中学受験における「小4の壁」とは……営業ウーマンの母が「悔しがらない息子」を変えた方法

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2019年03月24日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験に参入する家庭は、大まかに2通りに分かれる。

 一つは、我が子が生まれた時、もしくはかなり幼い時から「ウチは中学受験をさせる」と決意して子どもを育てている家庭。最近の傾向だと、さらに輪をかけて、誕生前からバースコントロール(子どもの早生まれを避ける)をして、参入している家庭も多い。

 そして、もう一つは周りの環境に影響されて参加を決める家庭である。例えば、「学区の公立中学の評判が悪すぎる」「たまたま中学受験熱の高い地域に住んでいる」「小学校でのいじめ等によって、中学では新天地を求めたい」などが動機になりやすいが、筆者の肌感覚で申し上げるならば「小4の壁」というのも、とても大きい動機になっているように感じている。

 「小4の壁」とは、「共働き家庭が放課後の学童保育で躓いてしまうこと」を指す用語である。2015年から、学童に入れる子どもの学年が、それまでの「小学3年生まで」から「小学6年生まで」引き上げられたので「小4の壁」は一応のところ解決したように見えるが、以下、4点の問題により、相変わらず、親の悩みが続いているのである。

1:定員があるため、低学年の子が優先され、入れない場合がある
2:学童終了時刻は午後6時が多く、保育園時代のように7時までの延長保育をお願いできない施設が多い
3:4年生以降は、同級生たちが習い事などで忙しくなり、学童に通う子が減る。年下ばかりの集団となりかねないため、本人が行きたがらない
4:宿題以外の勉強を指導員に見てもらえる可能性が低い

 そこで、この問題の受け皿として台頭してきたのが「中学受験塾」なのである。大手中学受験塾では、小5から土日も含め週3日以上通うケースがほとんどで、しかも塾終了時刻は午後8時過ぎになることも多い。しかも、空いている日は自習室が解放されているので、授業がなくとも塾に「出勤」可能なケースもある。共働きの親から見ると、先生方に見守られつつ、同級生と笑いながら、しかも切磋琢磨できる、安心安全な環境がそこに用意されているのだ。

 この中学受験塾は、さすがに子ども相手にビジネスをしているところだけあって、子ども心を掴むことにも長けていて、大抵の子どもたちは「塾は楽しい!」と主張する。中学受験を知らない大人たちは、ともすると「勉強漬けでかわいそう」と思うかもしれないが、教室の実態は、結構、元気で笑い声が絶えない場所でもあるのだ。子どもは本来、好奇心の塊なので、教え方がうまい先生から知的好奇心を揺すぶられることは苦ではないのだと理解している。

 ということで、共働き家庭における「中学受験塾」は、結果的に、その費用を除けば、“ブラボー!”な存在であることは否めないが、塾生活にも実は「小4の壁」があるということを、今回はお伝えしていこうと思う。

冒頭で中学受験に参入する家庭は2通りあるとご紹介したが、この後者である「学童保育代わり」に中学受験塾を利用する母の中には、塾生活での「小4の壁」を自ら作り出してしまう人が出てくるのだ。

里美さん(仮名)のケースでお伝えしよう。とある企業で営業の仕事をしている里美さんは、息子・将司君(仮名)が小4になる際に、中学受験を選択した。理由は単純明快、それまで通っていた学童の待機児童になってしまったからだ。

学校が終わった後どうするか――選択肢として、「自宅に直帰してお留守番」「中学受験塾で午後7時まで過ごす」の2つが挙がったそうだ。

結局、仲の良い友達が中学受験を選択したということが大きな後押しとなり、里美さんいわく「私の残業の受け皿」として、将司君を塾に行かせることにしたという。

しかし、里美さんは夫婦ともども中学、高校は公立だったこともあり“中学受験”という世界をまったくイメージできないまま、受験生活に突入したのだそうだ。中学受験塾は、やはり“塾”なので、遊んで終わりということはなく、そこには必ず“成績”という評価が下されるのだ。里美さんは次第に、成績が上がらない将司君にイライラするようになったという。

「私も営業の仕事なので、その成果を毎月、上から厳しく問われます。歩合ということもあり、その成績がお給料にも直結してしまうので、気が抜けないのです。なのでやはり、自分なりに悪いところがあったら、こう対策してみようとか、いろいろ戦略を考えるのですが、将司は成績に無頓着というのか、悪くても、できなくても、まったく悔しがる様子もなく、一緒に入った友達との成績は開く一方。だんだん将司に怒鳴り散らすことが多くなりました」

当初、中学受験塾は、単に「残業の受け皿」でありさえすれば良いと思っていた里美さんだが、本来の負けず嫌いの性格が顔を覗かせてしまい、簡単に「成績至上主義」に陥ったという。

しかし、将司君は叱られれば叱られるほど、ゲームに熱中するようになり、しかし「受験はやめない!合格できる!」と言い張るため、余計に親子バトルが過熱していったそうだ。

里美さんは当時を振り返ってこう言っていた。

「あの頃は私も昇進したばかりで、仕事にプレッシャーを感じていました。考えてみれば、将司は机に向かって勉強する習慣もまったくないまま、受験塾に親の都合で入らされたようなものです。本人にしてみたら、何をどうやっていいのかもわからない、それこそ、ノートの取り方ひとつ、進みの早い塾では追いついていくことができなかったんだと思います……」

そこで、里美さんは難関中学に入学を決めたお子さんを持つ学童仲間の母に相談したそうだ。すると、その人にこんなアドバイスをもらったという。

「中学受験は発破をかけるだけで成績アップするような甘いものじゃないのよ。塾に行きさえすれば、全ての問題が理解できるようになると思っているとしたら大間違い。塾はね、日頃のお勉強の成果を発表するところでもあるのよ」

つまり、中学受験は家庭学習こそが肝であり、そのやり方をわかっていない子が、自分だけの力で勉強に取り組むようになるためには、親が少し伴走しなければならないという主張だったのだ。

そう言われて、里美さんは目が覚めたそうだ。

「自分は親に勉強を教わったこともなかったですが、とりあえず成績は良かったんですよね。でも、それは中学高校の話ですから、ある程度大人です。将司はまだ9歳なんだってことを考えていなかったんだと思います。それなのに、私の方が『友達のあの子には負けられない!』って思っちゃって、将司を怒ることしかしませんでした。新入社員にただ『営業成績を伸ばせ!』って言っても、途方に暮れるだけですよね。やはり、そのためには、ある程度のノウハウを教え、丁寧に育てないと一人前の社員にはなれません。『そうだ! 将司は受験の“新人”なんだ!』って思ったら、すごく納得感があったんです」

それから、里美さんは毎日、将司君の横で一緒に問題を解くことにしたそうだ。時には教え、時には教えられという時間を確保し、成績で怒ることを一切やめたという。

「小5の夏前頃から、これをやり出したら、徐々に将司が『ママ、勉強って楽しいね』って言ってくれるようになりました。私も仕事終わりに勉強の時間を確保することは大変だったんですが、だんだんとこの時間が愛おしいものに変わっていきましたね。私の反省点は、中学受験参入時にもっとどういう世界なのかをリサーチしておくべきだったということに尽きます」

 中学受験は長丁場で、しかも「戦略ありき」の世界でもある。壁は小4だけではなく、次々と立ちはだかってくるものなのだが、その度に親は、試行錯誤を繰り返すことになるだろう。

 将司君はこの春、理系教育に定評のある難関中学に入学する予定だ。
(鳥居りんこ)

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