片乳を出して「痴漢です、助けて」と大暴れ! 強烈な万引き犯「銀座のJUJU」の思い出

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2019年03月23日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

Photo by Yoshikazu TAKADA from Flickr

 こんにちは、保安員の澄江です。

 我々保安員の仕事は、いろいろな街のさまざまな店舗に派遣されるため、行く先々の土地柄にも敏感になります。街の雰囲気が殺伐としていると、それに合わせて万引きの発生率も高くなるため、現場経験を積むほど敏感になってしまうのです。土地柄が悪い現場での勤務になると、その町で有名な不良や犯罪常習者、そこを根城とするホームレスとの遭遇も避けられません。そうした人たちのほとんどは、誰が名づけたのか「あだ名」で呼ばれていることが多く、どこか親しまれているような気がするのが不思議です。スリや空き巣を追う刑事さんたちも、容疑者たちにあだ名をつけておられますよね。この記事を監修されている伊東ゆうさんも、年末に出演された『ジョブチューン 〜アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』(TBS)のGメンSPで、不審者を見失わないように「あだ名」をつけて追尾していると話しておられました。人物の特定は、被疑者の逮捕にあたって一番重要なことなので、それも当たり前のことかもしれません。今回は、とあるショッピングセンターの高級食品街で捕らえた女性被疑者「銀座のJUJU」について、お話ししていきたいと思います。

 あれは、4年前の秋の日のことでした。当日の現場は、都内でも有数のおしゃれな街にあるショッピングセンターの地下にある高級食品街。生鮮食品の専門店をはじめ、菓子や酒、お茶など、さまざまな高級店で形成されるデパ地下のような雰囲気の商業施設です。契約初日の勤務であるため、営業担当の社員さんと最寄駅の改札口で待ち合わせて、現場の店内把握(店の構造や状況を把握すること)を一緒にしながら総合事務所に向かいました。

「ここ、たくさんいるみたいだから、間違いのないように頑張ってくださいね」
「はい。いたらわかるし、見たらいきます」
そんな会話をしながら事務所に入ると、扉脇の掲示板に貼られたオリジナルの手配写真が目に入りました。
「万引きの常習犯です。来たら警察に通報してください」

 そう大きく書かれたA3サイズのポスターには、この時に盗んだと思われる酒瓶を手にした水商売風女性の全身写真が貼られており、写真の脇には彼女の氏名と生年月日、職業、この時の被害品、犯行態様、それに所轄警察署の電話番号と駅前交番の内線番号までもが記載されています。それを読めば30代前半だった女は飲食業で、お酒や菓子、果実などの商品を持参のバッグに隠して出ていく常習犯とのこと。少し神経質な感じがするマネージャーさんに挨拶を済ませて、最近の被害状況を尋ねると、女のポスターを指差しながら苦々しい顔で言いました。

「毎日、結構やられていると思いますよ。そのなかでも一番頭にきているのが、この女なんです。半年くらい前に一度捕まえたんですけど、大暴れしましてね。逃げようとするので掴んだら、いきなり自分から服を破いて片乳を出して『痴漢です! 助けて!』って、大声で叫ばれたんですよ」
「そんなことがあったのに、いまも来ているんですか?」
「しばらくは、見かけてなかったんですけどね。最近、また、やりにきているみたいなんですよ。前に捕まえた時には『夫と一緒に銀座で飲み屋をやっているけど、経営が苦しくて店で必要なものを盗んだ』と話していました。なので、ウチでは『銀座のJUJU』と呼ばれていて、各店でも警戒してもらっています」
「銀座のJUJU、ですか?」

 存じ上げない方だったので困惑していると、隣にいた営業さんがスマホでJUJUさんの画像を検索して、私に見せてくれました。写真に写る女と見比べてみると、確かに雰囲気は似ていますが、似ているとされるJUJUさんには申し訳なく感じてしまうレベルです。

「もし来たら、売場から連絡が入るので、心配しなくて大丈夫ですよ。そこのボードに携帯の番号だけ書いておいてください」

 頭の片隅に「銀座のJUJU」の姿をおきながら店内の巡回を始めると、勤務半ばに、ネギトロ巻(598円)といくらのパック(798円)を懐に隠して盗んだ中年男性を捕捉することができました。身寄りもなく、ネットカフェで暮らしているという男性を連れて事務所の扉を開くと、ひどく慌てた様子のマネージャーが私に言います。

