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伊藤忠によるデサントの敵対的TOB成立…バブル崩壊と株の持ち合い崩れによる歴史的必然

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2019年03月25日 21:11  Business Journal

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写真デサントの石本雅敏社長(2014年当時、写真:長田洋平/アフロスポーツ)
デサントの石本雅敏社長(2014年当時、写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 伊藤忠商事による、スポーツ用品大手のデサントに対するTOB(株式公開買い付け)が成立、伊藤忠のデサント株保有比率が30.44%から40%に上昇したことが、大々的に報じられている。積極的にメディアのインタビューにも応じ、伊藤忠の“不義”を非難していたデサント社の石本雅敏社長も白旗を上げ、社長を退任することが濃厚とのことだ。


 今回のTOBは、株を買われる側のデサントを“屈服”させるためのものであり、日本では異例の大企業同士による「敵対的TOB」が成立した形となった。TOBとは「Takeover Bid」の略で、株式の買い付け価格や取得希望の株数を公表して、株式を買い集めるものである。


 たとえば、株価2000円くらいのA社株式を、「株式60%を集めたいので、3000円で買う」と公表すると、当然、高値で売ろうとする株主や投資家がこれに応じる。多くの場合、企業買収で使用されるので、TOB=企業買収、乗っ取りの意味として用いられる。


「敵対的TOB」があるなら、「友好的TOB」もある。そして、そもそも日本では、TOB自体が少なかった。それがなぜなのかを考えていこう。


●戦前、TOBで大きくなった東急グループ


「日本ではTOB自体が少なかった」と先述したのだが、厳密にいえば、「戦後の日本では〜」と限定すべきであろう。換言するなら、戦前の日本ではTOB(というか、企業買収)は珍しいことではなかった。その代表的人物が五島慶太(ごとう・けいた)。東急グループの創業者である。この御仁は、買収、買収、また買収で事業を拡大していった。その強引な買収手法が強盗さながらだったので、「強盗慶太」とあだ名されたほどである。


 本業の私鉄では、京浜電気鉄道(現・京浜急行電鉄)と乗り合っていた東京地下鉄道(現・東京メトロ銀座線)が、五島の経営していた地下鉄と路線競合していたので、京浜電鉄ごと買収する。京王電気軌道(現・京王電鉄)傘下のバス会社が、五島の経営するバス会社と競合していたので、これまた京王電鉄ごと買収する。


 戦時下の1942年に五島は、東京急行電鉄に京浜電鉄、京王電鉄、小田原急行鉄道(現・小田急電鉄)の3社を吸収合併して「大東急」を形成。これが現在まで続けば、相互乗り入れが便利で運賃もお安くなったのだろうが、1948年に3社を分離してしまった(ちなみにこの時、京王電鉄の経営に不安を感じて、小田急の路線だった井の頭線を京王に譲渡させてもいる)。


東急グループの東急百貨店も買収でつくった。江戸時代以来続く名門呉服店・白木屋を買収して、東急の看板に掛け替えたものである。実は、当初、五島が買収しようとしていた百貨店は白木屋ではなく、三越(現・三越伊勢丹)だった。ところが、三井銀行(現・三井住友銀行)の事実上のトップ・池田成彬(いけだ・せいひん)が、五島を呼びつけて買収をやめさせたのである。


三越は、慶應OBの日比翁助(ひび・おうすけ)が三井銀行から三越に転じて経営の近代化に成功した、当時は慶應閥で有名な会社だった。三井銀行の池田は福沢諭吉の甥を義父に持つ慶應OBで、この日比と特に仲が良かったという。しかも、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)の事実上のトップ、加藤武男は池田の義弟だったから、池田は加藤にも五島を支援してはならないと手を回していた。当時の二大銀行に反対されては、さしもの五島も三越を諦めざるを得なかったという。


 そう、つまり企業買収は一時的に大金を要するから、銀行の協力が不可欠なのである。


●TOBしようにも、企業にカネがなかった高度経済成長期


 終戦直後、いわゆる戦後成金たちが上場企業の買収に成功したこともあったが、それらは比較的小規模の会社だった。


 そして1950年代半ばから日本が高度経済成長期に突入すると、企業はおそろしく巨大化した。たとえば、松下電器産業(現・パナソニック)の資本金は1950年に93万株だったものが、1960年には2億株。つまり10年間で215倍に膨れ上がった。


 創業者の松下幸之助は日本一の大金持ちといわれ、莫大な配当金をすべて増資につぎ込んだが、それでも会社の巨大化には追いつけず、彼の所有株式は45%から5%強まで激減してしまう。松下幸之助でも5%の株式しか持てないのだから、個人株主が買収するなんて、所詮ムリな話だったのである。


