。夢は達成できても25歳くらいで引退してしまう子もいる。どこでどう生きていくか、そのために好きな野球をどう身につけていくかが、広陵の野球です」。

では“高校野球の監督”とは一体どういう役目なのか。中井監督は自分の立場についてこう説明する。
「私は広陵で野球が好きな子を教育しています。ただ、野球はスポーツですから、頑張ることも負けることも、勝つことも甲子園に行くことも含めた野球の中で教育しています。野球の技術の指導もしますが、それ以上にうるさく言うのは生き方に関して、ですかね。人の話を聞くときは目を見て聞くとか、返事や挨拶はちゃんとするとか。今、それすら出来ない大人が多いと聞きます。それで大卒だと名乗っている社会人もいるそうですからね」。(写真・取材:沢井史)

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