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便利さは麻薬のようなもの Amazonに生活の80%を捕捉される世界の危険性

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2019年04月18日 16:00  AERA dot.

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AERA dot.

写真神奈川県川崎市にあるAmazonの物流倉庫。「商品棚」を運ぶ自走式ロボットが導入されている (c)朝日新聞社
神奈川県川崎市にあるAmazonの物流倉庫。「商品棚」を運ぶ自走式ロボットが導入されている (c)朝日新聞社
 Amazonは時価総額1兆ドル(110兆円)に史上最速で到達した企業だ。1994年に創業してほぼ四半世紀で、それを達成している。

 しかし、現時点でAmazonがその国の言語でサイトを運営している国は20カ国に満たない。アジアでは新たにベトナムが加わりそうだが、現時点では日本と中国のみである。

【江上隆夫さんの写真はこちら】

 つまり、Amazonは、まだ膨大な成長余地を持っているのだ。アメーバのようにいろいろなものを飲み込み、さらには無数のサービスを展開し、金融への進出も可能性として抱えるAmazonは、いったいどこに向かうのか。

 ビジョンやコンセプトなどに詳しく、『THE VISION――あの企業が世界で急成長を遂げる理由』(朝日新聞出版)の著者でもある、ブランド戦略コンサルタントの江上隆夫さんにビジョン企業・Amazonの近未来の行き先について寄稿していただいた。

*  *  *
■2億種類の商品を持っているお店Amazon 

 創業以来、自分たちが描いたビジョンに向けて、まっしぐらに進んでいるといった意味ではAmazonは世界有数ではないかと思います。21世紀的企業としてはすこぶるつきの優等生です。

 ここでは、彼らのビジョン「ジ・エブリシング・ストア(何でも買える店)」を、彼らが徹底的に推し進めると、どのような世界が出現するのかを見ていきたいと思います。

 Amazonの2018年総売上は2328億ドル(日本円110円換算で25兆6千億円)です。これはイオン、セブン&アイ・ホーディングス、ファーストリテイリング、ヤマダ電機、三越伊勢丹ホールディングズ、高島屋などがランクインしている、日本の小売業上位10社の合計額よりも大きい。この「ジ・エブリシング・ストア」が、いかに短期間で巨大化しているかが分かります。

 Amazonジャパンが取り扱う商品は、その数、約2億種です。2億種類の商品を取り扱うお店。無印良品の全商品点数が7000点台なので、その品種の膨大さにはめまいがします。だからこそ、なのですが、いったん使い慣れると人はAmazonに依存してしまいます。

■人はクリックしながら「時間」も買っている

 私の2018年のAmazonへの注文件数は227件。70〜80%は書籍だと思いますが、それ以外の物品もよく買います。書籍以外で買うのは、日用品か、どこに売っているのか分からない品々です。

 日用品の代表は、プリンターのインクです。ほぼAmazon以外では買わない。「どこに売っているのか分からないもの」では「小型マイクのマイク用風防スポンジ」「マイクボルト用のアダプター」「折りたためるステッキチェアー」「電磁波測定器」などがあります。

 繰り返しAmazonで購入していて思うのは、私は「品物を買う」と同時に「時間を買っている」ということです。

 たとえば必要なときは簡易的なイスに変わる「折りたためるステッキチェアー」。これは腰の悪い母が買い物などで外出したときに必要だと購入しましたが、リアル店舗では、一体どこに売っているのかさえ見当がつきません。ましてやより良いものを買いたい、安く買いたい、と思っているときに、そのすべてを自宅に居ながらクリックで済ませられるAmazonは、便利この上なく感じてしまいます。

 実店舗で購入しようと思ったら、最低でも3、4時間を費やし、比較も限定され、そのお店にあるものを購入するでしょう。そして、やや不便な思いとともに、そのステッキチェアーを持ち帰るはずです。忙しい現代人にとって、こうした時間のロスはばかにできません。その累積を時給換算するとAmazonは、かなり安いと感じます。

■Amazonでの購入体験が奪っているのは「偶然の体験」

 では逆に、Amazonの購入体験のデメリットは何でしょう?

