ねごと、最初で最後のベスト盤は“進化のドキュメント”に 収録曲からバンドの歩みを辿る

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2019年04月17日 11:41  リアルサウンド

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 2008年に開催された第1回『閃光ライオット』で審査員特別賞を受賞し、2010年に『Hello! “Z”』でメジャーデビューして以降5枚のアルバムを発表。昨年12月に、惜しまれつつも今年7月20日での解散を発表したねごと。彼女たちのラストアルバム『NEGOTO BEST』が、4月24日にリリースされる。この作品は、結成から12年間にわたって活動してきたバンドのキャリアにおいて初のベスト盤。つまり、最初で最後のベストアルバムとなる。


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 まず印象的なのは、2枚組全35曲を通してこれまでの歴史が時系列順に並べられ、アルバム自体がこれまでの進化のドキュメントになっていること。ディスク1にはメジャーデビューミニアルバムとなった2010年のデビューミニアルバム『Hello! “Z”』の収録曲を皮切りに、2011年の1st アルバム『ex Negoto』、2013年の2ndアルバム『5』の楽曲を収録。一方ディスク2には2015年の3作目『VISION』から2017年の4作目『ETERNALBEAT』、そして同じく2017年の5作目『SOAK』までの楽曲が収録されている。同時にディスク1とディスク2の最後にはそれぞれ未発表曲と新曲が収められ、2019年までのバンドの姿がまとめられているのが特徴的だ。ここでは収録曲を通して、改めてその歩みを振り返ってみたい。


 まず、2010年の『Hello! “Z”』と2011年の『ex Negoto』の収録曲には、その後様々な変化を経験するバンドの基盤となる魅力が詰まっている。Galileo Galilei(現在メンバーはBird Bear Hare and Fishとして活動中)やBrian The Sunも出場した第1回の『閃光ライオット』で審査員特別賞を獲得した4人は、この当時はまだ学生。しかし、楽曲の完成度はこの時点ですでに高く、フレーズのループを生かしたダンスミュージックの手法とインディロックやオルタナからの影響とを絶妙な形で融合させている。中でも『閃光ライオット』でも披露していた初期の代表曲「ループ」は、Nirvanaを筆頭にしたグランジ勢にも通じるヒリヒリとしたベースラインからはじまった楽曲が、サビに向けて一気にポップさやスケールを増していくキラーチューン。そうして生まれる高揚感は、以降もバンドの人気を支える大きな魅力になっていった。


 続く2013年の2ndアルバム『5』の収録曲は、そうした1作目で追求した4人の個性を、よりポップミュージックのど真ん中に連れ出していくようなものになっている。「greatwall」や「トレモロ」「Lightdentity」など、この時期の楽曲はどれも遠い場所に手を伸ばしていくような熱量が詰まっていて、「Lightdentity」以降はメンバー全員が作詞にかかわる機会も増加するなど、制作体制も初期の頃と比べて変化していった。中でも印象的だったのは疾走感溢れるギターストロークからサビでさらにギアを上げていく「sharp ♯」。胸の鼓動を表現するようなベースとドラム、メロディと対になって耳に残るギターフレーズ、そしてサビでより自由に音階を踏み越えていくメロディが生む“より広い世界に飛び出していくような雰囲気”に、いちリスナーとして興奮したことを今でも鮮明に覚えている。ディスク1に収められているのは、そうしたねごとの核の部分が詰まった楽曲の数々だ。


 その内容に寄り添うように、ディスク1の最後に収録されているのは、バンドが活動初期に雨の日限定で披露していた未発表曲として知られる「雨」。耽美なギターノイズが印象的なこの曲は、音楽的にはMy Bloody Valentineを筆頭にしたシューゲイザーの音響美や、クラフトワーク〜クラウトロックを融合させたThe Horrorsの2009年作『Primary Colours』辺りに近く、バンドサウンドの中で様々な実験を繰り広げた初期の姿が伝わってくる。バンドとしての地盤を固めながらも様々な実験を続けたことが、以降の活動にも直結していったということも、今こそはっきりと感じられるのではないだろうか。


 そして、続くディスク2に収められているのは、ねごとがバンドという枠組みを越えて、新たな世界へと飛び出していく様子だ。まず、2015年の『VISION』の楽曲では、メンバーの演奏力が格段に上がってテクニカルなフレーズが増えていて、横ノリの「黄昏のラプソディ」や、変拍子の「透明な魚」などリズムパターンも多彩になっている。ポップでキャッチーなだけでなはない深みが表現された楽曲もあり、様々な試行錯誤が感じられる作品になっている。そして、その先でバンドが大きな変化を手にしたのが、2017年2月にリリースされた4作目『ETERNALBEAT』だった。直前にリリースされた『アシンメトリ e.p.』で中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)と益子樹(ROVO)をプロデューサーに迎えてエレクトロビートを大々的に導入した4人は、タイトル曲の「ETERNALBEAT」などを筆頭にその魅力をアルバム全編において追求。以前からねごとの楽曲でプログラミングなどを担当していた沙田瑞紀(Gt)のコンポーザーとしての魅力が前面に出た作品にもなっていた。


 そしてオリジナルアルバムとしては最終作となった2017年12月の『SOAK』では、『ETERNALBEAT』のEDM/エレクトロ路線を推し進めながらも、そこにアンビエントやエレクトロニカ、ドラムンベース、モダンR&Bやヒップホップ、ファンク、AOR、そして結成当初から追求してきたバンドサウンドなど、ありとあらゆる要素を融合させて、ねごとの様々な表情をひとつにしている。その姿は前作以上に“バンド”という枠にとどまるものではなく、“この曲にはどんな音が合うのか/この曲に必要なのはどんな音なのか”を純粋に追求していくような魅力が前作以上に増加しているような雰囲気で、その結果、より一層自分たちのイメージを飛び越えて嬉々として冒険に乗り出すような姿が収められていた。「DANCER IN THE HANABIRA」や「WORLDEND」「サタデーナイト」「水中都市」を筆頭に、楽曲のバリエーションがますます豊かになっていたことも印象的だった。


 とはいえ、今回のベスト盤で最も印象的なのは、2枚組のラストに収録された新曲「LAST SCENE」だろう。『アシンメトリ e.p.』以降追求してきた四つ打ちのEDMサウンドを基調にしつつ、歌詞では〈この先でまた会えるように/振り返らずに駆け抜けて/変わりゆく夜に後悔はない/この気持ちなんだ/忘れないで行こうよ〉と、これまでの歩みをすべて抱えながら、最後まで前を向いて走り切ることが歌われている。そして、35曲すべてを通して聴いてみたとき、この気持ちこそがねごとを突き動かしてきた本当の核だったのだと感じるリスナーは、自分だけではないだろう。


 この『NEGOTO BEST』には、キャリアを通して歩みを止めることなく進化を続けたバンドの過去と現在が詰まっている。バンドのラストツアーは5月28日から7月20日まで。その最後の瞬間まで、ねごとの歩みはまだまだ加速していきそうな雰囲気だ。(杉山仁)


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  • インディーズ時代、佐倉のライブハウスで拝見しました。
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