「ちょうどよかった。いま例の女が来たので、お酒売場に戻ってください」

 警送処理をしている間は、堂々と座って休める貴重な時間です。しかし、初対面のマネージャーが、そんな私の気持ちを知る由はありません。中年男性の身柄をマネージャーに預けて、少し重い足取りで酒売場に向かうと、ラメ入りの黒いニットにタイトスカートという、まさに水商売の女性といった服装で、ウイスキーボトルを手にする「銀座のJUJU」の姿がありました。

 それからまもなく、重く腫れぼったい目で周囲の気配を窺い始めた彼女は、肩にかけた大きめのエコバッグにウイスキーボトルを隠すと、続けて2本の焼酎ボトルも同様に隠しました。さらに、おつまみコーナーに移動して、サラミ、ビーフジャーキー、ミックスナッツ、酢いかなど、飲み屋で使うような商品ばかりを、次々とエコバッグの中に隠していきます。数分後、なに一つ買うことなく出口に向かった彼女は、一度も後ろを振り返ることなく外に出て行きました。しかし、エコバッグの開口部を閉じるように押さえているところを見れば、悪いことをしている認識は十分にあるようです。過去に暴れたことがあるというので、多少人通りの多いところまで彼女を歩かせた私は、逃走されぬようエコバッグの持ち手を掴んでから、優しく丁寧に声をかけました。

「お店の者です。そのバッグに入れたもの、お支払いしていただかないと……」
「はあ? なんですか? どれですか?」
こちらの現認状況を探るためなのか、万引き犯特有のセリフを吐いた彼女は、私の手を振りほどくべく、自分の体でエコバッグを引っ張っています。
「○×さん(「銀座のJUJU」の本名)、ここに隠したお酒とかおつまみのことですよ。逃げてもいいけど、カメラにも映っているし、前のこともあるんだから、あとで面倒なことになりますよ」
「……ごめんなさい」

 自分の名前を言われて観念したらしい彼女を事務所に連れて行くと、先に捕まえた中年男性の処理がなされており、被疑者席のある応接室は警察官で埋め尽くされていました。

「この女の分だけは、被害届を出します」

 ひどくイラついた顔で彼女をひと睨みしたマネージャーさんは、私に状況を確認することもなく、警察官に被害申告の意思を伝えました。それを聞いた彼女はガックリと項垂れ、重い悲壮感を醸し出しています。絶対に柔道をやっているだろう安藤なつさんのような体躯を持つ女性警察官が、彼女の身分確認と身体捜検を済ませて、エコバッグに隠したブツを確認すると、計10点、合計1万8,000円ほどの商品が出てきました。彼女の所持金は3,000円程度ですが、クレジットカードでなら払えると、買い取りによる解放を望んでいます。

「あなた、あそこに写真貼られてるの、知ってるよね? なんで、やっちゃうの?」
「銀座でお店やっているんですけど、売上が足りないから……」
「お店って、何よ? あなたが経営してるの?」
「夫と二人でやってるんですけど、なにもかもうまくいかなくて……。うわーん!」

 すると、突然に立ち上がった彼女は、マネージャーのデスク上にあったボールペンを掴んで、自分の首に突き立てました。

「こら、やめなさい!」
「自傷! 自傷!」

 警察官たちの怒号が飛び交う中、安藤なつさん似の女性警察官に制圧された彼女は、執拗にボールペンを握りしめて抵抗していましたが敵うはずもありません。落ち着いたところで傷口を確認すると、蚊に刺されたような痕しか見当たらず、その中心にあるインクが落ちるか気になったことを覚えています。

 その後、取り調べの場において容疑を否認した彼女は逮捕となり、私も証人として裁判所に出廷する展開になりました。判決は、懲役1年、執行猶予3年(保護観察処分付き)の有罪判決。この時を最後に彼女の姿を見ることはありませんが、お店の場所はわかっているので、今度銀座に立ち寄ることがあったら、彼女の店がどうなっているか確認してみたいと思っています。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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