《視察件数2年連続1位》塩漬け町有地を“稼げるインフラ”に変えたスゴ腕経営者

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2019年04月18日 17:00  週刊女性PRIME

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オガールは、東京ドーム2個分の敷地に広がる。天気のいい日には親子連れでいっぱいに

 地方衰退が叫ばれて久しい。少子高齢化が加速するなか、人口減少が地域経済の縮小を呼び、さらなる人口減少につながるという負のスパイラルから抜け出せない。だが一方で、知恵と工夫を凝らし、特色や魅力を活かして「元気な地方」に変えた人たちもいる。そんな頑張る地方の立役者に会いに行ってきた。

『オガールプロジェクト』で起死回生

「本来、われわれのような地方の建設会社は、行政からの仕事をもらって成り立つのですが、町は税収が減って公共事業をやらなくなった。であれば、金のない行政に仕事を作ってあげたらどうなのか。そういう逆の発想をしたんです」

 そう語るのは、公民連携のモデルとして知られる岩手県・紫波町の「オガールプロジェクト」の仕掛け人、岡崎正信さんだ。

 岩手県中部にある紫波町は、食料自給率170%という農業が盛んな土地。隣接する盛岡市のベッドタウンとしても発展してきた。

 一方、高齢化や財政難という多くの地方に共通する課題も。そこで起死回生の策として仕掛けたのが、このプロジェクトだった。

 オガールとは、フランス語で「駅」を意味する「gare」(ガール)と、岩手の方言で「成長」を意味する「おがる」を合わせて名づけられた造語だ。

 '12年にオープンした『オガールプラザ』には、住民の憩いのスペースとなっている図書館のほか、地元産の野菜や加工品が多数そろうマルシェ(市場)などが並ぶ。『オガールセンター』にある『ザ・ベイカー』は、地産地消のベーカリーとして人気。

 ほかにも、日本初のバレーボール専用体育館や宿泊施設を備えた『オガールベース』をはじめ、運動場もあればサッカー場もある。クリニックや子育て支援施設、紫波町庁舎までそろう。

 これらの施設の出現によって、人口わずか3万3800人の町に、いまや年間90万人が訪れるようになった。

開発なんて誰も信用しなかった

 10・7ヘクタールにおよぶ敷地は、すべて町有地。もとは町が購入して10年の間、一向に開発が進まず、日本一、費用のかかる「雪捨て場」と揶揄されていた場所だった。

 この「塩漬け」された土地を、人々を呼び寄せるエリアに導いたのは、「公民連携」という手法だった。

 岡崎さんたちは、まず入居する優良テナントを決めて、建物の規模や建設費用を算出。こうすることで無駄を省き、コストカットを図った。

 その後、建てられた公共施設部分を紫波町に売却。それ以外は、東北銀行や政府系金融機関からの融資でまかなった。こうして補助金に極力頼らない町づくりを実現させたのだ。従来の公共事業とまったく異なる「公民連携」の取り組みは、一躍脚光を浴びた。

 岡崎さんが言う。

「このまま空き地を持ち続けていると、周辺の不動産価値も下がってしまう。これはものすごく恐ろしいリスク。そのうえ人口が減り、1人当たりが納める税収も減っていくと、さらに下落し続けることになります。

 そのため、まずは私たち民間と町とで、このままではどうなるかというリスクと、開発後のリターンについて洗い出した。それから、マスタープランはわれわれが案を出すので、行政でインフラ整備を担ってほしいと伝えました

 民間である岡崎さんたちは宣伝や集客を担当。金融機関から資金調達して開発を進めた。そのリスクを負うかわりに収益を得て、納税すれば、町の税収を増やすこともできる。

「土地が塩漬けされた10年間、みんな疑心暗鬼でした。開発なんて誰も信用しなかった。新聞には“黒船”とか書かれ、町民からは“変なものがやってきたな”とさんざん言われましたよ」

 オガールプラザの中核には紫波町図書館がある。岡崎さんたちプロジェクトチームは発想を転換し、図書館を単なる公共施設ではなく、「大きな集客施設」と位置づけた。

「年間で10万人以上は訪れるという仮説を立て、テナントを募集したのです。図書館は無償で開放しつつ、そこを訪れる人たちに、カフェやクリニック、生鮮食品の販売をする民間テナントで消費してもらう。そこから家賃や管理費を集めて稼ごうと考えたわけです」

 こうして図書館は「稼げるインフラ」となった。町民にとっては、勉強やおしゃべりをする憩いの場でもある。いまや年間利用者は当初の予想を大きく超えて30万人を突破した。

「紫波は農業従事者が多いので、図書館内の『農業支援サービス』コーナーは充実しています。勉強会やトークショーなどのイベントも盛んで、たくさんの人が集まります」

 そう工藤巧館長は言う。

街づくりに“成功”はない

 オガールプロジェクトを率いた岡崎さんは紫波町の出身だ。大学卒業後、特殊法人『地域振興整備公団』(現・都市再生機構)に就職。建設省に出向していたが、建設会社を営んでいた父が亡くなり、母の願いもあって29歳で故郷に戻り会社を継いだ。帰郷してからも、週末を利用して東洋大学大学院で公民連携を学んだ。いわば街づくりのエキスパートだ。

 '09年2月、紫波町長からのオファーで岡崎さんは町の経営品質会議の委員に就任。ここからプロジェクトが本格始動した。

「僕が信じているのはマーケット(市場)だけ。それがいちばんの通信簿です。オガールでホテルをやると言ったときも“こんな場所でホテル事業なんて当たらない”と言われた。でも、稼働率は80%から90%。盛岡市に仕事で来たビジネスマンが使っています」

 市内から車で20〜30分、朝食付きで税込み6000円とあって好評だ。

「盛岡にも、そのくらいの料金のビジネスホテルはありますが、夜の食事代は高いし駐車場代がかかる。ここなら駐車場代はタダでコンビニもあり、居酒屋も3件ある。盛岡に泊まると現地事務所の人に飲みに誘われることもありますよね。そういう仕事の延長を嫌う人も増えていますから

 週末はビジネスマンの集客は下がるのだが、バレーボールの合宿が入る。

「だから、これは合宿ビジネスとビジネスホテルを融合させた業態なんです」

 いまや「地方創生の星」として称賛を集める紫波町。自治体職員・議員による視察件数は'17年、'18年と2年連続で全国1位を記録したほどだ。しかし岡崎さんは、「街づくりに成功なんてない」と言ってはばからない。

「例えばディズニーランドも、いま5万人が来ているからといって、1年後にも5万人が来るという保証はない。何が起こるかわかりませんから。

 日本の街づくりで間違っているのは、成功という得体の知れない評価基準で語っていること。街が完成してからが本当のスタート。だからオガールは、今のところうまくいっているという表現が正しいんです。まったく安心していません

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