病気になる手前で先手を打つ「0次予防」
京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター
センター長・教授 松田文彦先生
味の素株式会社は3月19日、4月発売予定の新しい「アミノインデックス(R)」についての記者説明会を都内で開催しました。同製品は、1回の採血でがん、脳卒中、心筋梗塞の三大疾病の発症リスクを評価可能な検査で、ながはまコホート研究に基づく産官学民の連携により、開発が実現したもの。同発表会では、ながはまコホート研究を率いる京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センターの松田文彦教授と、滋賀県長浜市健康福祉部健康推進課の横田留里課長による講演が行われました。
「大規模ゲノムコホートとヒト生物学研究」と題した松田教授の講演では、ながはま0次予防コホート事業の概要と進捗について解説しました。「0次予防」とは、生活習慣病の改善により病気の予防を推進する「1次予防」の概念を一歩進め、個人の体質に合った生活習慣等の改善を、病気の症状が現れる前から先手を打って予防することです。松田先生は「すべての病気の原因は遺伝と環境の相互作用である」と説明し、発症前に病気を予知できるようになるためには、多くの人が病気に至る過程を追跡し、遺伝と環境のどのような組み合わせが病気につながるのかを解析する必要があるとしました。しかし、既に症状が現れた人についての病院ベースのデータのみではそれは成し得ないため、滋賀県長浜市で大集団の長期観察と生命ビッグデータ解析を開始したと、お話されました。
ながはま0次コホート研究は、滋賀県長浜市の健康な住民(30〜74歳)1万人を対象とし、5年ごとの詳細な健康診断(ゲノム・オミックス情報とさまざまな疾患関連情報を含む)と追跡をベースとした20年以上の長期横断ゲノムコホート研究。京都大学医学研究科23診療科が参加し、総力を結集して研究を進めています。2017年8月からは第3期事業が開始していますが、第2期事業の追跡率は88.8%と驚異的な高率で、住民の健康意識の高さがうかがえます。
この研究では、環境や生活習慣についても、個人の主観が入ることにより、均質な結果が得にくい「質問紙調査」ではなく、喫煙習慣を血中のコチニン濃度で捉えるなど、できるだけ「バイオマーカー」で定量的に変化をモニターするようにしています。松田先生は、ゲノムコホートは生命科学研究の社会インフラであると述べ、国全体として健康寿命を延伸するためには、商業利用も含め、データの二次利用がどのような立場でも可能になるように、国の体制を整備していくべきだと締めくくりました。