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Appleは「iPhoneの価値」をさらに高められるか 新サービス発表の狙い

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2019年03月26日 15:12  ITmedia PC USER

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ITmedia PC USER

写真うわさされていた動画定額サービスを「Apple TV+」の名で発表する米Appleのティム・クックCEO。サービスは2019年秋に開始予定
うわさされていた動画定額サービスを「Apple TV+」の名で発表する米Appleのティム・クックCEO。サービスは2019年秋に開始予定

 3月25日(現地時間)に米Apple本社の「Steve Jobs Theater」で行われた発表会は、表面的にみればApple製品を取り巻く多様なサービスの強化、あるいは新サービスの追加に他ならない。それぞれの内容については、Apple自身が発信しているWebページを見れば明らかだ。



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●性能でも機能でもない「体験の演出」



 いずれにも感銘を受ける部分はあるが、現地での取材を通じて感じたのは、それぞれのサービスが優れていることや、それぞれのジャンルに大きな投資をAppleが行っているということ、それにプライバシーを守っているという近年の主張だけではない。それらは最低限、Appleが守りながら事業を進めているルールであって目標ではない。



 では、Appleの目標とは何だろうか。



 それは、Appleが製品を通じて得られる体験を最高のものにするために、ハードウェアだけでなく、ハードウェアを取り巻くサービスの枠組みと、そこで提供されるコンテンツの質を引き上げることだ。



 発表されたサービスは、英語圏で開始されていたニュース配信サービス「Apple News」を強化し、300超の雑誌を定額で読めるようにした「Apple News+」、iPhoneの利用を前提とした次世代クレジットカード「Apple Card」、定額でゲームを遊べるようApple自身がゲームパブリッシャーとなる「Apple Arcade」、「Apple TV」のアプリ化とMac対応、それにハリウッドの一流クリエイターを起用して映画、テレビ番組、ドキュメンタリなどを制作・配信する「Apple TV+」となる。



 いずれも今後、Appleの重要な収益源になっていく可能性があるが、何よりも優先されているのは、iOSデバイスやMacに質の高いコンテンツや体験を提供することにある。



●古くて新しい「スペックではなく体験」を引き上げるという取り組み



 iPhoneのようなスマートフォンだけでの話ではなく、パソコンも含め、何らかのコンテンツを楽しむためのデバイスにとって重要なのは、スペックでも機能でもなく、そのハードウェアで得られるコンテンツの体験だ。



 このテーマは実に「古臭い」ものであるが、昔から一貫して言われ続けているにもかかわらず、定期的に浮上してくるテーマでもある。どんなジャンルの製品であれ、家庭で何らかのコンテンツを楽しむハードウェアでは繰り返されてきたテーマだ。



 例えば、どれほど注意深く調整し、心揺るがすような音質を実現したとしても、それを生かす音楽がなければ、オーディオ機器としての価値は高くない。映像機器も同じで、コンテンツの品位が向上することで、より高い能力のディスプレイやプロジェクターへのニーズが高まるが、ハードウェアばかりが先行しても消費者はついてこない。



 スマートフォンをはじめとする現代のデジタルデバイスは、その多くがインターネットに接続され、何らかのサービスを通じてその機能や価値を生み出している。猛烈にハードウェアが進化している中では「ハードウェアが進化すれば、おのずとユーザー体験の質が高まる」と思いがちだ。



 これはあながち間違いではない。パソコンというジャンルで考えてみても、プロセッサの性能が向上することこそが、パソコンの価値を高める最も効率的で、効果的な手段だと考えられていた。しかし現在、プロセッサの性能だけで価値を判断できないことは、皆さん自身がよくご存じのことだろう。



 iPhoneが2007年に生まれて以来、Andorid搭載のスマートフォンなども含め、機能や性能が向上することが、イコール顧客価値を高めることにつながっていたが、市場の成熟とともにハードウェアだけで大きく体験の質を高めることは難しくなってきている。



 一連の発表は、そうした市場環境を反映した上での取り組みだと受けとった。



●「キュレーション」と「コンテンツへの投資」で体験を引き上げる



 発表会を通してAppleが強調していたことが幾つかある。



 一つはこの1年、一貫して主張してきた「ユーザーのプライバシーを守りながら、パーソナライズされた情報・機能を提供する」という点だ。コンテンツの利用だけでなく、今回発表されたApple Card(あるいはApple Pay)など決済の利用履歴情報なども含め、完全に匿名化した上で、デバイスの中で機械学習することにより、ユーザーごとの嗜好(しこう)に合わせた動作をする。



 しかし、さらに強調していたのが、各ジャンルの専門家による「キュレーション」である。ネットの時代になりコンテンツはあふれるほど多く、個人では把握しきれないほどだ。そうした中で、質の高い情報やコンテンツを抜き出し、内容を把握しやすいように解説を加えた上で提供し、さらには嗜好性に合わせてオススメの順位を決める。



 嗜好性に合わせる部分は機械学習で行うが、そもそものコンテンツの選別や優先順位付けなどは「専門家」、すなわち人間が行うということだ。これは、Appleの担当者による画一化を招く可能性はあるものの、一定以上の質を保つためには必要なことでもあるだろう。



 また、彼らが言っているのは「キュレーション」である。元となるコンテンツは、クリエイター、あるいは記事であれば記者が作るものであり、多様な(しかし信頼できる)コンテンツ提供者を選ぶことで、思想の画一化は排除できる。



