“麻薬取締部”題材に、バトル漫画を彷彿とさせる恋愛ゲーム!? 『スタンド マイヒーローズ』の秀逸なシナリオに迫る

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2019年04月19日 17:11  リアルサウンド

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 「メディアミックス」とは、ゲーム/アニメ/小説/マンガ業界において、魅力的かつ危険な言葉である。成功すればデカいが、メディアの垣根を超えての連携は至難の業。大々的に「メディアミックス展開します!」とブチ上げて、人気が追い付かなかったり、いつまで経っても出るはずのものが出なかったりして、グダグダになっていったタイトルが何本あっただろうか? 例えば――いや、ヤバい頃のマイク・タイソンじゃないので、無暗に角を立てるのはやめておこう。


 ともかくメディアミックスは難しい試みであるが、チャレンジャーは絶えない。むしろドンドン増えており、世はまさに大メディアミックス時代と言った感じだ。今この時点でもメディアミックスありきの企画が乱立している。


(C)coly
 そんな中で、驚くほど実直に段階を踏んで、メディアミックスに至ったタイトルが存在する。それこそが、今、私が最もシナリオの力を感じるタイトル『スタンド マイヒーローズ』である。通称『スタマイ』で知られる本作は、イケメンが次々と出てくる女性向け恋愛ゲーム、いわゆる乙女ゲーである。ここで男性読者の多くは、自分には無関係のゲームだと思ったかもしれない。しかし、公式サイトの「ストーリー」で表示される一文を読めば、ちょっと興味が湧いてくるはずだ。というわけで、そのまま抜粋させて頂く。


「(前略)薬物が効かないという特異体質を持ったアナタは、厚生労働省麻薬取締部で働くことに」


 サラっと書いてあるが、主人公の設定が『ヤングジャンプ』で連載していた『嘘喰い』に出てくる人みたいである。この掴みの設定からも分かるように、本作の最大の特徴は題材がマトリ=麻薬取締部であること。そんなデンジャラスな世界観であるから、当然、登場するキャラクターもマトリの同僚や刑事、情報屋に謎の組織などなど、デンジャラスな方々である。メインシナリオはそんなデンジャラスなイケメンさん達を、主人公が仲間に勧誘していく物語だ。


 このメインシナリオはキャラクター紹介的な側面、つまり「メインシナリオ中で気になったキャラがいたら、キャラと恋愛するシナリオを見てね。出来れば推してね」という位置づけであり、キャラに興味を惹く為のパンチが利いたシーンがバンバン出てくる。割と早い段階で、面白半分で暴力団同士を抗争させて楽しむ人、灰皿で人の頭をカチ割ろうとする人、「この人、国とケンカしてるから」と紹介される人など、気になる人がドンドン出てきて、そりゃ攻略……と言うか、詳しい話も聞きたくなるというもの。他にも「清々しいくらいチンピラなチンピラが出てくる」「主人公がヤクザに拉致された際、身分が知られるとマズいと判断、とっさに自分はヤクザ側だと演技をする強かさを併せ持っている」「オレ様キャラの塩梅が絶妙」など、見どころは多い。


 もっとも、ドラッグ/犯罪を題材にしつつも、映画で言うところの『ボーダーライン』(2015年)のような悲惨な方向には行かず、メインシナリオの手触りは海外ドラマや、あるいは “強くてカッコいいキャラ”が次々と出てくるせいか、それこそ『嘘喰い』や『グラップラー刃牙』のようなバトル漫画を彷彿とさせる。もちろん、ここまで物騒な部分ばかりを取り上げたが、本当の意味での“メイン”である恋愛ルートもキャラを丁寧に掘り下げていて好印象である。キャラクターごとに重い話から軽い話まで、幅も広くて楽しい。


 そして本作のパズルゲームとしての側面も見逃せない。このゲームの中でパズルは「キャラクターとの会話」という位置づけになっている。例えば、あるキャラクターから「お前には協力しない」と言われた直後にパズルゲームが始まり、無事にクリアすると「話を聞いてやろう」となるのだ。なので(脳内補完になるが)「どうだ! 俺の交渉術で、ほだしてやったぞ!」という妙な達成感がある。操作性もよく、何よりシナリオがパズルを遊ぶモチベーションになるので、「やらされている」感やストレスは少ない。


(C)coly
 こうした『スタマイ』自体の面白さも注目に値するが、私がこの作品で本当に凄いと思うのは、本作がこれまで辿ってきた道であり、最初に触れたメディアミックスについてである。この作品はシナリオの力で成り上がってきた。本作は元々『ドラッグ王子とマトリ姫』というシナリオ買い切り型のゲームがベースにある。つまり元は完全にシナリオ勝負のゲームなのだ。その『ドラッグ〜』を、より広い年齢層に受けるように作り替え、さらにパズル要素を追加してゲーム性を高めたのが『スタマイ』である。


 そして、このたび『スタンド マイヒーローズ』としてのTVアニメ化まで決定した。まずシナリオで評価を受けたタイトルであるから、アニメとの相性は悪くないはずだ。個人的にはゲームではなかなか表現し辛いアクションシーンも盛り込んでほしいが、ともかく今は楽しみに待ちたい。シナリオ売り切り型から、完成度の高いパズルゲームとして、そしてTVアニメへ。一歩ずつしっかりと規模を拡大していく、それはまさに正当なメディアミックスの手順だが、先にも書いたように、この道を辿るのは容易ではない。ちなみにYouTubeに上がっている『ドラッグ王子とマトリ姫』の予告動画には、こんなキャッチコピーがついている。「正統派にして異例の恋愛ゲーム」まさにその通りである。


(加藤よしき)


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