 Amazonは書籍を買うとき、必ずリコメンド機能で「よく一緒に購入されている商品」「おすすめ商品と人気商品」「この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています」という3つの形で、他の書籍を提示します。

 これはAmazon側から見るとクロスセル(関連する商品やサービスを販売すること)をはかっているのですが、私たち購入者側から見ると、偶然の出会いを仕組み化していると言えます。しかし、Amazonは、その偶然の出会いの幅がかなり狭い。ビジネス書をメインに買う私が、漫画本やタレント本、主婦向けの本に出合う可能性は少なくなります。

 よく語られていることですが、仕事に追われて時間が無い中で、それでも書店に行くと時間を忘れるほど楽しいのは、リコメンド機能では絶対に出合わない類の書籍に、次々に出合えることにあります。

 リアル店舗は、その店舗内の体験に限らず、店舗を訪れる道のりにも「偶然の体験」があります。そして、私たちは経験的にそれが生活感覚的な豊かさや面白さ、体験や感覚の広がりをもたらしてくれることを知っています。

 Amazonに伍してリアル店舗が生き残っていくには、この「偶然」つまり意図せぬ出会いや体験をどのように設計できるかが鍵になるのではないでしょうか。

■超便利な世界は望ましい未来なのか?

 さて、超便利なAmazon的世界が、本当に望ましいものなのかは別問題です。

 私は『THE VISION』の中で以下のように書きました。

「たぶん、私たちが水道を意識しないで使っているように、今後、Amazonは世界中で『生活インフラ』として、ほぼ意識しないような存在へと進化していくような気がします。それが良いことなのか悪いことかは別にして」

 Amazonは、電気、ガス、水道のようにさらに「生活インフラ化」するでしょう。便利さとは麻薬のようなもので、後戻りがなかなかできません。

 AmazonやApple、Googleなどは、どこまで私たちの生活の深く入り込むのでしょうか。それは、これらの企業にわれわれ個々人のデータをどこまで譲り渡すのかにかかっています。お隣の中国ではセサミ・クレジット(胡麻信用)といって、SNSでの言動やレンタサイクルの貸し借りなど、生活行動のあらゆるところから信用評価のデータを取ることが始まっています。

 それはデータ計測されない、追跡&捕捉されない権利を手放すイメージです。その代わりに信用情報と便利に生活する権利が手に入るのです。現状の程度であれば、個人的にはデータ捕捉にそれほど抵抗感はありません。しかし、自分の行動の80%以上が捕捉されるとなれば、かなり抵抗感が出てくるのではないでしょうか。

 少なくとも私には、個人のあらゆることがデータとして補足される世界には抵抗があります。また、Amazonという、単純なたったひとつのITインフラに沿って、自分の生活や人生が依存することへの違和感があります。

 自然界の極端な多様性は、動植物の生き残り戦略のひとつです。つまり全球凍結や隕石衝突など、地球環境が何度も激変する中、生命を多様に保つことで、その環境への適性や耐性を持つ生命が生き延び、生命を絶やさずにつなげることができたわけです。

 個人的に経済の分野でも同じような原理がはたらくと考えます。したがってAmazon一極集中は短期的には巨大な便利さをもたらすでしょうが、長期的には日常や経済に根本的な脆弱性を抱えることになると懸念しています。

 GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の、さまざまな権利集中への批判が起きています。「以前のGoogle」のように、邪悪にならない高い倫理性を持つことと、企業を暴走させない枠組みが早晩必要になってくるのではないでしょうか。

 このように考えた時、Amazonには、新たな「公共の視点」をもつビジョンが必要になってくるのではないかと私は考えます。

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