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「体罰禁止」法制定の意義 外国では「虐待が着実に減少」、課題は?

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2019年03月29日 10:11  弁護士ドットコム

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「しつけのためだった」ーー。子どもに暴力を振るった末に死亡させた親たちは、ときにこのように述べることがある。では、法律で体罰を「禁止」と明示すれば、抑止力としてはたらくことになるのだろうか。


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毎日新聞(3月19日)などによると、政府が今国会に提出する閣議決定された児童虐待防止法などの改正案では、体罰の禁止を明記する。民法の「懲戒権」については「施行後2年をめどに検討を加え、必要な措置を講ずる」と規定したという。



子どもたちを守るために、どのような法制度が必要なのだろうか。体罰・虐待の問題に取り組んでいる森保道弁護士に聞いた。



●体罰を禁止する国では「体罰・虐待が減少」

ーーなぜ、体罰を法的に禁止する必要があるのでしょうか



「体罰は子どもの権利を侵害する行為ですし、科学的にも弊害が明らかになっています。2月3日に始まった体罰禁止を求める署名キャンペーンでは、相次ぐ虐待死を受け、2万2千人を超える賛同が集まっています(3月23日時点)。 



体罰を法的に禁止することについては、『子どもの権利条約』に基づいて設置された『国連子どもの権利委員会』などが批准国に繰り返し勧告しています。日本も批准国の1つです。WHO(世界保健機構)もエビデンスに基づく施策として提唱しています」



ーー体罰を禁止した国では、実際に虐待は減っているのでしょうか



「はい。体罰禁止国では体罰・虐待が着実に減少しています。





世界で最初(1979年)に体罰を禁止したスウェーデンでは、1960年代は体罰を用いた人の割合は9割以上でしたが、現在は1割以下になっています。親によって、17歳までの子どもが虐待死する数も減り、年間15人(1970年)から4人(2010年)となりました。



また、早期支援が実現して、親子分離措置も3分の1減ったことが報告されています。





2000年に体罰を禁止したドイツでは『強く殴られたことがある』と肯定した割合が30%(1992年)から3%(2002年)に減少しています。



また、子ども時代に『軽い』暴力を経験したという割合は58%(1992年)から36%に下がっています。







国際比較により、体罰容認率が低い国では、不適切な養育による子どもの死亡率が低いとされています。また、体罰禁止国の方が、大人が叩かずに子育てをするため、若者の暴力性が低いことなども報告されています」



ーー報道によると、政府の改正案には「親権者は児童のしつけに際して体罰を加えてはならない」という文言が盛り込まれたようですね



「大きな一歩だと思います。ただ、改正案には暴言などを広く明確に禁止する文言がなく、あらゆる場面での禁止になっていないという問題があります。



体罰を全面的に禁止している54カ国の大多数が体罰とともに品位を傷つける行為などを禁止しています。WHOやSDGs(持続可能な開発目標)も体罰に限定せず『暴力的な罰(violent punishment)』『心理的攻撃(Psychological aggression)』を問題にしています。



今国会で問題を積み残さないためにも、暴言などの精神的な暴力も広く禁じることを明確にした方がよいと考えます」



●「懲戒権」削除をめぐる議論も

ーー民法には、親の子どもに対する懲戒権が規定されています。懲戒権の削除をめぐる議論もあります



「民法820条は『親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う』と規定し、民法822条は『親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる』としています。



しかし、民法822条の『懲戒権』を削除しても、民法820条の『監護・教育権』に基づいてしつけはできますので不都合はありません。



懲戒権の規定が子どもを虐待する親の弁解に利用されたり、適切かつ迅速な子どもの保護を妨げたりするとも指摘されており、日本子ども虐待防止学会、日本弁護士連合会、日本ユニセフ協会なども削除を求めています」



●体罰の弊害や体罰にかわるポジティブな子育て方法の啓発を

ーー児童虐待防止のために必要なこととして、どのようなことがあるでしょうか



「まず、大規模な啓発です。



今年、国連子どもの権利委員会は、日本に『意識啓発キャンペーンを強化し、かつ積極的な、非暴力的なかつ参加型の形態の子育てならびにしつけおよび規律を推進する等の手段により、あらゆる現場で実際に体罰を解消するための措置を強化すること』を勧告しました。



体罰禁止国でも、大規模な啓発を継続的におこなった方が体罰・虐待減少の効果が大きいことが指摘されています。



必要なのは、体罰の弊害や体罰にかわるポジティブな子育て方法の啓発です。子どもの権利が保障され、子どもの成長発達に資する効果が実証された様々な方法があります。たとえば、ペアレントトレーニングやその入門編のペアレントプログラム、ポジティブな行動支援などです」



ーー体罰や虐待を受けた子どもや親へのケアも課題ですね



「研究が進み、子ども期の逆境的体験により、深刻な影響が出ることが分かっています。トラウマの基本をよく理解し対応するトラウマインフォームドケアやEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)、TF−CBT(トラウマフォーカスト認知行動療法)、スキーマ療法、MY TREEペアレンツプログラム(虐待親回復プログラム)など効果が実証された様々な心理的ケアがあります。親子ともにこのような専門的なケアを受けることができる体制の整備が急務です。



子どもの安心・安全を十分に確保しながら、ポジティブな子育て方法を学ぶプログラムや心理的ケアを取り入れた治療教育的アプローチとともに、修復的なアプローチ(司法においては「治療的司法」「修復的司法」)を導入することにより、子どもと親の関係を改善することが期待できます。



また、日弁連の意見書(2015年3月15日付)で指摘されている子どもの権利基本法の制定、独立した監視・救済機関の設置、統一的データの収集・分析、総合調整機関の設置も求められます。



特に、今回の法改正案で検討事項とされた子どもの意見表明権の保障は喫緊の課題です。子どもの声を代弁する子どもアドボカシー(権利擁護活動)の導入も進んでいけばと思います。



そもそも日本は子どもの施策に対する予算配分が低いという課題があります。児童虐待防止対策や貧困対策の大幅な拡充が必要ですし、抜本的には子どもと家庭全体に対する支援の大幅な拡充が求められていると考えます」



(弁護士ドットコムニュース)




【取材協力弁護士】
森 保道(もり・やすみち)弁護士
所属:日本弁護士連合会子どもの権利委員会、NPO法人子どもすこやかサポートネット、日本子ども虐待防止学会など

事務所名:森・石光法律事務所


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