スピッツ、連続テレビ小説『なつぞら』温かく包み込む主題歌 全編アニメーションOPとの相性を読む

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2019年04月01日 12:51  リアルサウンド

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 4月1日より、連続テレビ小説『なつぞら』(NHK総合)の放送が始まった。本作は、脚本家・大森寿美男によるオリジナル作品で、連続テレビ小説100作目にあたる。1946年初夏、広瀬すず演じるヒロイン・奥原なつは、両親を亡くし、酪農一家・柴田家に引き取られて北海道は十勝へ。やがてなつは、“絵が動く”漫画映画の魅力を知り、アニメーションの世界に人生をかけていくという物語だ。


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 この記念すべき100作目の朝ドラ主題歌が、スピッツの「優しいあの子」である。制作統括の磯智明氏は、十勝平野を目にした時を振り返り、「啓示を受けたように、スピッツのメロディが空から舞い降りてきたのです。本当に!」と、十勝の大自然とスピッツが結びついたことが、主題歌決定に繋がったというエピソードを語っている。


 スピッツといえば「チェリー」や「ロビンソン」という楽曲がまず浮かぶかもしれないが、自然や動物に関するものも多い。「渚」「トビウオ」「漣」「雪風」「鳥になって」「未来コオロギ」「甘ったれクリーチャー」など、挙げればきりがない。また、タイトルには表れずとも、人間を動物の一種としてとらえたような曲も。スピッツの楽曲が『なつぞら』の世界観にぴったりなことを予感し、期待に胸膨らませたファンも多かったのではないだろうか。


 今回の主題歌について、朝ドラの大ファンだという草野マサムネは、「ドラマタイトルが『なつぞら』なのに詞がかなり冬っぽい仕上がりになってます。」と語っている。その理由については、「お話をいただいてから何度か十勝を訪ねました。そこで感じたのは、季節が夏であっても、その夏に至るまでの長い冬を想わずにはいられないということ。『なつぞら』は厳しい冬を経て、みんなで待ちに待った夏の空、という解釈です。」と説明。優しく包み込んでくれるようで、よく聴くと悲しいことを歌っていたりする、そんなスピッツらしい解釈であろう。


 たしかに、オープニングで流れた部分の歌詞を抜粋すると、〈重い扉〉〈暗い道〉〈口にするたびに泣けるほど 憧れて砕かれて〉など、厳しい状況が歌われている。そこに、〈めげずに歩いたその先に 知らなかった世界〉〈切り取られることのない 丸い大空の色〉など希望を感じる言葉が続く。そして〈優しいあの子にも教えたい〉と結ばれるのだ。草野は「大好きだった『おしん』や『あまちゃん』のようにインストがいいのでは?」と考えた経緯もあるそうで、歌詞をつけるからにはより一層意味があるものとして書き上げられたのかもしれない。


 スピッツの音楽は、1つ1つはシンプルな日本語でも、全体の解釈は人によって分かれるという、絵画のような表現が魅力だ。この「優しいあの子」でも、詳しい情景は描かれず、聞き手の想像を掻き立ててくれる。期待通り、いやそれ以上に『なつぞら』にぴったりだった。


 また、今回のオープニングで注目、かつ楽曲の魅力を高めているのは、連続テレビ小説初の全編アニメーションという点である。スタジオジブリや『アルプスの少女ハイジ』を彷彿とさせる映像だ。それもそのはず、アニメーション監修を担当する舘野仁美氏は、1987年よりスタジオジブリに在籍し、『となりのトトロ』以降のジブリ作品の動画チェックを手がけた人物なのだ。さらに、アニメーション時代考証を担当する小田部羊一氏は、『パンダコパンダ』『アルプスの少女ハイジ』などでキャラクターデザイン・作画監督を務めた経歴を持つ。そして、このオープニングの監督・原画・キャラクターデザインは、アニメーターの刈谷仁美が手掛けている。彼女はなんと1996年生まれで、2017年度第6回新人アニメーター大賞受賞した、期待の新人である。


 スタジオジブリ作品や『ハイジ』といえば、芯の強い女の子が、自然の中でたくましく成長していくイメージだ。『なつぞら』の主人公・なつも、悲しみから希望を見つけ、大自然の中でたくましく育っていくというキャラクターで、共通するものがある。


 十勝の大自然×アニメーション×スピッツという組み合わせは、生まれるべくして生まれた、必然かつ最強の組み合わせと言えるかもしれない。


 戦争で両親を亡くすという悲しい状況を乗り越え、上京し、やがて夢を叶えていくなつの姿。そして、それを温かく包み込むスピッツの楽曲。毎朝私たちの心の中に、希望の風が吹きこんできそうだ。(深海アオミ)


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