女はうまい棒を天にかざし、太ももに叩きつけた! たった「9円」で捕まった万引き犯の顛末

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2019年04月13日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

Photo by yoppy from Flcker

 こんにちは、保安員の澄江です。

 私たち保安員が一番恐れるのは、誤認事故を引き起こすこと。その原因は、主に思い込みや現認不足によるもので、なかでも1点現認(1点だけしか盗む瞬間を確認できないこと)による声かけは、誤認事故の発生リスクが非常に高いと言われています。そのため、2点以上の現認を検挙条件とするクライアントも存在しており、「1点だけなら盗んでもいい」という理屈が成立してしまうような状況に、自分の存在意義を疑ったこともありました。しかし、私の仕事は、万引き犯を摘発すること。たとえ1点であっても窃盗ですし、棚取り、隠匿、未精算という犯行の一部始終を見てしまえば、どうしても声をかけたくなってしまうのです。今回は、一点検挙禁止の店舗で遭遇したセコイ万引き犯の思い出を語りたいと思います。

 当日の勤務は、アジア系外国人が多く居住する関東郊外の地域に位置するディスカウントストアA。開店時間である午前9時に出勤して、事務所に上番(勤務開始の報告をすること)の連絡を入れると、電話口に出た部長さんが重く疲れ果てた様子で言いました。

「先週、Aさんの別店舗で誤認事故が連続発生してしまい、現在、契約存続の危機にあります。今日からしばらくの間、一点検挙は厳禁です。なるべく抑止に励んでください」
「はあ?」

 不思議なことに、誤認事故は連鎖するもので、一度起きると過剰なほどに警戒されます。指令が出てしまえば従うほかなく、それに反して誤認事故を引き起こすような事態を招けば、この上ない窮地に陥ることは言うまでもありません。本末転倒の指令を受けた私は、謝罪に尽くす部長さんの姿を思い浮かべながら、少し嫌な気分で巡回を始めました。

 大過なく前半の勤務を終えて、昼食休憩から現場に戻ると、首元がよれよれになったピンクのトレーナーに、ヘップサンダルを履いた20代後半に見える女が、お店に入ってくるのが見えました。ホームレスには見えないものの、どこか貧しげで、飢えたような雰囲気が気になります。何をしにきたのか確認するために、その行動を注視すると、女は菓子売場に設置されたチョコレートの試食コーナーの前で立ち止まりました。この店は、自社ブランドの商品を販売しているために試食提供が多く、それを目当てに来店する人たちが数多く存在しています。当日は、チョコレートを始め、ハム、チーズ、ウインナー、さつま揚げ、おせんべい、オレンジなどの試食が提供されており、お昼時にもたくさんの人たちが試食をするだけのために来店していました。各コーナーに、一人一つと明記してあるにもかかわらず大量に頬張る人も散見され、その厚かましさに呆れてしまうことも多いです。

(また、試食ちゃんかしら?)

 そう思いつつ行動を見守っていると、黒いスウェットパンツのポケットからレジ袋を取り出した女は、持ち手の片方だけを持つかたちで開口部を広げました。そして、試食のチョコレートが載せられたトレーを持ち上げると、そこにある全てをレジ袋の中に吸い込ませてしまいます。悔しいことに、無償提供される試食品を隠匿しただけでは、捕捉することはできません。しかし、このようにマナーやモラルのない人は、何をするかわからないのも事実です。そのまま目を離さないでいると、全ての試食品コーナーに立ち寄った女は、店内に設置されたビニールを駆使して試食品を隠して回りました。途中、品出しをしていた大地康雄さんに似た強面の副店長さんも、女の行動に気付いたようで、“なんとかしろよ”という感じの視線を私に送ってきています。試食巡りを終えて、菓子売場に戻ってきた女の様子を棚の陰から見守っていると、向こう側の棚の陰から同じように女の様子を覗き見ている副店長さんの姿が見えました。

(どうやって追い出してやろう)

 棚の隙間から垣間見える副店長さんの目からは、そんな気持ちが強く伝わってきます。それからまもなく、おもむろに後方を振り返った女は、1本のうまい棒を右手に取りました。そのフレーバーは、めんたい味。個人的に好きな味の一つなので、紫色のパッケージをみて、すぐにわかったのです。すると、警戒の目で周囲の様子を窺い、それを掲げるような形で天にかざした女は、それを太ももに叩きつけるようにして開封しました。

 パン!

 場にそぐわぬ破裂音を店内に鳴り響かせた女は、その場でうまい棒を一口齧ると、出口に向かって歩き始めます。目を三角にした副店長さんも、それに合わせて動きだしました。このまま店外まで出られてしまえば、声をかけるほかない状況ですが、一点検挙禁止の指令が脳裏によぎります。副店長さんに見守られる中、逃げ場を失くした私は、店の外に出た女を呼び止めました。

「あの、お客様? お店の者ですが、そちらの代金を……」
「アナタ、ナニ!? ワタシ、カンケイナイヨ!」

 口の周りをめんたい味と同じオレンジ色に染めた女は、外国人らしいイントネーションの日本語で答えると、証拠を隠滅するようにうまい棒に齧りつき、追いすがる私の制止を振り切るように歩き続けます。見かねた副店長が、うまい棒を握る女の手を取ると、大声で怒鳴りました。

「これは、タダじゃない! お金、払ってください!」
「チガウ! ヤメテ!」

 もがく女の袖口を、二手に分かれて引っ張る形で事務所に連行したものの、言葉の壁もあって意思の疎通はかないません。被害品は、売価9円のうまい棒のみですが、警察に引き渡すほかない状況です。通報を受けて駆けつけた駅前交番の警察官は、被害品である食べかけのうまい棒を見て呆れた顔をして見せましたが、女の身分確認を終えると表情を変えました。

「この女、偽造した外国人登録証を持っていたので、そっちで現行犯逮捕します」
「警察署には行かなくて大丈夫ですか?」
「ええ、逮捕しても、すぐ入管に送られて、強制退去になるでしょう。今日は、これで大丈夫です。ほら、行くよ!」

 たった9円のうまい棒(めんたい味)を食べてしまったことで不法滞在が発覚し、国外退去となるだろう彼女は、その場で手錠を嵌められ、腰縄も巻かれて連行されていきました。連行時、この上なく恨めしそうな顔で私たちを睨んでいましたが、しばらくは日本に入ってこれないと警察官に聞き、安堵したことを覚えています。

 翌日、司令に反して一点検挙に至った事実を部長に報告すると、すでに興奮した様子の副店長さんから話を聞いていたらしく、今回ばかりは目を瞑ると言われました。この仕事は、結果が全てなのかもしれません。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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