 いや、Appleが機器メーカーであり、ハードウェアの売り上げが最大の収益源であることを考えれば、そこは意図して思想を排除し、あくまでもデバイスを購入するユーザーの利益、選択の幅を提供するはずだ。



 この考え方は「iOS 12」でリニューアルされた「App Store」や「Apple Music」でもみられたものだが、それをさまざまなジャンルに適応させようとしている。



 例えば、App Storeに登録されているゲームアプリは30万本に上る。その中には無料のゲームもあれば、有料の買い切り型ゲーム、それに無料ダウンロードながらアプリ内課金で収益を上げるタイプのゲームもあり、多種多様なだけでなく「質」の面でも幅が広い。



 ゲームはあくまでも例だが、Appleが今回発表したサービスに関連したコンテンツは多く、ユーザーが把握できる範囲を超えた数になる。



 それらを整理してユーザーに見せた上で、さらにコンテンツそのものにもAppleが投資することで、コンテンツの質という部分に自ら関わる。その結果、自社デバイスの利用体験をコントロールしようとしているのだろう。



●「アプリを通じた価値」+「Appleが投資するApple機器だけの価値」



 Appleが、あくまでも「デバイスメーカー」としての役割に徹しようとしていることは、これだけ多くのサービスを発表した上でも揺るがない。



 Appleが複数の「サブスクリプション型サービス」を用意しているとうわさされたとき、iPhoneのグローバルでの需要が天井に達したため、収益源としてサービスへと向かい始めたのだと多くの人が考えた。筆者も全く同じだ。14億台のApple製デバイスがグローバルで使われているのだから、そこにApple Musicや「iCloud」のようなサービスをアドオンしていけば、おのずと収益は上がっていく。



 しかし一方でAppleの収益の柱はデバイスの販売であり、デバイスの魅力を高めることが企業価値を高める上で最も重要であることは言うまでもない。



 そこでAppleは従来のコンテンツサービスに「+」を加えることにしたのだろう。



 例えば、Apple TV向けのサービスは拡張され、Apple TVだけでなくApple TVアプリを通じて他のiOSデバイスやMac、さらにはSamsung、LG、ソニー、VIZIOのテレビ(Samsung以外はアップデートで対応)でも利用可能とした。



 もちろん改良を加えることは怠っておらず、App StoreやApple Musicと同じようなキュレーターによるレコメンドや、コンテンツの探しやすさなどを踏襲している。



 コンテンツ探しでは、Appleのデバイスで視聴できるさまざまな動画コンテンツを、サービス横断的に探し、試しに視聴し、気に入ったならば配信サービスに加入したり、コンテンツを購入したり、といった動線を最短距離て提供する。



 Appleは「AmazonプライムやHuluなど150を超えるストリーミングアプリケーションや、Canal+、Charter Spectrum、DIRECTV NOW、PlayStation Vueなどの有料テレビサービスからお勧めの番組や映画を提案します」と話しているが、つまり既存のコンテンツへの動線は、きっちりとApple側でも用意する。



 その上で、さらに「+」のコンテンツとして、Apple TV+を用意するというわけだ。



 この構造はApple News+でも変わらない。Apple News+で配信される読み放題の雑誌の中には、それぞれ独自のアプリや別の配信経路を持つ雑誌もあるが、Appleのアプリを通じることで読者は増加するだろう。



 アプリを通じたエコシステムに対して、自らコンテンツで他社競合するような機能・サービスを立ち上げるのではなく、あくまでも「+」要素を加える。



●「顧客価値とは何か」を再考するApple



 このように今回の発表は、「顧客価値とは何か」を再確認する場だった。誰もが知る著名な監督や俳優たちの華やかさに圧倒されがちだ。しかし、最も評価すべき部分はデバイスの進化速度が遅くなってきたとき、顧客価値を高めるためにコンテンツに目を向けたところだと思う。



 スマートフォンだけでなく、現代の機器はほとんどがインターネットと接続され、機能の面でもネットへと依存している。性能や機能ではなく、顧客が何を価値として感じるかを見直したとき、Appleはサービスやコンテンツの側もハードウェアと同様に質を高めていく必要があると判断したのだろう。



 ただし過去において、日本市場と英語圏ではサービスの質に違いがあったことは指摘しておかねばならない。



 例えば米国でのApple Musicは、キュレーターによるプレイリストの量も多いが、同じプレイリスト内の曲の入れ替え頻度も高く、メンテナンス頻度も高い。日本の場合、アニメソングなど一部、日本ならではのプレイリストはメンテナンス頻度が高いものの、それ以外は見劣りする。



 また、動画サービスは極めてドメスティックな要素が強いため、キュレーションを行おうにも米国ほどにはストリーミングサービスが充実していない実情もある。Apple TV+の価値は変わらないものの、NetflixやAmazonプライム・ビデオが日本をはじめドメスティックなコンテンツにも投資をしていることを考えれば、Appleにも同様の対応を求めたい。



 デバイスを購入してくれる顧客に対し、特別な価値を提供しようとするAppleの姿勢は大いに評価したいところだが、ゲームに関しては150を超える国と地域、映像サービスに関しては100を超える国と地域に向けてサービスされるというから、そこには日本も含まれることだろう。



 ならばこそ、また日本語という特殊な環境にあればこそ、Appleには端末シェアの高い日本の顧客に対して、最大限の顧客価値を提供する努力を望みたい。



[本田雅一,ITmedia]


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