 では、大企業だったら買収できるかといえば、それも難しい。


 当時、高度経済成長がもたらした急成長に増資が追いつかず、企業はもっぱら銀行からカネを借りていた。都市銀行(現・メガバンク)はいうに及ばず、地方銀行なんかからも総動員して、借りて借りて借りまくっていた。


 だから当然、他社を買収しようと思えば、銀行に軍資金を借りにいかねばならない。たとえば、A社がB社を買収しようと考えて、C銀行に金を借りに行く。C銀行はA社にも金を貸しているが、B社にも貸していることが多い。なぜなら、そもそもどこの企業も、いろんな銀行相手に借金漬けの生活を送っているからだ。銀行からすれば当然、「買収するためのカネなんか貸せませんよ」ということになるわけである。


●TOBしようにも、市場に株が出回っていない


 そして、株式を買い占めようにも、そもそも株式市場に株式が出回っていなかったという事情もある。


1960年代中盤、日本はOECD(経済協力開発機構)に加盟して自由貿易主義国への仲間入りを果たした。そうなると、「資本の自由化」というわけで、それまで制限されていた外資系企業による日本企業の株式取得が容易になった。


日本企業は個人が買い占めるできる規模ではなくなった、そして買収するにも銀行が融資してくれない……というのは、あくまで日本でのお話。相手が外資系企業となれば、話は別である。


 外資系企業による買収を恐れた日本企業は、そこで防衛策として、「株式持ち合い」を実施した。親密な企業に株式を持ってもらって、市場で売買できる株式を圧倒的に少なくする作戦に出たのだ。外資系企業が株を買おうにも市場に出回っていない。株主(=株を持っている企業)を説得して株を譲ってもらおうにも、株を持ち合っている企業同士の関係を重視して応じてもらえない。


 ところが、1990年代にバブル経済が崩壊、株の「持ち合い崩れ」が起こると、俄然、企業買収する素地が整ってくるのである。


●バブル崩壊による「持ち合い崩れ」が転機に


「株式持ち合い」という言葉は、企業同士が互いに均等に株式を持ち合っているような印象を与えるが、実際は圧倒的に、銀行・生保が所有していた。


「株式持ち合い」の原理は、学生のカンパと同じである。学生がカンパを募ろうと思ったら、親友から1000円ずつ借りるより、そんなに親しくないけどお金は持っている親戚のおじさんやバイト先の店長に頼んだほうがよっぽど効率がいい。出してくれる金額の多寡と親密度とは、必ずしも比例しないのである。


 たとえば家電メーカーなら、プラスチックや板金、電線を購入しているメーカーに1000株を持ってもらうより、事業上の関係は希薄な生保に何十万株かを持ってもらったほうがいい。とうわけで結局、企業の大株主は銀行・生保ばかりになっていった。


 ところがバブルの崩壊で銀行・生保の経営が苦しくなって、所有株式を売却して益出しすると、代わりに大株主になったのが外資系の金融機関や投資ファンドなどである。彼らは日本の企業社会に義理なんかないので、A社から「御社が持っているB社の株を売ってくれ」と頼まれれば、「いくらで?」と応じてしまうのである。


 さらに時代がくだると資金調達の多様化が進んで、銀行ににらまれたからといって資金調達に支障をきたすような時代でもなくなった。外資系銀行ともなれば、企業買収を商売のひとつと考えているようなありさまである。事実、2005年にホリエモンこと堀江貴文がニッポン放送を買収しようとした際には、外資系金融機関が協力したらしい。


 会社を単なる職場としてではなく“運命共同体”と考えている日本では、カネの力に物をいわせてのTOBは、社会的にも評判が悪かった。しかし、今までTOBがまったくなかったわけではなく、事業売却や資本参加などで、売る側も買う側も合意した上で実施される「友好的TOB」は結構行われてきた。


今回、伊藤忠がデサントに対して行った「敵対的TOB」の動きは、TOBが市民権を得てきた時代だからこそ、「敵対的TOB」を仕掛けたところで一方的に悪者にされることはない……という見方があっての行動なのだろう。
(文=菊地浩之)


●菊地浩之(きくち・ひろゆき)
1963年、北海道札幌市に生まれる。小学6年生の時に「系図マニア」となり、勉強そっちのけで系図に没頭。1982年に國學院大學経済学部に進学、歴史系サークルに入り浸る。1986年に同大同学部を卒業、ソフトウェア会社に入社。2005年、『企業集団の形成と解体』で國學院大學から経済学博士号を授与される。著者に、『日本の15大財閥 現代企業のルーツをひもとく』(平凡社新書、2009年)、『徳川家臣団の謎』(角川選書、2016年)、『三井・三菱・住友・芙蓉・三和・一勧 日本の六大企業集団』(角川選書、2017年)など多数。


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