『ひとりぼっちのソユーズ』七瀬夏扉氏の「アニメ化を断った話。」からの自省録

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2019年04月06日 16:01  おたぽる

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おたぽる

カクヨム「アニメ化を断った話。」より

 投稿サイト『カクヨム』に掲載された一本の掌編が、多くの文章書きの心を打っている。




 七瀬夏扉氏の「アニメ化を断った話。」が、それである。七瀬氏は2017年に『ひとりぼっちのソユーズ 君と月と恋、ときどき猫のお話』(富士見L文庫)でデビューした人物。そんな人物が出版後に味わった体験談を記した表題作は、文章の美味さもあってか、せつない共感を与えてくれる。こんな文章を書ける書き手の作品はどんなだろうかと、さっそく『ひとりぼっちのソユーズ 君と月と恋、ときどき猫のお話』を買おうとしたら、Amazonでは入荷待ちの状態【注:現在は在庫が復活】。きっと、同じように作品を読みたくなった人が多いのだろう。


 そんな作者の作品を読みたい欲求を与えてくれる「アニメ化を断った話。」は、簡単に言えばデビュー作があまり売れずに続編も諦めていた後に、編集者からアニメ化のオファーの話を聞かされて一年あまりの体験談。その間、期待に踊らされたり、編集者が多忙を理由に連絡がつかないなど無碍な扱いを繰り返された後に、まだ形にすらなっていないアニメ化の話を自分から断りをいれるまでが記されている。詳細は、ご一読を願うとして、多くの書き手が、この掌編へのコメントをSNSで寄せている。その理由は、通例、文章を書くことを生業としていれば一度や二度どころでもなく「自分もあった」話だからだろう。


 実にその通り、出版も文化産業とはいえ商売である以上、書き手との編集者との関係性はたいていは上手くはいかない。筆者も、長年にわたって信頼関係を築いて仕事をしている編集者もいる一方で、そうではない数のほうが多い。


 七瀬氏の文章でも編集者が「忙しくて原稿を読めていない」という一文が登場するが、「忙しい」は書き手に企画を断る時の常套句。筆者も幾度もその手を喰らったことがあるが、特に腹も立たない。経験を重ねれば、それが当たり前のことだと知るからである。それを繰り返していれば、犬も歩けば棒に当たる方式でいずれどこかで、気持ちの合致する編集者や出版社に出会えるだろう……筆者も含めて、大半の書き手はそう考えているだろう。そうでなければ、もう田舎に帰るか、出家するか、首をくくっているはずである。


 他業種の人に「出版業界っておかしくないですか?」といわれたことはあるが、判断が遅い・引き延ばす・そもそも返事をしないが、この業界ではなぜか常識なのだ。


 これまでも筆者は、さまざまな出版の企画を考えたり原稿を持ち込んだりしたものだが、形になったもの以外に、なっていないのも無数にある。その数だけ、編集者の対応も見ている。「私には編めません」とか明確に断ってくるのはレアケース。まだ正月明けなのに「7月まで忙しいんで対応できません」はまだマシ。だいたいが「すぐ連絡しますよ!」である。


 それも仕方がないことだ。出版業界の悪癖に加えて、筆者には編集者が気を遣って連絡をくれるような分際がない。そうだよ。だから、そんなことに一喜一憂せずに自分の信じた道で書くしかないんだよ。
(文=昼間 たかし)


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